ボケ老人無双

斑目 ごたく

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トージロー

祖父の所業

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「ほほぅ・・・私の攻撃を受け止めるとは、中々出来るようだな。一体何者・・・何だ、そいつは?」

 雑に振り払っただけの一撃とはいえ、自らの攻撃を受け止めて見せた何者かの存在に、ドラクロワはようやく戦うに足る存在が現れたのかとニヤリと笑って見せている。
 そうして強敵に相応しい不敵な態度を取っていた彼はしかし、目の前に現れたその人物、トージローの姿に言葉を失ってしまっていた。

「わしか?わしはトージローじゃよ。はて、お前さんはどちらさんかいのぅ?」

 ふらふらと頼りない足取りで前へと進み、ドラクロワの声に不思議そうに首を捻っているトージローの姿は、よぼよぼの老人でしかない。
 そんな彼の姿に、完全に肩透かしを食らってしまったドラクロワは、その衝撃に随分と長い間固まってしまっていた。

「ふふ、ふふふふ、ふははははっ!!それがお前達の切り札だというのか!?ただのボケた老人ではないか!!こんなものに頼らなければならないとは、こいつは傑作だ!!!」

 しばらくの硬直にやがてふつふつと震えだしたドラクロワは、腹を抱えて笑い出してしまっていた。
 彼はトージローを指差しながら笑い声を響かせると、そんな奴を頼らなければならない彼らを大いに扱き下ろしていた。

「なんだとー!!師匠を馬鹿にするな!!師匠はなぁ、凄いんだぞ!!あの大魔王エヴァ・・・エヴァ」
「・・・エヴァンジェリン」
「そう!エヴァンジェリンも倒したんだからな!!」

 周囲の目の前で声高に師匠であるトージローを馬鹿にするドラクロワに、彼の弟子であるルイスが抗議の声を上げている。
 彼はトージローの最大の功績である大魔王エヴァンジェリンの撃破を口にしようとしていたが、その名前が中々出てこず、隣のメイにこっそりと耳打ちされてようやくその名前を口にしていた。

「ほぅ、エヴァンジェリンをね。そうかそうか、それは結構な事だ・・・ん、エヴァンジェリンだと?」

 こちらに指を突きつけてはトージローの功績を声高に主張しているルイスの姿に、ドラクロワは子供の戯言だと鷹揚に頷いて見せている。
 そうしてルイスの言葉を聞き流しては他の事に取り掛かろうとしていた彼はしかし、その言葉の中に何やら気になる事があったようで足を止めては振り返っていた。

「そこの子供。そのエヴァンジェリンとは、あのエヴァンジェリンの事か?」
「あのってなんだよ!?エヴァンジェリンはエヴァンジェリンだっての!!大魔王なんだぞ、凄いんだぞ!!」

 ルイスが口にしたその名前が引っかかったのか、彼に確認を求めているドラクロワに、ルイスは疑われたのが気に入らないと腕を振り回しては、文句があるのかと突っかかっている。

「そうか、あのエヴァンジェリンを・・・そしてあの男の孫娘・・・そうかそういう事か」

 気が収まらないのかまだ何やら喚き続けているルイスの事を無視して、ドラクロワは何やら一人納得したように頷いている。

「ふふふ、ははははっ、はーっはっはっは!!そうか貴様が、貴様がそうなのか!!そうなのだろう!?あの男が追い求めた、異なる世界の勇者よ!!!」
「ほぁ?」

 そして突然頭を抱えて笑い出したドラクロワは、トージローを指差しては叫んでいる。
 その口元には、凶悪な笑みが浮かんでいた。

「ふふふ、そうやってふざけていられるのも今の内だぞ?貴様の所為で・・・貴様の所為で私はあの男に封印されたのだからな!!」

 何やら勝手に一人で盛り上がっているドラクロワに対して、トージローが見せた呆けた態度を彼はどうやら余裕の表れだと受け取ったようだ。
 それに対して不敵に笑って見せるドラクロワは、トージローとの因縁について語り始めていた。

「はぁ?トージローの所為で封印されたって・・・あんたが封印されたのって、随分前の話でしょ?その時はまだトージローはこの世界に来てすらいないんだから、関係ないじゃない?」
「あれは、忘れもしない冬の日だった・・・」
「あ、もう勝手に話す感じなんだ・・・」

 トージローの所為で封印されたと話すドラクロワに、そんな訳はないとカレンが突っ込みを入れる。
 しかしそんな彼女の事などお構いなしに、ドラクロワは遠い目をしては過去に思いを馳せているようだった。

「私はいつものように、眷属と共に午後のティータイムを楽しんでいた。そこにあの男は現れたのだ・・・私が勇者召喚に必要な、あるアイテムを持っていると難癖をつけてな!!私には何の事だか、分からなかった!そんな私をあの男は問答無用と一方的にボコボコにし、件のアイテムを持っていないと分かると、今度は興味をなくしたと雑に封印していったのだ!!奴の雑な封印の所為で、私は意識を保ったまま何もない闇の中に何十年と一人で・・・一人で取り残されていたのだぞ!?この苦しみが、貴様達に分かるか!!?」

 カレンの祖父であるエセルバードの過去の仕打ちについて声高に語るドラクロワは、彼の所為で酷い目に遭ったのだと叫んでいる。
 それを叫ぶ彼の目は血走り、口元からは零れた涎が語気の勢いに泡となって吹き出してしまっている。
 そこに今まで紳士然とした態度で高貴な吸血鬼を装っていた彼の姿はなく、それだけにその怒りが本物であることを如実に物語っていた。

「うわぁ・・・お爺様、昔は無茶苦茶だったんだ。そりゃ、あいつも怒るよね・・・でも、そのお陰であいつの恨みはトージローに向かってくれるかな?トージローとあいつをどう戦わせるか不安だったけど、これなら・・・」

 祖父のかつての無茶苦茶な振る舞いに、彼が年を取り落ち着いた後の姿しか知らないカレンはドン引きしてしまっている。
 自らの祖父がした仕打ちにはカレンも同情を禁じえなかったが、そのお陰で助かる事もある。
 ただの老人にしか見えないトージローをドラクロワに敵だと認識させる術を彼女は有していなかったが、今の彼の様子にどうやらそれに頭を悩ませる必要はなさそうだ。

「あの男に返せなかったこの恨み、貴様に晴らさせてもらうぞ!異なる世界の勇者よ!!」

 カレンの思惑通り、ドラクロワはトージローを敵視しては彼へと指を突きつけている。
 その敵意に満ちた血走った瞳は、もはや他のものなど視界に入らないといった様子であった。

「よし!これで後は、トージローに任せれば大丈夫ね!あぁ、一時はどうなる事かと思ったけど、何とかなってよかったぁ」

 完全にトージローへと移ったターゲットに、これでもう安心だとカレンは安堵の息を吐いている。
 あの大魔王エヴァンジェリンすら一撃で屠ったトージローに、敵う存在などいる筈がない。
 それを確信しているカレンは、もはや全ては終わったのだと安心しきっては、身体を地面へと投げだしていた。

「あぁ、そうだったな。貴様らにも相手を用意してやらねばならんな・・・ヴァーデ、相手をしてやれ」
「は、畏まりましたドラクロワ様」

 自らのシルエットを激しく歪ませながらトージローへと近づいていたドラクロワは、その途中思い出したかのように立ち止まると、腕を伸ばして指を鳴らす。
 そしてその音の反応するように少年がその影から這い出して来ると、彼に恭しくお辞儀をしていた。

「・・・へ?」

 そんな新たな敵の出現に、完全にもう全てが終わったと脱力していたカレンは、呆けた表情で間の抜けた声を漏らしてしまっていた。
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