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トージロー
宴の後に
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「ふぁぁぁ・・・・あー、頭いてー・・・ちょっと飲みすぎたかなぁ」
朝の日差しが僅かに差し込むギルドには、昨日の夜とは打って変わって静かさが満ちている。
その中を一人、ひょっこりと目を覚ましたカレンは、硬い床で寝たことで凝り固まった身体を解すように、ゆっくりと身体を伸ばしていた。
「うわぁ!?レティシア、あんたなんて恰好で寝てんのよ!?風邪ひくわよ?レティシア、聞いてるー?」
伸ばした身体に痛む頭を擦っていたカレンは、自らの身体へと圧し掛かる重みへと視線を向けている。
そこには普段では考えられないほどに服装をはだけさせたレティシアが、幸せそうに涎を垂れしながら眠りこけていた。
「うへへへへ・・・駄目ですよぉカレン様ぁ、そこはトージロー様のために取っておくんですからぁ」
「駄目だこりゃ、当分目覚めそうもないな・・・うーん、昨日どんな事になってたんだっけ?不味い、楽しく飲んでたことしか憶えてないぞ・・・」
カレンの声に何やら不穏な寝言で返してくるレティシアに、彼女は昨夜の事をなにも思い出せないと頭を抱えていた。
「まぁ、多分大丈夫でしょ。どうせここにいるのなんて身内か、じゃなければただの酔っぱらいなんだし・・・それにしても、酷い有様ねぇ」
曖昧な記憶もそこであったのがお祝いの席だと考えれば、多少の事は大丈夫だろうとカレンは気持ちを切り替えている。
そんな彼女が視線を向けた先には、死屍累々と言った様子の冒険者達の姿が広がっていた。
「邪魔するでぇ・・・うわっ、何やこれ!?えらい有り様やなぁ・・・」
その騒ぎの参加者であったカレンですらドン引きする有り様は、部外者からすればさらに酷い光景となるだろう。
今その扉を開いてこの場へと足を踏み入れた恰幅のいい女性は、目にしたその光景に思わず驚きの声を上げてしまっていた。
「あっ、えーっと・・・そうだ、マニヤさん!どうしたんですか、こんな所にわざわざ?」
「誰が、マニヤやねん!マリアや、マリア!!どうしたもこうしたもあるかいな!!カレンはん、あんた忘れてはるんですか!?今日は約束の期限でっせ!!」
ギルドの扉を押し開いて、この乱雑とした場所に足を踏み入れたのは商人の女性、マリアであった。
彼女はそこら中に横になり、いびきをかいている冒険者達を慎重に避けながらカレンの前にまでやってくると、その惚けた顔に指を突きつけては大声で叫んでいた。
今日が、約束の期限だと。
「約束の期限・・・あっ!?」
その言葉に思い当たることのないカレンは、首を傾げては不思議そうにしている。
しかしそんな彼女もやがて気づくだろう、それが何を意味しているかを。
「その様子じゃ、残りの代金は用意しておらんようやな。ほな、あの神殿の跡地はうちのもんという事で・・・」
そもそもカレンがマリアと出会ったのは、大魔王エヴァンジェリンによって破壊された神殿の撤去と再建について話し合いでの場であった。
そこで再建のための資金を用意出来なかったカレンに、彼女は一か月の期限を設け、その時までに資金を用意出来なかったら、その土地を含めて彼女のものになるという約束を交わしたのだった。
それを今思い出したという様子のカレンに、当然そんな代金を用意しているとは期待出来ないマリアは、そのままその場を立ち去ろうとしている。
「ちょ、ちょっと待ってくださいマリアさん!!お金なら、お金ならあるんですよ!!ほら、私今回の事で特別依頼を達成したことになってまして!!そのお金がえーっと・・・あ、あった!!ほら、ここに!!」
この場をさっさと立ち去ろうとしているマリアに、カレンは慌てて彼女を引き留めると、近くに置いてあったはずのお金の袋を探している。
キョロキョロと焦った様子で辺りを探すカレンに、それは何故か幸せそうに眠っているレティシアが抱え込んでおり、彼女はそれを見つけると慌てて引きずり出していた。
「ほほぅ、そりゃ結構な事で・・・それで、ちゃんと足りるんでっしゃろな?」
「えっと・・・お幾らでしたっけ?」
「十万リディカや!!一リディカもまけられへんで!!きっちり払ってもらいますさかいに!!」
ずっしりと重い硬貨袋は、そこに大金が詰まっていることを示している。
それを抱えたカレンにマリアは足を止めると、そこにちゃんと必要な代金が揃っているのか尋ねていた。
そんなマリアの言葉にまたしても惚けた返事を返すカレンに、彼女は近くのテーブルを叩いては、その代金の額を叫んでいた。
「あっ、その額なら丁度―――」
マリアから改めてその代金の額を聞いたカレンは、それに嬉しそうな表情を見せている。
特別依頼を達成した事による報酬と、今回の騒動の活躍によって領主から支払われた褒賞金、それらを合わせれば丁度そのぐらいの金額になった筈なのだ。
「どーもー!いやいや、カレン様。この度はご活躍で!お祝いを申し上げます!!早速なのですが、ツケになっていた代金の方をお支払いいただきたく・・・あぁ、もう用意されていらしたのですね!それでは私共の分を・・・」
それに嬉しそうに硬貨袋を掲げて見せていたカレンの前に、ギルドの扉を押し開いては入ってきた集団が現れる。
彼らはよく見れば、それはカレンがかつてつけで商品を購入してきた商店の店員達であった。
「え、あの・・・ちょ、ちょっと待って―――」
彼らの先頭を歩く、カレンがかつて冒険用の小物や鞄を買った店の店員は、問答無用といった様子で彼女が手にして硬貨袋から必要な代金を回収していく。
そんな彼らの動きにカレンは当然戸惑い何とか止めようとしていたが、その声に聞く耳を持つ者などそこには一人もいなかった。
「おい、急いでくれよ」
「あぁ、分かっておりますとも。私共は終わりましたので、次の方どうぞ」
先頭の一人目が終わったかと思うと、次から次へと別の商店の者が現れ、カレンが持つ硬貨袋からツケの代金を回収していく。
目まぐるしく入れ替わっていくそれがようやく終わりを迎えた頃には、カレンの手には大分軽くなってしまった硬貨袋だけが残されていた。
「・・・えらい、少のうなってしまいましたな」
その事実を端的に指摘する、マリアの声は冷たい。
それはその量が、彼女が必要とするものと比べて、明らかに少ないからだろう。
「こ、これで期限の延長とかは・・・?」
「出来る訳おまへんでっしゃろ?まぁ、これは慰謝料として貰っときますわ」
それが必要とする代金に足りないのは分かっているカレンは、せめてこれで期限だけでも延長出来ないかとマリアに頼み込んでいる。
しかしマリアはそれをにべもなく断ると、意外な理由で彼女の手からそれをふんだくっていた。
「い、慰謝料?」
「何や、乙女の純情を無理やり奪っといて、何か文句でもおまんのか?」
何の事か訳が分からないと驚くカレンに、そのまま去っていこうとしていた足を止め、振り返ったマリアの瞳は冷たい。
彼女は不機嫌そうに唇を拭って見せると、それが何の事であるかをカレンに教えていた。
「も、文句なんて滅相も!!どうぞ、お持ち帰りください!!」
「ふんっ!分かればええんや、分かれば」
自分がマリアにやったことを思い出したカレンは、ただただ彼女に頭を下げ謝罪の言葉を告げている。
そんな彼女の姿に鼻を鳴らしたマリアは、一瞬だけこのギルドの中で寝こけているトージローへと視線を向けると、ふんだくった硬貨袋を懐へとしまっていた。
「え、えーっと・・・そうなりますと、もしかして私の神殿は・・・?」
「うちのもん、という事になりますわな。ま、あそこの跡地に何か建てるんか決まったら連絡しますんで、一回見に来たって下さいや。ほな!」
期限までに支払うことが出来なかった代金に、カレンは最悪の未来を信じたくはないと、縋るようにマリアへと尋ねている。
その質問に答えるマリアの声は、淡白だ。
彼女はそれに簡潔に答えると、そのまま振り返りもせずにその場を後にする。
その場に残ったのは呆然とした表情で立ち尽くす、カレンだけとなっていた。
「何で・・・何で、こーなるのぉぉぉ!!!?」
絶望に一歩二歩と踏み出し、やがてその場に崩れ落ちたカレンは、ギルドの古ぼけた天井を見つめ叫ぶ。
その絶望の叫び声に、ギルドで寝こけていた何人かの者達がのろのろと起きだしていた。
朝の日差しが僅かに差し込むギルドには、昨日の夜とは打って変わって静かさが満ちている。
その中を一人、ひょっこりと目を覚ましたカレンは、硬い床で寝たことで凝り固まった身体を解すように、ゆっくりと身体を伸ばしていた。
「うわぁ!?レティシア、あんたなんて恰好で寝てんのよ!?風邪ひくわよ?レティシア、聞いてるー?」
伸ばした身体に痛む頭を擦っていたカレンは、自らの身体へと圧し掛かる重みへと視線を向けている。
そこには普段では考えられないほどに服装をはだけさせたレティシアが、幸せそうに涎を垂れしながら眠りこけていた。
「うへへへへ・・・駄目ですよぉカレン様ぁ、そこはトージロー様のために取っておくんですからぁ」
「駄目だこりゃ、当分目覚めそうもないな・・・うーん、昨日どんな事になってたんだっけ?不味い、楽しく飲んでたことしか憶えてないぞ・・・」
カレンの声に何やら不穏な寝言で返してくるレティシアに、彼女は昨夜の事をなにも思い出せないと頭を抱えていた。
「まぁ、多分大丈夫でしょ。どうせここにいるのなんて身内か、じゃなければただの酔っぱらいなんだし・・・それにしても、酷い有様ねぇ」
曖昧な記憶もそこであったのがお祝いの席だと考えれば、多少の事は大丈夫だろうとカレンは気持ちを切り替えている。
そんな彼女が視線を向けた先には、死屍累々と言った様子の冒険者達の姿が広がっていた。
「邪魔するでぇ・・・うわっ、何やこれ!?えらい有り様やなぁ・・・」
その騒ぎの参加者であったカレンですらドン引きする有り様は、部外者からすればさらに酷い光景となるだろう。
今その扉を開いてこの場へと足を踏み入れた恰幅のいい女性は、目にしたその光景に思わず驚きの声を上げてしまっていた。
「あっ、えーっと・・・そうだ、マニヤさん!どうしたんですか、こんな所にわざわざ?」
「誰が、マニヤやねん!マリアや、マリア!!どうしたもこうしたもあるかいな!!カレンはん、あんた忘れてはるんですか!?今日は約束の期限でっせ!!」
ギルドの扉を押し開いて、この乱雑とした場所に足を踏み入れたのは商人の女性、マリアであった。
彼女はそこら中に横になり、いびきをかいている冒険者達を慎重に避けながらカレンの前にまでやってくると、その惚けた顔に指を突きつけては大声で叫んでいた。
今日が、約束の期限だと。
「約束の期限・・・あっ!?」
その言葉に思い当たることのないカレンは、首を傾げては不思議そうにしている。
しかしそんな彼女もやがて気づくだろう、それが何を意味しているかを。
「その様子じゃ、残りの代金は用意しておらんようやな。ほな、あの神殿の跡地はうちのもんという事で・・・」
そもそもカレンがマリアと出会ったのは、大魔王エヴァンジェリンによって破壊された神殿の撤去と再建について話し合いでの場であった。
そこで再建のための資金を用意出来なかったカレンに、彼女は一か月の期限を設け、その時までに資金を用意出来なかったら、その土地を含めて彼女のものになるという約束を交わしたのだった。
それを今思い出したという様子のカレンに、当然そんな代金を用意しているとは期待出来ないマリアは、そのままその場を立ち去ろうとしている。
「ちょ、ちょっと待ってくださいマリアさん!!お金なら、お金ならあるんですよ!!ほら、私今回の事で特別依頼を達成したことになってまして!!そのお金がえーっと・・・あ、あった!!ほら、ここに!!」
この場をさっさと立ち去ろうとしているマリアに、カレンは慌てて彼女を引き留めると、近くに置いてあったはずのお金の袋を探している。
キョロキョロと焦った様子で辺りを探すカレンに、それは何故か幸せそうに眠っているレティシアが抱え込んでおり、彼女はそれを見つけると慌てて引きずり出していた。
「ほほぅ、そりゃ結構な事で・・・それで、ちゃんと足りるんでっしゃろな?」
「えっと・・・お幾らでしたっけ?」
「十万リディカや!!一リディカもまけられへんで!!きっちり払ってもらいますさかいに!!」
ずっしりと重い硬貨袋は、そこに大金が詰まっていることを示している。
それを抱えたカレンにマリアは足を止めると、そこにちゃんと必要な代金が揃っているのか尋ねていた。
そんなマリアの言葉にまたしても惚けた返事を返すカレンに、彼女は近くのテーブルを叩いては、その代金の額を叫んでいた。
「あっ、その額なら丁度―――」
マリアから改めてその代金の額を聞いたカレンは、それに嬉しそうな表情を見せている。
特別依頼を達成した事による報酬と、今回の騒動の活躍によって領主から支払われた褒賞金、それらを合わせれば丁度そのぐらいの金額になった筈なのだ。
「どーもー!いやいや、カレン様。この度はご活躍で!お祝いを申し上げます!!早速なのですが、ツケになっていた代金の方をお支払いいただきたく・・・あぁ、もう用意されていらしたのですね!それでは私共の分を・・・」
それに嬉しそうに硬貨袋を掲げて見せていたカレンの前に、ギルドの扉を押し開いては入ってきた集団が現れる。
彼らはよく見れば、それはカレンがかつてつけで商品を購入してきた商店の店員達であった。
「え、あの・・・ちょ、ちょっと待って―――」
彼らの先頭を歩く、カレンがかつて冒険用の小物や鞄を買った店の店員は、問答無用といった様子で彼女が手にして硬貨袋から必要な代金を回収していく。
そんな彼らの動きにカレンは当然戸惑い何とか止めようとしていたが、その声に聞く耳を持つ者などそこには一人もいなかった。
「おい、急いでくれよ」
「あぁ、分かっておりますとも。私共は終わりましたので、次の方どうぞ」
先頭の一人目が終わったかと思うと、次から次へと別の商店の者が現れ、カレンが持つ硬貨袋からツケの代金を回収していく。
目まぐるしく入れ替わっていくそれがようやく終わりを迎えた頃には、カレンの手には大分軽くなってしまった硬貨袋だけが残されていた。
「・・・えらい、少のうなってしまいましたな」
その事実を端的に指摘する、マリアの声は冷たい。
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何の事か訳が分からないと驚くカレンに、そのまま去っていこうとしていた足を止め、振り返ったマリアの瞳は冷たい。
彼女は不機嫌そうに唇を拭って見せると、それが何の事であるかをカレンに教えていた。
「も、文句なんて滅相も!!どうぞ、お持ち帰りください!!」
「ふんっ!分かればええんや、分かれば」
自分がマリアにやったことを思い出したカレンは、ただただ彼女に頭を下げ謝罪の言葉を告げている。
そんな彼女の姿に鼻を鳴らしたマリアは、一瞬だけこのギルドの中で寝こけているトージローへと視線を向けると、ふんだくった硬貨袋を懐へとしまっていた。
「え、えーっと・・・そうなりますと、もしかして私の神殿は・・・?」
「うちのもん、という事になりますわな。ま、あそこの跡地に何か建てるんか決まったら連絡しますんで、一回見に来たって下さいや。ほな!」
期限までに支払うことが出来なかった代金に、カレンは最悪の未来を信じたくはないと、縋るようにマリアへと尋ねている。
その質問に答えるマリアの声は、淡白だ。
彼女はそれに簡潔に答えると、そのまま振り返りもせずにその場を後にする。
その場に残ったのは呆然とした表情で立ち尽くす、カレンだけとなっていた。
「何で・・・何で、こーなるのぉぉぉ!!!?」
絶望に一歩二歩と踏み出し、やがてその場に崩れ落ちたカレンは、ギルドの古ぼけた天井を見つめ叫ぶ。
その絶望の叫び声に、ギルドで寝こけていた何人かの者達がのろのろと起きだしていた。
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