終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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希望はのんびりスローライフ

転生は落下と共に

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「あんの、クソアマァァァァァァァァァ!!!」

 とっくに最高速度に達した落下は、この肌を凍らせる。
 星の果てから落ちていく身体は今、真っ白の世界を潜っていた。
 その水蒸気の固まりは一瞬の圧力に、頬に薄氷を貼り付けては去っていく。

「おいおいおい、どうすんだよコレ!!?どう考えても死んじまうだろうが!!せっかく転生したってのに、いきなり死ぬなんて洒落になってねぇぞ!!?」

 身体を反転させて、地上だと思われる方に顔を向けても、分厚い雲に景色が変わるわけもない。
 しかし今の高さとスピードが、この身体を殺すのに十分なのは分かる。
 絶対的な死の予感に、クロードは頭を抱えて喚き散らした。

「あ、そっか。そういや俺、死んでも大丈夫なんだった・・・なーんだ、心配して損・・じゃ、ねぇよ!!復活できるからって、誰も死にたくなんかねぇんだよ!!くそっ!こんなの絶対痛いじゃねぇか!!アニエス、てめぇ絶対許さ、って!!?」

 死の恐怖に怯える両手は、自らの能力を思い出すとポンと手を叩く。
 解消された死による喪失も、その恐怖を完全に払拭できるわけもない。
 再び反転したクロードは、自らが落ちてきたと思われる方角へと指を突きつけると、アニエスへと文句を叫ぼうとする。
 その言葉は、後頭部を叩いた衝撃に中断された。
 噛んだ舌に、それで二度目の死を経験しなかったのは幸運だろう。

「いってぇ・・・なんだよ、くそ!いや、本当になんだよ!?ここって、雲の上だろ?なんにぶつかったっていうんだよ・・・?」

 押さえて擦る後頭部に、悪態は疑問へと変わっていく。
 その答えを探して左右に首を振ってみても、周りは白一面の世界が広がるばかり、クロードの虚しい呟きだけが流れていく。

「まぁ、いいか・・・ん?光が・・・うぉ!?雲が切れる!」

 白一色だった世界に、一筋の光が差し込んでくる。
 周りを囲う環境の変化に、風が彼の黒髪を叩いて暴れていた。
 顔を覆った両手はもう、雲の最後を通り抜ける。

「うっ・・・わ、これは・・・」

 目の前に広がったのは、あまりに壮大すぎる世界だ。
 その果てから落ちた高さが、見渡せる広さを保障している。
 丸い輪郭すら覗く水平線には、真っ青な海が広がっていた。
 そこに今吹き上がった巨大な水飛沫は、もっと巨大な何かに覆い被されて消えていく。
 お互いの距離を考えれば、それはあまりに巨大な生き物だった。

「はは・・・なんだ、あれ?すげー、すげー!!!」

 圧倒的な巨大さなら、頭を振った逆側にも存在していた。
 天を突くような巨大な樹木が、その青々とした葉を生い茂らせている。
 その周辺を取り囲む森の木々と大きさを比べれば、そのあまりの巨大さに距離感が狂ってしまいそうだ。
 感嘆の声を上げたクロードは、思わずそちらへと手を伸ばしていた。
 いくら巨大に見えても、その手につかめる近くにはありはしない、それでも握った手の平には何か掴めたような気がした。

「異世界だ、異世界!!完全にファンタジーじゃん!うっわ、なんかワクワクしてきた!!他にも何か―――」


「ガアァァァァァァ!!!」
「グゥゥゥゥゥ!!ギィィィィ!!!」


 叩きつけるような音の衝撃が、自由落下に任していたクロードの身体を弾き飛ばす。
 それは、続いて訪れた突風よりはましだ。
 それを巻き起こしたものがあまりに速過ぎたために、真空の刃も伴ったそれは、事前に弾かれたクロードには押し退ける風だけを届けていた。
「うわっ!!?な、なんだ!?お、おい・・・まさか、嘘だろあれは・・・」
 衝撃に吹き飛ばされたクロードの視界は、滅茶苦茶に回転している。
 それが比較的早くに収まったのは、なんだかんだで彼もこの状況に慣れてきたからか、クロードは自らを吹き飛ばした存在へと目を向ける。

 そこには、ドラゴンがいた。

 赤と青の鱗を持った二匹のドラゴンが、お互いに絡まりあうようにして縺れ合っている。
 彼らが齎した叫び声と突風によって、クロードはかなりの距離を弾かれてしまっていた。
 それでもその二匹のドラゴンが齎す迫力は、心身を縮こまらせる程のものがあった。

「ドラゴンだ、ドラゴン!!本物、本物だよなあれ!!おーい、こっちに・・・いやいやいや、まずいまずい!死んでも大丈夫だけど、食われるのは流石に駄目じゃないか?あの大きさじゃ・・・俺なんて一口だろ?う~ん、そこらへんも聞いておくんだったなぁ」

 空想の中でしか存在しない生き物を目撃して興奮するクロードは、思わず彼らの注目を引こうと手を振ってしまう。
 それも自らの身の危険に、すぐに引っ込めた。
 アニエスから与えられた不死性を疑ってはいないが、果たしてそれがドラゴンの胃袋に耐えられるかは疑問だ、流石に復活しては溶かされるの繰り返すのはごめんだった。

「・・・もっと近くで見てみたいなぁ・・・あぁ!こんな事なら、テイム系の能力も貰っとくんだったな。完全に考えてなかったわ、そうだよなぁ・・・ドラゴンライダーとか、格好いいよなぁ・・・ん?あれは・・・?」

 クロードの心配をよそに、二匹のドラゴンはお互いに争うのに夢中で、他の事は眼中にないようだ。
 その迫力満点な戦いぶりに、クロードは思わずうっとりとした呟きを漏らす。
 彼の瞳に映るドラゴンの姿は、あまりに格好良すぎた。
 その姿に、クロードは早速自らの選択を後悔する。
 テイム系の能力といえば明らかな強能力だ、しかも彼が望む生活スタイルにも完全に合致している、彼は過去の自分に恨み言を漏らしていた。
 彼は手に入らないドラゴンに羨望の眼差しを向ける、彼らの片方は何かを吸い込むような動作を取っていた。

「おいおいおいおい!!?あれは、まさか・・・やばいっ!!」

 お互いの首やその付け根へと噛み合っていたドラゴンは、進まない戦局についに痺れを切らしたのか、彼らの奥の手を切ろうとしていた。

 ドラゴンの切り札、つまりブレスである。

 赤色の鱗を持つドラゴンはその首を擡げて、もう一匹のドラゴンに向かってブレスを放つ準備をしていた。
 その口腔内は、もはや眩い光を放っている。
 彼らと遭遇した時にはその上にいたクロードも、落下している時間に今はその下へと回っていた。
 彼は今、青色の鱗を持つドラゴンの背中を見ていた。
 ブレスはもう、放たれる。

「マジかマジかマジ―――」

 奔った閃光に、熱風が先に訪れる。
 熱いと感じたのは、それがまだ耐えられる温度だったから。
 痛みが手足を焦がす頃には、彼の意識は一瞬で焼き尽くされていた。
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