ボケ老人無双

斑目 ごたく

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トージロー

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「「乾杯!!」」

 乱暴に合わせられた木の杯に、そこに満たされた黄金の液体が派手にぶちまけられる。
 それを誰も気にしていないのは、それが何度目の乾杯か分からないほどに繰り返されたことだからか。
 その建物の中に簡易的な酒場も併設された冒険者ギルドの中では、今まさに祝勝会の真っ最中であった。
 その主役の一人である金髪の少女、カレンは乱暴に合わせた乾杯によって若干少なくなってしまった杯の中身を飲み干すと、それを近くのテーブルへと叩きつけていた。

「かー!!このために生きてるぅ!!!・・・ん?何よ、ルイス!!あんた杯の中身が空っぽじゃない!?ちゃんと飲んでんのー?このこのー」
「いや、俺はいいよ・・・それ、不味いし」

 飲み干した黄金の液体に、酒臭い息をたっぷりと吐きだしたカレンは、その近くで摘みをちびちびと齧っていたルイスへと肩を寄せると、その杯の中身が空だと絡み始めていた。
 ルイスはそれが今夜で初めての事ではなかったのか、絡んでくるカレンにうんざりとした表情を見せると、舌の先端を出してはそれに合わないのだとはっきりと示していた。

「何だとー?いいから飲みなさいよ!!このエクスプローラー級冒険者様のお酒が飲めないっていうの!?」

 明らかな拒絶を示すルイスにも、カレンは近くのジョッキを掴むと、一方的にその杯へとお酒をなみなみと注いでいく。
 そんな彼女は、かつて降格された筈の冒険者階級を誇らしそうに口にしている。
 そう、彼女は今度の活躍で領主であるリータスに許され、その階級も元のエクスプローラー級へと返り咲いていたのだった。

「カレン様そのぐらいで・・・ルイスさんはまだお子様ですから」

 完全に悪い絡み方をしているカレンに、彼女がルイスへと押しつけている杯を横から取り上げる手が伸びる。
 それはこの街の領主の娘、レティシアのものだった。

「はー!?誰がお子様だとぉ!?こんなもんなぁ、余裕だっての!!」
「あ、ちょっと!?そんな一遍に呑んだら・・・」
「ごくごくごく・・・う~ん」
「あ、あら・・・?」

 しかしその制止はどうやら逆効果だったようで、レティシアにまだ子供だと言われたことが気に食わないルイスは、カレンの手からお酒がなみなみはいった杯を奪い取ると、それを一気に飲み干してしまっていた。
 そしてそのままゆっくりと倒れていく彼の姿に、レティシアは戸惑うように頬へと手を当てていた。

「あーあ、言わんこっちゃない・・・ほら、メイ。こいつを向こうに連れていってあげて。そこに酔いつぶれた奴らを介抱してくれてる人達がいるから」
「・・・ん」

 真っ赤な顔で床で倒れ何やら呻き声を漏らし始めているルイスに、カレンは頭を抱えると彼を介抱させてくれる場所に運ぶように、傍で揚げ物を摘まんでいたメイへと声を掛けている。
 カレンの指示を受けたメイは言葉少なに頷くと、その油塗れの指先を拭う事もせずにルイスをズルズルと引きずっていく。

「駄目よ、レティシア。ああいうのは、子ども扱いするとキレるんだから」
「はい、以後気をつけます・・・」

 メイがルイスを引きずっていくのを見送ったカレンは、自らの空になった杯へと新たなお酒を注ぐと、それを軽く煽っている。
 そんな彼女にルイスの扱いについて軽く注意されたレティシアは、肩をすぼめては小さくなってしまっていた。

「それより、よかったのレティシア?向こうにいかないで」
「あぁ、それは・・・殿方には殿方の付き合いがございますので」
「・・・ふぅん」

 先ほどまでルイスが座っていた席につき、肩をすぼめているレティシアに対して、カレンはこのギルドのある場所へと視線を向けながら、彼女にそちらへと向かわなくて良かったのかと尋ねていた。
 それはトージローが周りを多数の男達に囲まれて、何やら盛り上がっている場所であった。

「だから前から言ってんだろ!!この爺さんはとんでもねぇってな!!」
「分かったから、暴れんなってグルド!!仕方ねぇだろ?こんな爺さんがあんなに強いなんて、誰も思わねぇって!!」
「はははっ、違いねぇ!!それが今や、ナイト級冒険者様だからな・・・本当、人は見かけによらねぇなぁ!!」

 トージローの周りを取り囲む冒険者達は、彼を酒の肴にしては盛り上がっているようだ。
 その中でもとりわけ大声で騒いでいるのは、屈強な身体を誇る冒険者、グルドだろう。
 彼は今更になってようやくトージローの実力に気づいた周りに対して、俺は前から言っていたと声高に主張しては絡んでいた。

「ふぉふぉふぉ、何じゃ祭りか!?ええのぅ、若いもんは賑やかで!」
「はははっ、そうだ祭りだぞ爺さん!!ほらほら、あんたも飲んだ飲んだ!!」
「おぉ、こりゃありがたい!!ごくっごくっごくっ・・・かー!!きくのぅこいつは!!何という酒じゃ?」

 周りの賑やかな雰囲気に、トージローもつられては楽しそうにしている。
 そんな彼に対して、グルドは酒を勧めるとその杯に対してなみなみと注いでいく。
 それを受け取り嬉しそうに声を上げたトージローは、一気にそれを飲み干すと気持ちよさそうに酒臭い息を吐いていた。

「ははははっ、こりゃ凄ぇ!!流石はナイト級冒険者様だ!飲みっぷりも違うねぇ!!」
「ほらほら、どんどん飲みな!!」

 トージローのその豪快な飲みっぷりを目にした冒険者達は、それに手を叩いて喜ぶと彼にさらに酒を勧めている。
 それをトージローも嬉しそうに受け取ると、更に豪快な飲みっぷりを披露していた。

「はー・・・一気にナイト級かぁ。やっぱり敵わないな、あいつには・・・」
「・・・カレン様」

 その実力を認められたことで、カレンを飛び越し一気にナイト級にまで昇格したトージローに、彼女は羨望の視線を向けながらも敵わないと溜め息を漏らす。
 そんな彼女の対して、レティシアはどう言葉を掛ければいいのかと躊躇っていた。

「その、えっと・・・り、立派でしたよカレン様も―――」
「・・・踊ろうレティシア!!今夜は目一杯!!」
「・・・へ?」

 目をキョロキョロと迷わせながら、何とか言葉を選んだレティシアに、カレンは俯かせていた顔を突然上げ、突拍子もないことを口走っていた。

「ほら、レティシアも早く!!」
「え、あの・・・カレン様、そんなはしたないこと私には・・・きゃあ!?」

 そしていきなり目の前のテーブルの上へと乗り上げたカレンは、レティシアにも来いと手を伸ばしている。
 そんなカレンの振る舞いにレティシアは戸惑うが、彼女はそれを許すことなくレティシアを無理やり引っ張り上げていた。

「さー!!今夜は踊るぞー!!」

 飲み過ぎたお酒に顔を真っ赤に染めたカレンは、レティシアの手を取っては無理やり踊りだす。
 荒っぽい冒険者にしょっちゅう壊されるためか、いつ壊されてもいい値段の安物のテーブルは、その上で暴れる二人の体重にギシギシと軋んだ音を立てている。
 そんな危なっかしさも楽しいと、カレンは踏み出すステップをさらに激しくしていた。

「いいぞいいぞ、姉ちゃん達ー!!」
「ひゅー!!やるねぇ!!」
「おらー、脱げ脱げー!!そんなんじゃ興奮しねぇぞー!!」

 テーブルの上に載っては激しく踊りだした美少女二人に、それに気づいた冒険者達がそれに歓声を上げる。
 彼らは彼女達の無茶苦茶な踊りを囃し立てると、さらに激しく騒ぎ始めていた。
 その馬鹿騒ぎは留まる事を知らず、夜半を過ぎても終わる事はなかった。
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