ボケ老人無双

斑目 ごたく

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トージロー

タルカ

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「タルカ!!過去の新聞って、どっかに取っておいてある!?」

 物凄いスピードで駆け込んできたカレンは、その勢いに相応しい強さでその宿の扉を押し開いている。
 そしてその激しい物音にも負けないほどに、彼女は力強く叫んでいた。

「はわっ!?カ、カレンさん!?帰ってきたんですか!?」

 カレンの大声は、例えその建物の奥にいても聞こえてくるほどの大きさだろう。
 事実、その奥にある厨房で晩御飯の仕込みをしていたタルカはその声に驚くと、慌てて厨房の奥から顔を出していた。

「タルカ、そこにいたの!それで新聞は取ってある!?」
「えっ!?し、新聞ですか?えっと、半年分ぐらいは取ってありますけど・・・それがどうかしたんですか?」

 何かの調理の途中なのか、身体を傾けるように仰け反らせて半分だけそこから顔を出しているタルカに、カレンは嬉しそうに声を上げると駆け足で近づいてくる。
 その彼女の質問に、タルカは訳が分からないと目を白黒させながらも、何とか必要な情報を返していた。

「本当!?でかしたわ!!流石はタルカね!!そんな貴方が大好きよ!!!」
「えっ、えっ!!?」

 タルカが何とか引っ張り出した言葉は、カレンにとってはこれ以上ないほどの答えであった。
 何が何だか分からずに窺うような視線を向けてくるタルカに、カレンは喜びの声を上げると両手を広げて近づいてくる。
 そしてカレンは、彼女を思いっきり抱きしめていた。

「ありがとう、タルカ!!それじゃ、私急ぐから!またね!!」
「あぅあぅ・・・行っちゃった。何だったんだろう?」

 一頻りタルカを抱きしめて満足したカレンは、彼女を放すとそのままどこかへと立ち去っていってしまう。
 そんないきなりの展開に全くついていけていないタルカは、白黒とさせていた目を今はとろんと蕩けさせ、ポーっとした表情でカレンが立ち去っていった方を見詰めていた。

「あわわっ!?大変、大変!?吹きこぼれちゃう!!」

 カレンに抱きしめられていた余韻に呆けてしまっていたタルカは、その背後で激しくぐつぐつと音を立てている鍋に気がつくと、慌ててそれに駆け寄っていた。
 吹きこぼれてしまいそうな勢いで蒸気が噴き出していた鍋を、慌てて竈から取り上げたタルカは、それを隣の火の入っていない竈へと移すと、ほっと一息ついている。

「ふぅー、何とか間に合ったぁ。よかった、台無しにならなくて。ふふふ、大事なサプライズだもの。カレンさん、元気になったみたいだけど・・・これを食べればもっと元気になるよね?」

 焦りに額に浮かんだ汗を拭うタルカは、もう安心と息を吐き出している。
 彼女はその鍋を見下ろすと、優し気な微笑みを浮かべていた。
 それはその鍋が、彼女の優しい試みを示すものだからだろう。
 そんな彼女の背後に、忍び寄る人影があった。

「あの、タルカ?ちょっといい?」
「ひゃあ!?カ、カレンさん!?な、何ですか一体!?」

 背後から掛かった声に、タルカは思わず背中を跳ねさせてしまう。
 そして彼女は近くにあった包丁を手に取ると、それを構えては振り返っていた。

「えっと、さっき聞いた新聞がどこにあるのか聞きたかったんだけど・・・と、とりあえず、それ下ろしてくれない?」
「え?あぁ、ごめんなさい私ったら!!」

 カレンは頭を掻きながら恥ずかしそうに、肝心な事を聞きそびれてしまったのだとタルカに尋ねている。
 しかし今の彼女にはそれ以上に気になる事があるようで、その視線はタルカの手元へと伸びていた。
 そこにある包丁を指摘され、ようやく自分が何をしているか気がついたタルカは、慌ててそれを背後へとしまっていた。

「えっと、それで何でしたっけ?あぁ、新聞でしたね!それだったら・・・そうだ、奥の部屋!使ってない奥の部屋を倉庫代わりにしてるんですけど、そこに・・・分かります?」
「あぁ、そこなら分かる分かる!前に掃除を手伝った時に、いった所と同じだよね?」
「あ、そうですそうです!そういえば、そんな事もありましたね」

 自らのおっちょこちょいな所を見られてしまったからだろうか、顔を赤く染めては明後日の方へと顔を向けるタルカは、何とか話題を逸らそうとカレンの目的について口にしようとしている。
 そしてカレンが先ほど尋ねてきた新聞がしまってある場所について聞いてきたのだと思い出したタルカは、その場所を彼女へと示している。
 カレンにその場所が分かるかと眉を不安そうに傾けるタルカに、彼女はその場所ならば覚えがあると気軽に頷いて見せていた。

「入ってもいいんだよね?それじゃ、私ちょっと調べものしてくるから、また後でね」

 過去の新聞の在処も分かり、それを見てもいいという許可もタルカから貰ったカレンは、早速とばかりにそちらへと向かっていく。

「あ、そうだ!カレンさん、ちょっと待ってください?」
「どうしたの、タルカ?まだ何か用?」
「あの、そのですね・・・カレンさんて、あれお好きでしたよね?猟師風のクロケット」
「うん、そうだけど・・・それがどうかしたの?」
「い、いえ!?ただ何となく思い出しただけ、特別な意図は何もないですよ!?今日の晩御飯にお出ししようとか、そうしたらカレンさんが喜ぶかなーとか、思ってないですから!!」

 去っていこうとするカレンの事を慌てて呼び止めたタルカは、目線をキョロキョロ彷徨わせながら、どうにかさりげなくを装って彼女の好物について尋ねている。
 そのあからさまに怪しいタルカの振る舞いにも、カレンは首を傾げるだけであった。
 しかしそれもタルカからすれば強い疑いの姿にも見え、彼女はそれを誤魔化すためについ言わなくてもいい事まで口走ってしまっていた。

「あ、今日の晩御飯クロケットなんだ。楽しみにしてるね!それだけ?それじゃ、調べものがあるから!」

 タルカが思わず口走ってしまった内容に、カレンは今夜の晩御飯に彼女の好物が出る事を知る。
 それに素直に喜びの声を上げるカレンは、それ以外に用がないと知るとそのまま奥の部屋へと向かっていく。

「あぅ、バレちゃった・・・ふふふ、でも喜んでくれてたし、それでいっか」

 折角のサプライズがバレてしまった事を落ち込むタルカはしかし、嬉しそうにしていたカレンの姿にそれでもいいかと気を持ち直す。

「よーし、それじゃ!腕によりをかけて作らなくっちゃ!」

 そして腕を捲くり、張り切るタルカは早速とばかりに下準備を再開する。
 彼女が口にする上機嫌な鼻歌は、厨房からしばらく響き続けていた。
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