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トージロー
初めての光景 2
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「・・・って、レティシア様!?どこに行こうとなされてるんですか!?」
「皆が戦っているのです!私だけがここでこうして見ているだけなど・・・私も戦います!!」
想定していた状況と違い、厄介なことになったと頭を抱えているエステルの目の前で、レティシアがふらふらとこの場を離れようとしている。
それを慌てて止める彼女に、レティシアは自分も戦いに参加すると主張していた。
「だ、駄目ですって!!レティシア様!!」
「何故ですか!?私も貴族の娘です!こうした時にこそ貴族たる務めを果たさなければならないのではないのですか!?」
「そうかもしれませんけど!!そういう事は私が見てない時に!!私の責任にならない時にお願いしますー!!」
レティシアの身体に抱き着いて、必死に彼女を止めようとするエステルに、レティシアは貴族として責務を口にしては、その戦いに向かおうとしている。
そんなレティシアの立派な志に、エステルは自分の責任にならない場面ならば大歓迎だと、下種な本音を漏らしては彼女を何とか止めようとしていた。
「そうだ、レティシア!!お前はそこでじっとしているんだ!!」
「ほ、ほら!!お父様もそう申されている事ですし!!ここは大人しくしときましょ?ね、ね?」
そんな二人のやり取りに、レティシアの父親であるリータスが口を挟んでくる。
そのままそこで大人しくしていろという彼の言葉に、エステルも心強い味方を得たとレティシアを宥めようとしていた。
「大体なんだ、お前達は!!皆して、あの眷属の方へと向かって・・・大事なのは向こうの方だろう!?あのドラクロワとかいう吸血鬼の方だ!!だというのに、それをあんな老人一人に任せて・・・お前達は正気なのか!?倒さなければならないのは、そちらではないだろう!?まともなのは・・・まともなのは私だけなのか!?」
リータスの援護を受けたエステルの説得を聞いても、レティシアは不満げな表情なままだ。
そんな彼女に、エステルが更なる援護を求めても、リータスは別の事に不満があるようだった。
彼が今ぶちまけている不満は、グルド達やレティシアも全て、ヴァーデというドラクロワの眷属でしかないものに掛かりっきりで、本命であるドラクロワをトージローという老人一人に任せている事であった。
それが信じられないと、リータスは指を突きつけては叫んでいる。
「あぁ?そりゃ当たり前だろう、領主の旦那よぉ。あの爺さんに任せときゃ、あんなのどうってこたぁないぜ」
「ま、そうだな。俺としては、あの爺さんが向こう吸血鬼をさっさと倒してくれることが願いだけどね。そうすりゃ、こっちの眷属とやらも一緒に消え去るってもんだろうから」
「おっと、そんな可能性も有り得んのか。だったら急がねぇとな」
そんなリータスの言葉に、グルド達は当たり前だろうと肩を竦めて見せていた。
トージローの実力を目撃している彼らにとって、彼がドラクロワに手こずるなど考えられない事であった。
「は?正気かお前達、あんな老人があの吸血鬼を倒すだと・・・先ほどの戦いを見なかったのか!?いや、お前達は見ていなかったのだったな!だが、この広場の状況を見れば分かるだろう!?この数の冒険者がやられたのだ!!だというのに、あの老人一人で・・・はっ、この街の冒険者の質も落ちたものだ!!腕が立つというので娘の救出を任せた冒険者が、この程度とは!!」
グルド達の言葉に信じられないと言葉を失っていたリータスは、短い沈黙の後で爆発するように喋りだしている。
自らの胸の前に両手を差し出していた彼は、やがて匙を投げだすようにその手を振るって、この街の冒険者の質の低下を嘆いていた。
「師匠なら、楽勝に、決まってんだろ!!」
「・・・勝利は確定事項」
グルド達の言葉に、ヴァーデと戦っているルイス達も加わる。
彼らは合流したグルドと協力して、何とかヴァーデを抑え込もうとしていた。
「お前達はあの老人の弟子とかいったか。年齢の割に腕が立つことは認めるが、それが何だというんだ?百歩譲ってあれが師として優秀だとしても、それが戦士として優秀であることを証明する訳ではない。第一、とっくに引退している年齢だろう?何か間違っているか、私は?」
トージローの弟子を名乗る二人がいくら師匠の事を擁護しても、それはリータスの心には響かない。
確かに二人の年齢を鑑みれば信じられないその実力に、トージローが師として優秀なのは間違いないのかもしれない。
しかしそれは、彼が戦士として優秀であることを保証してはいなかった。
「トージロー様は勝ちますわ、お父様。あの時、私を救ってくれたように・・・今度は皆を、この街を救ってくれるのです。あぁ、トージロー様・・・やはり、私も戦います!!」
「ちょ!?だから駄目ですって!!」
トージローの勝利を一片たりとも疑わないレティシアは、うっとりとその姿を見詰め両手を組んでいる。
そうして再び発作のように自分も戦うと突撃しだした彼女に、エステルは必死な形相でその身体を押さえていた。
「レティシア・・・あぁ、そうだったなお前はあの老人を・・・何だ!?本当にまともなのは私だけなのか!?皆揃って、あの老人ならば勝てると軽々しく口にしおって・・・そんな訳がないだろう!!?」
恋に焦がれる乙女の表情でトージローを見詰めるレティシアの姿に、それを思い出したリータスはがっくりと肩を落としている。
そうしてこの場の皆がトージローの事を支持する異常な状況に、彼は周り全てが頭がおかしくなったのではと頭を抱えてしまっていた。
「ちょっと新鮮かも・・・トージローの力を認める方が多数派になるなんて」
その光景は、カレンには新鮮であった。
トージローはその見た目と振る舞いから、その力を侮られ、どんなにカレンがそれを主張しても信じられないのが常であった。
しかしこの場では、それが逆転しているのだ。
その事実がカレンには嬉しく、僅かに口元を綻ばせてしまう。
「カレン・アシュクロフト!」
「は、はい!な、何でしょうか!?」
「こうなったら君に頼るしかない!!先ほどは後れを取っていたようだが・・・まだまだやれるだろう!?」
「え、えーっと、それは・・・」
そんなカレンに、リータスが声を掛けてくる。
その声に背中を跳ねさせたカレンに、リータスはこの場に頼れるのはカレンだけだと、もう一度ドラクロワと戦うように求めていた。
「まさか、君もあの老人が頼りとは言うまいな?」
「えっ!?ま、まぁ・・・何と申しますか・・・」
カレンとしてはここで何とか活躍して、リータスに処分の撤回を求めたいのだ。
その手前、トージローが頼みの綱だとは言い辛い。
そんな板挟み苦しむカレンの怪しい振る舞いに、リータスは目を細めると疑いの視線を向けてきていた。
「ルイスさん、メイさん!今、助けに向かいますわ!!」
「あっ!レティシアが危ない!私も行かないと!!」
リータスの鋭い視線に追いつめられ、カレンがもはや誤魔化すのも限界だと諦めかけていると、その視線を横切るように女性の影が飛び出していた。
それはリータスの娘である、レティシアだ。
彼女はエステルの制止を振り切ると、トージローの弟子である二人を手助けしようと飛び出していく。
カレンはその姿に、これ幸いと自らも杖を抱えては飛び出していた。
「何だと、まだ話は終わって・・・えぇい!そこのギルド職員、何をやっている!!さっさと娘を連れ帰ってくるのだ!!」
「わ、私がやるんですか!?そ、それはちょっと・・・業務の範囲外というか」
「いいから・・・さっさとやらんか!!!」
「ひぃぃ!!?た、直ちに!!」
会話を途中で断ち切ってヴァーデとの戦いに向かうカレンに、リータスはまだ話は終わっていないと追いすがろうとする。
しかしそんな事よりも娘の身の安全の方が大事だと頭を掻き毟る彼は、レティシアを取り逃がしてしまったエステルに、彼女をさっさと連れ帰れと命令していた。
それに危険すぎると難色を示すエステルも、領主である彼に一喝されれば為す術なく、涙を浮かべながらも必死な表情でレティシアの後を追いかけていく。
「・・・転職、考えた方がいいのかな?」
「何やってんの、ピーター君!!早く早く!!」
「はぁ・・・はいはい、今行きますよ先輩!」
そんなエステルの姿を見送りながら、ピーターは一人溜め息を漏らす。
そんな彼に、エステルは振り返ると早く来いと頻りに手を振っていた。
それに一際深い溜め息を漏らしたピーターは、諦めたようにその後ろへと歩みを進めていくのだった。
「皆が戦っているのです!私だけがここでこうして見ているだけなど・・・私も戦います!!」
想定していた状況と違い、厄介なことになったと頭を抱えているエステルの目の前で、レティシアがふらふらとこの場を離れようとしている。
それを慌てて止める彼女に、レティシアは自分も戦いに参加すると主張していた。
「だ、駄目ですって!!レティシア様!!」
「何故ですか!?私も貴族の娘です!こうした時にこそ貴族たる務めを果たさなければならないのではないのですか!?」
「そうかもしれませんけど!!そういう事は私が見てない時に!!私の責任にならない時にお願いしますー!!」
レティシアの身体に抱き着いて、必死に彼女を止めようとするエステルに、レティシアは貴族として責務を口にしては、その戦いに向かおうとしている。
そんなレティシアの立派な志に、エステルは自分の責任にならない場面ならば大歓迎だと、下種な本音を漏らしては彼女を何とか止めようとしていた。
「そうだ、レティシア!!お前はそこでじっとしているんだ!!」
「ほ、ほら!!お父様もそう申されている事ですし!!ここは大人しくしときましょ?ね、ね?」
そんな二人のやり取りに、レティシアの父親であるリータスが口を挟んでくる。
そのままそこで大人しくしていろという彼の言葉に、エステルも心強い味方を得たとレティシアを宥めようとしていた。
「大体なんだ、お前達は!!皆して、あの眷属の方へと向かって・・・大事なのは向こうの方だろう!?あのドラクロワとかいう吸血鬼の方だ!!だというのに、それをあんな老人一人に任せて・・・お前達は正気なのか!?倒さなければならないのは、そちらではないだろう!?まともなのは・・・まともなのは私だけなのか!?」
リータスの援護を受けたエステルの説得を聞いても、レティシアは不満げな表情なままだ。
そんな彼女に、エステルが更なる援護を求めても、リータスは別の事に不満があるようだった。
彼が今ぶちまけている不満は、グルド達やレティシアも全て、ヴァーデというドラクロワの眷属でしかないものに掛かりっきりで、本命であるドラクロワをトージローという老人一人に任せている事であった。
それが信じられないと、リータスは指を突きつけては叫んでいる。
「あぁ?そりゃ当たり前だろう、領主の旦那よぉ。あの爺さんに任せときゃ、あんなのどうってこたぁないぜ」
「ま、そうだな。俺としては、あの爺さんが向こう吸血鬼をさっさと倒してくれることが願いだけどね。そうすりゃ、こっちの眷属とやらも一緒に消え去るってもんだろうから」
「おっと、そんな可能性も有り得んのか。だったら急がねぇとな」
そんなリータスの言葉に、グルド達は当たり前だろうと肩を竦めて見せていた。
トージローの実力を目撃している彼らにとって、彼がドラクロワに手こずるなど考えられない事であった。
「は?正気かお前達、あんな老人があの吸血鬼を倒すだと・・・先ほどの戦いを見なかったのか!?いや、お前達は見ていなかったのだったな!だが、この広場の状況を見れば分かるだろう!?この数の冒険者がやられたのだ!!だというのに、あの老人一人で・・・はっ、この街の冒険者の質も落ちたものだ!!腕が立つというので娘の救出を任せた冒険者が、この程度とは!!」
グルド達の言葉に信じられないと言葉を失っていたリータスは、短い沈黙の後で爆発するように喋りだしている。
自らの胸の前に両手を差し出していた彼は、やがて匙を投げだすようにその手を振るって、この街の冒険者の質の低下を嘆いていた。
「師匠なら、楽勝に、決まってんだろ!!」
「・・・勝利は確定事項」
グルド達の言葉に、ヴァーデと戦っているルイス達も加わる。
彼らは合流したグルドと協力して、何とかヴァーデを抑え込もうとしていた。
「お前達はあの老人の弟子とかいったか。年齢の割に腕が立つことは認めるが、それが何だというんだ?百歩譲ってあれが師として優秀だとしても、それが戦士として優秀であることを証明する訳ではない。第一、とっくに引退している年齢だろう?何か間違っているか、私は?」
トージローの弟子を名乗る二人がいくら師匠の事を擁護しても、それはリータスの心には響かない。
確かに二人の年齢を鑑みれば信じられないその実力に、トージローが師として優秀なのは間違いないのかもしれない。
しかしそれは、彼が戦士として優秀であることを保証してはいなかった。
「トージロー様は勝ちますわ、お父様。あの時、私を救ってくれたように・・・今度は皆を、この街を救ってくれるのです。あぁ、トージロー様・・・やはり、私も戦います!!」
「ちょ!?だから駄目ですって!!」
トージローの勝利を一片たりとも疑わないレティシアは、うっとりとその姿を見詰め両手を組んでいる。
そうして再び発作のように自分も戦うと突撃しだした彼女に、エステルは必死な形相でその身体を押さえていた。
「レティシア・・・あぁ、そうだったなお前はあの老人を・・・何だ!?本当にまともなのは私だけなのか!?皆揃って、あの老人ならば勝てると軽々しく口にしおって・・・そんな訳がないだろう!!?」
恋に焦がれる乙女の表情でトージローを見詰めるレティシアの姿に、それを思い出したリータスはがっくりと肩を落としている。
そうしてこの場の皆がトージローの事を支持する異常な状況に、彼は周り全てが頭がおかしくなったのではと頭を抱えてしまっていた。
「ちょっと新鮮かも・・・トージローの力を認める方が多数派になるなんて」
その光景は、カレンには新鮮であった。
トージローはその見た目と振る舞いから、その力を侮られ、どんなにカレンがそれを主張しても信じられないのが常であった。
しかしこの場では、それが逆転しているのだ。
その事実がカレンには嬉しく、僅かに口元を綻ばせてしまう。
「カレン・アシュクロフト!」
「は、はい!な、何でしょうか!?」
「こうなったら君に頼るしかない!!先ほどは後れを取っていたようだが・・・まだまだやれるだろう!?」
「え、えーっと、それは・・・」
そんなカレンに、リータスが声を掛けてくる。
その声に背中を跳ねさせたカレンに、リータスはこの場に頼れるのはカレンだけだと、もう一度ドラクロワと戦うように求めていた。
「まさか、君もあの老人が頼りとは言うまいな?」
「えっ!?ま、まぁ・・・何と申しますか・・・」
カレンとしてはここで何とか活躍して、リータスに処分の撤回を求めたいのだ。
その手前、トージローが頼みの綱だとは言い辛い。
そんな板挟み苦しむカレンの怪しい振る舞いに、リータスは目を細めると疑いの視線を向けてきていた。
「ルイスさん、メイさん!今、助けに向かいますわ!!」
「あっ!レティシアが危ない!私も行かないと!!」
リータスの鋭い視線に追いつめられ、カレンがもはや誤魔化すのも限界だと諦めかけていると、その視線を横切るように女性の影が飛び出していた。
それはリータスの娘である、レティシアだ。
彼女はエステルの制止を振り切ると、トージローの弟子である二人を手助けしようと飛び出していく。
カレンはその姿に、これ幸いと自らも杖を抱えては飛び出していた。
「何だと、まだ話は終わって・・・えぇい!そこのギルド職員、何をやっている!!さっさと娘を連れ帰ってくるのだ!!」
「わ、私がやるんですか!?そ、それはちょっと・・・業務の範囲外というか」
「いいから・・・さっさとやらんか!!!」
「ひぃぃ!!?た、直ちに!!」
会話を途中で断ち切ってヴァーデとの戦いに向かうカレンに、リータスはまだ話は終わっていないと追いすがろうとする。
しかしそんな事よりも娘の身の安全の方が大事だと頭を掻き毟る彼は、レティシアを取り逃がしてしまったエステルに、彼女をさっさと連れ帰れと命令していた。
それに危険すぎると難色を示すエステルも、領主である彼に一喝されれば為す術なく、涙を浮かべながらも必死な表情でレティシアの後を追いかけていく。
「・・・転職、考えた方がいいのかな?」
「何やってんの、ピーター君!!早く早く!!」
「はぁ・・・はいはい、今行きますよ先輩!」
そんなエステルの姿を見送りながら、ピーターは一人溜め息を漏らす。
そんな彼に、エステルは振り返ると早く来いと頻りに手を振っていた。
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