ボケ老人無双

斑目 ごたく

文字の大きさ
上 下
62 / 78
トージロー

吸血鬼の弱点 1

しおりを挟む
「な、何かえらいことになっとるなぁ・・・」

 広場の光景を目にしながら、恰幅のいい女性がそう呟く。
 彼女は辺りをキョロキョロと見まわしながら何かを探しているようだったが、今はそれどころではないとどこか及び腰であった。

「完全に、来るタイミング間違えてもうたかな・・・ちゅうても返済の期限も明日やし、早うカレンはんを見つけんと。何や、この街でえらい活躍しとるっちゅう話までは聞いとるさかい」

 広場の騒動に、この場から逃れる事も考え始めた女性はしかし、もはや逃げ場はないのだと首を横に振っている。
 そうして彼女はこの街へとやってきた目的、カレンの姿を探すと再び辺りへと視線を向けていた。

「ん、あれは・・・」

 彼女はそこに、目的の人物を発見する。
 そして彼女はその恰幅のいい身体をトコトコと動かして、その近くへと歩み寄っていく。
 その視線の先では彼女の目的の人物、カレンが周りの野次馬達と何やら揉めている所であった。



「ほら、さっさと行けよ!!あんた強いんだろ!!」
「きゃあ!?」

 領主から直接指名され、ドラクロワからも戦いの相手だと認められてもなお、カレンはその場を動こうとはしていなかった。
 しかしその背中を、周囲の人間が巻き込まれては堪らないと押し出している。
 ドラクロワの強烈な敵意に身を縮こまらせていたカレンはそれに対応出来ず、為す術なく押し出されてしまっていた。

「何すんのよ!?あっ、すみませんどう、も・・・!?」
「・・・これは、何のつもりだ娘?」

 不意打ちの押し出しにバランスを崩したカレンは、後ろを振り返りながら文句を叫び、何とかそれを取り戻そうとしていた。
 そんな彼女の身体を、支える手の感触が。
 そのお陰で何とかバランスを取り戻したカレンは、顔を上げお礼を口にしようとしていると、そこには戸惑った表情のドラクロワの姿があった。

「ひゃあああ!!?わぁ、わぁ!!」
「余りに無防備だったため、つい手を出すのを躊躇ってしまったが・・・別に何かの策という訳でもなかったのか?」

 その顔を間近に目にし、思わず固まってしまっていたカレンは意識を取り戻すと、慌ててそこから飛び退いていた。
 そして警戒するようにその手にした杖を無茶苦茶に振り回す彼女の姿を、ドラクロワは腑に落ちない表情で眺めている。
 彼は彼女が飛び込んできた胸の辺りを見下ろしていたが、そこに何の変化もないことに却って不思議そうな表情を浮かべていた。

「それで?戦闘開始でいいのかな、娘よ」
「あわわわ・・・どうにか、どうにかしないと」

 自分の胸を擦っては、そこが何ともなっていないことを確かめたドラクロワは、その両手を広げては戦闘の開始をカレンに尋ねている。
 その待ったなしの状況に、カレンは慌てて自分の身体を弄っては、何かこの状況を打開するものはないかと探り出していた。

「そ、そうだこれ!!あの時、押しつけられた・・・これでも食らえ!!」

 そして腰にぶら下げていた鞄の奥に何かを探し当てたカレンは、それをドラクロワへと投げつける。

「・・・これは?」
「ふふーん!どうよ、効くでしょう!!品種改良で匂いが十倍きつくなったニンニクよ!!皮を剥かなくたって、こっちにまで匂ってくるんだから!!吸血鬼には堪らないでしょう!?」

 カレンがドラクロワに投げつけたのは、かつて押し売りに売りつけられたニンニクであった。
 品種改良の結果、匂いが十倍きつくなったというそれは、料理に使うというよりも嗅覚の鋭い獣などの鼻を麻痺させるために使うものだ。
 そして通説であればその匂いは、吸血鬼も苦手とするはず。
 であれば、それは吸血鬼には堪らないはずだとカレンは勝ち誇っていた。

「ふむ、確かにきつい匂いだが・・・こんなもの放ってしまえば、終いだろう?それがどうかしたのか?」

 しかしそんなカレンを前に、ドラクロワは受け止めたニンニクを軽い手つきでどこかへと放ってしまっていた。
 軽い手つきとはいえそこは流石は吸血鬼の膂力か、放り投げられたニンニクはもはやどこに行ったのかも分からないほど遠くに放られてしまっていた。

「へ?あ、あの・・・苦手じゃなかったの?その、ダメージとかは・・・?」
「ダメージ?一体何の話をしているのだ?下品な匂いがしたからといって、それでダメージを食らう訳がなかろう?」

 その余りにぞんざいな扱いに、カレンは信じられないと呆気に取られてしまっている。
 彼女はそれでも必死に何かダメージを受けたんじゃないかと尋ねるが、それもドラクロワにそんな訳がないだろうと正論を返されるだけに終わっていた。

「ぐっ・・・それもそうね。だったらこれはどう!?何か魔よけの効果があるとかいう、十字のお守り!!あんた達アンデッドは、こういうの苦手でしょう!?」

 考えても見れば、ただの匂いにそんな効果がある訳がないと納得せざるを得なかったカレンは、再び鞄の中から何かを取り出すと、それをドラクロワへと突きつけている。
 それは十字の形をした、金属製のお守りであった。

「ほぅ、確かに何か力を感じるな・・・だが、それがどうしたというのだ?」

 そのお守りを突きつけられたドラクロワは、確かにそれからは何かの力を感じると感心したような表情を見せている。
 しかしそんな力も、強力なアンデッドである自分には通用しないと、彼は腕を伸ばすとそれを握り締め、粉々に砕いてしまっていた。

「そ、そんな・・・」

 ドラクロワによって粉々に砕かれた十字のお守りは、地面にパラパラと零れていく。
 それを追いかけるように蹲ったカレンは、もはや打つ手がないと嘆いていた。

「何だ、もう種切れか?つまらん・・・これがあの男の孫だとはな。これ以上醜態をさらしても仕方あるまい、ここで息の根を止めてやろう」
「ひっ!?ど、どうか命だけは!!命だけはお助けください!!そうだ!貴方様の眷属に、眷属になりますから!!どうか命だけは!!」

 絶望に蹲ってしまっているカレンを、つまらないものを見るように見下ろしているドラクロワは、その爪を伸ばすと彼女へと迫る。
 それに明確な死の予感を感じ取ったカレンは取り乱すと、必死に彼の足元に縋りついては命乞いをしていた。

「眷属だと?ふむ・・・あの男の孫を眷属にするのも一興か。よし、いいぞ娘。我が眷属に加わる事を許す、その首を我が前に差し出すがいい」
「は、はい!!ありがとうございます、ありがとうございますぅ!!」

 カレンの命乞いには不快な表情を見せたドラクロワも、その提案には興味を引かれているようだった。
 かつて彼が苦渋を飲まされたエセルバード、その孫が自らの眷属になる。
 それに魅力を感じた彼は、カレンの提案を呑み、彼女にその首筋を差し出すように求めていた。

「ふふふ、見ているかエセルバード。貴様の孫が私の眷属になるぞ。情けなく命乞いしてな!!これほど愉快な事があろうか!どれ、貴様の血の味を確かめてやろうではないか・・・こんな体たらくでも、貴様の血の一滴は受け継いでいよう」

 噛みやすいように僅かに胸元をはだけさせ、顎を上げては首筋を露わにしているカレンの姿に、ドラクロワは今は亡きエセルバードに勝ち誇ったように笑みを浮かべている。
 そして彼はその牙を剥き出しにすると、大口を開けてゆっくりとカレンの首筋へと近づいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

処理中です...