ボケ老人無双

斑目 ごたく

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トージロー

城門襲撃

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「な、何なんだこいつら一体!?」

 今、切り捨てたはずの相手が、しばらくすると再び這いずりながら迫ってくる。
 そんな光景に、兵士は困惑した声を上げている。
 グリザリドを囲う城壁、その東門に詰めている兵士達は、そこに押し寄せてくるアンデッドの群れに苦戦を強いられていた。

「お、おい・・・さっきの近所の武器屋の親父じゃなかったか?」
「あぁ・・・俺も薄々思ってたんだけど、やっぱりそうだよな。じゃあ、もしかしてこいつら・・・」

 押し寄せてくるアンデッドの群れを、急造のバリケードの向こうから眺める兵士達は、先ほど切り捨てたばかりのそれについて話している。
 それが知り合いだったのではないかと話す兵士に、話しかけられた兵士も頷いていた。
 そうして再びバリケードの向こうへと視線を向けた彼らは、そこに知り合いの姿を多く見つけてしまっていた。

「あ、あれ・・・行きつけの酒場の姉ちゃんだ。な、なぁ、お前やってくれよ。俺にゃあ、無理だ!」
「お、俺だって!!」
「馬鹿!さっさと殺らねぇとこのままじゃ・・・うわぁ!?」

 その知り合いの中に、生前はちょっと気になっていた女の子の姿を見かけた兵士は、それに手を掛けるのは無理だと相棒にそれを任せようとしている。
 しかし同じ職場に勤める二人の生活習慣は、当然似たり寄ったりのものだ。
 それはつまり、彼もまたその女の子に気が合ったことを意味していた。
 そうしてお互いに譲り合っている間にも、そのアンデッドと化した女の子はノロノロとバリケードに迫っており、ついにはそれを乗り越えて兵士へと噛みつこうとしていた。

「何をぼさっとしておる!死にたいのか、貴様ら!!?」
「た、隊長!?た、助かりました!!」

 お互いに責任を擦り付け合っていた兵士の片方へと噛みつこうしていたアンデッドは、そのままの格好で崩れ落ちていく。
 そして真っ二つにしたそれに対して念入りに止めを刺している口髭の男は、その兵士達よりも立派な鎧を身に纏っていた。

「ふんっ!推測するに、知り合いの顔でも見たのだろう!懸想しておった女の顔でも見つけたか!?そんなものに気を取られている場合ではない!!あれらはもはや敵だ、魔物なのだ!!例え親に見えようと子に見えようとも、憎むべきアンデッドに過ぎない!!そんなものに殺され、貴様らもアンデッドの仲間入りしたいのか!?だったら今すぐこのバリケードから出ていけ!!」
「な、なりたくありません!!」
「じ、自分もであります!!」
「だったら躊躇うな!!分かったな!!」
「「はっ!!」」

 もはや原形の留めないほどに叩き潰したアンデッドを見下ろす隊長と呼ばれた口髭の男は、鼻を鳴らすと部下の兵士達を強く叱責している。
 彼は例え知り合いに見えようとも、これらはもはや魔物にしか過ぎないのだと断言すると、これ以上躊躇うならバリケードから出ていけと、アンデッドが群れをなしているその外を指し示していた。
 隊長のぎらついた瞳にそれが冗談ではないと即座に悟った兵士達は、表情を真っ青に染めると顔を上げ、踵を鳴らしてはびしっと敬礼を決めていた。

「分かったなら、さっさと持ち場に戻らんか!!・・・ふんっ、弛んどるわ!気持ちは分かるがな・・・」

 目の前で敬礼したまま固まっている二人に、隊長はその尻を叩いては持ち場へと送り出している。
 その二人が転がるようにして持ち場に戻っていくのを見送っていた隊長は、再び鼻を鳴らすとバリケードの向こうに転がっているアンデッドを見下ろしていた。
 そこにあったのはまだ年端もゆかぬ少女のアンデッドであり、腹を裂かれても尚もぞもぞと蠢ている姿であった。

「た、隊長!?大変です!!」
「えぇい、何だ今度は!?リータス様に援軍を送らねばならぬというのに・・・これでは無理ではないか!!他の城門も同じ状況なのか!?」

 隊長が地面を蠢くアンデッドに対し憐れみとも怒りともつかぬ視線を送っていると、彼の頭上から焦った様子の兵士の声が響く。
 それに顔を上げた隊長は、他の城門の状態に思いを巡らせていた。
 彼の懸念は半分当たっており、半分間違っている。
 確かに他の城門も彼の懸念の通りアンデッドに襲われていたが、それはここほど激しくはなかった。
 その理由は、彼の目の前にある。
 彼が見上げる視線の先、そこには巨大な城門にぽっかりと空いた大穴の姿があった。

「た、隊長!!早く、早く来てください!!」
「くっ、今はそれどころではないか・・・分かった、今いく!!」

 頭にふと過った不安に思考を巡らせていた隊長に、切羽詰まった様子の兵士の声が響く。
 その声に今はそれどころではないと思い出した彼は、怒鳴るようにして返事を返すと、壁の上へと続く階段を駆け上っていく。

「どうした、何があった!?」
「た、隊長・・・あ、あれを」
「あれだと!?報告はもっとはっきり・・・なっ!?あ、あれは・・・!?」

 長い階段を駆け上った隊長は、息を整える暇もなくそこに待機していた兵士へと声を掛け、報告を求めている。
 しかしその兵士は怯えたような顔で震えながら壁の向こうを指し示すばかりで、碌な報告を寄越さない。
 その曖昧な報告に苛立つ彼は、その兵士を押しのけると胸壁へと駆け寄り、そこから身を乗り出していた。

「オーガだと!?それに向こうに見えるのは・・・トロルか!?くっ、あんなのに近づかれては、今の城門では・・・えぇい!ゴブリン共はいい、あれらを近づかせるな!!大弓、用意ー!!」

 胸壁から身を乗り出しその先の景色を目にした彼の目には、この城門へと押し寄せる魔物の群れの姿が映っていた。
 その大部分はゴブリンによって形成されていたが、中にはオーガやトロルといった大型の魔物姿も見受けられた。
 今の大穴の空いた城門は当然の事ながら耐久力が落ちており、そんな大型の魔物に一斉に襲い掛かられれば、あっという間に陥落してしまうだろう。
 それを懸念する隊長は、とにかくそうした大型の魔物を仕留めようと慌てて号令を掛ける。

「む、無理です隊長!!」
「無理だと!?貴様、それがどういう事か分かっているのか!!?いいから、やれ!今すぐに!!」
「無理なものは無理です!!用意しようにも、大弓自体がないのです!!」
「なん、だと・・・」

 しかしその号令に、先ほどの彼に突き飛ばされた兵士が敬礼しながらも出来ないと叫んでいた。
 そんな訳の分からない返事を返してきた兵士に、隊長は彼の胸ぐらを掴むといいからさっさとやれと怒鳴りつけている。
 それでも出来ないと叫ぶ兵士は、そもそも用意すべき大弓がないのだと示していた。
 彼が示したその先には、焼き焦げ崩れ落ちた大弓の姿があった。

「くっ、そうだった。あの時の襲撃で・・・まさか!?あの時の襲撃はこれを見越して?」

 半月前の襲撃、あの時破損したのは何も城門だけではない。
 防衛兵器である大弓も、あの時の襲撃でかなりやられてしまったのだ。
 そしてあの時の襲撃の様子と、今の状況を鑑みた隊長は、それらが全て仕組まれたものであったのではないかと考えを巡らせていた。

「えぇい、今はそれどころではない!!全てが破壊された訳ではあるまい!!無事なものだけでいい、あれらを狙うのだ!!」
「し、しかし!!城門正面の大弓は全滅しております!!そこから離れたものでは、狙うのは難しく・・・」
「いいからやれ!!あれが飛んでくると分からせるだけでも、あれらの進行を遅らせる効果はあろう!!!」
「は、ははっ!!」

 しかしそれも一瞬の事だ。
 目の前の危機にすぐにそれどころではないと頭に浮かんだ考えを振り払った隊長は、すぐに新たな指示を部下へと下す。
 それは残った大弓で、オーガやトロルといった大型の魔物を狙うというものであった。
 まるで狙ったかのように城門周辺のそれが焼き払われた状況に、満足に狙える大弓は存在しない。
 しかしそれでもやらないよりはましだろうと、彼は大声で号令を下す。
 その声に、兵士も大慌てで残った大弓の下へと駆けていっていた。

「無理な角度から狙っても、虚仮脅しにもならんか・・・我々が援軍に駆けつける筈が、こちらが援軍を求めなければならないようです。リータス様、どうかお早く・・・お早く、そちらをお片付けください!!」

 大慌てで大弓を準備し、それを早速放った兵士の矢は、狙った魔物に脅威を与えることなく明後日の方向に逸れていく。
 そんな大弓の姿に、当然魔物達もそれを気にすることなく城門へと迫る。
 その姿を眺めながら、隊長はここは長くはもたないと悟っていた。
 そして隊長は街へと振り返り、そこにいる筈の主に対して声を掛けていた。
 来る筈もない、援軍を求めて。
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