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栄光時代
ツケ
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「うーん、美味しー!」
今まさに喉を通った美食に舌鼓を打つカレンの口元には、何やら白いクリームのようなものが張りついている。
それに気づき、ペロリと舌で舐め取った彼女は、それが誰かに見られてはいないかと周囲を窺っていた。
彼女の視線の先には、先ほど追い出されたばかりのレストランとはかなり違った雰囲気の店内の様子が広がっていた。
そのごった返すお客の中を、給仕の女性が慌ただしく駆け抜けている姿はまさしく大衆食堂といった様相だろう。
そんな食堂の片隅で、数少ないデザートの一つを頬張るカレンは、それでも十分な満足感を堪能していた。
「ふー・・・美味しかったぁ。うーん、やっぱり私にはこういう雰囲気のお店の方が合ってるのかなー?うぅ、言っててなんか寂しくなっちゃうけど・・・あぁでも、あのチーズケーキは一口でいいから食べたかったなぁ」
お腹一杯の食事を終えた満足感に、長々と息を吐き出したカレンは天井を見上げている。
そこには誰かが放り投げたのか、くっきりと靴跡のついた天井の姿があった。
それを目にして僅かに表情を緩めたカレンは、自分にはやはりこうしたお店の方が合っていると頷いている。
それでも彼女は、あの時口にすることが出来なったデザート思い出すと、それについての未練を口にしていた。
「うぅん、もう二度と食べられないと決まった訳じゃないんだし・・・あ、お会計お願いしまーす!」
それが決して二度と手に入らないものではないと首を振り未練を断ち切ったカレンは、立ち上がると給仕の女性へと声を掛ける。
そして財布を取り出そうとした彼女は、それとは別に零れ落ちていくものの姿を目にしていた。
「あっ」
それは先ほど買い替えようと思っていた、腰に括りつけていた小さな鞄が壊れ、中に入っていたポーションの小瓶が床へと落ちていく光景であった。
「これとこれ・・・あっ!あとあれもください!」
商品の会計を済ませるカウンターの上に、次々と商品が乗せられていく。
その様に店員が呆気に取られていると、さらに目の前の少女はカウンターの奥を指差しては、そこにある商品も欲しがっていた。
「ふふっ!さっき見かけたお店とはちょっと雰囲気違うけど、ここもいい品揃えよね。辺境の街だし、やっぱり冒険者も多いのかな?冒険者用のお店が充実して・・・あ、それですそれ!」
その金色の髪の少女、カレンは目の前に積み上げられた商品の山を見下ろしては上機嫌で呟いている。
カレンは今訪れているのは、先ほどトージローが暴れていたお店と同じような、冒険者用の道具を販売しているお店であった。
そのお店は先ほど見かけた店よりも実用性重視といった道具が並んでおり、見た目の華美さは先ほどのお店よりも控えめであった。
そこに少しばかり不満を滲ませながらも、カレンは概ね満足だと積み上げた商品を見下ろしている。
「わぁ!近くで見るとさらにいい感じですね、これ!それで、全部でお幾らですか?」
カレンが店員に取ってもらっていたのは、先ほど破損したばかりの小ぶりな鞄と似たようなサイズの鞄であった。
先ほどのものよりもしっかりとした作りのそれを目にし、嬉しそうに手を叩いたカレンは、店員にそれらの値段を尋ねると財布から硬貨を取り出そうとしていた。
「えぇと、これとこれ・・・それとこれですね、はい。しめて、100リディカになります」
「あ、100リディカですか。お得ですねー・・・100リディカ!?」
山のように積まれた商品に、店員はその値段を計算するのにも少しばかり時間が掛かっている。
そうしてしばらくの暇の後、ようやくそれを終えた店員はその合計を口にする。
その値段に条件反射のように言葉を返し、早速とばかりに代金を払おうとしていたカレンはしかし、その余りの額に思わず店員の顔を二度見しては、驚きの声を上げてしまっていた。
「はい、しめて100リディカですが・・・どうかなさいましたか?」
「い、いえ!別に何でもないです!ううーん、参ったな・・・あんな大金、足りるかなぁ?」
カレンが突然上げた大声に、店員は不思議そうに首を傾げている。
そんな店員の姿に誤魔化すように手を振ったカレンは、それから隠すように財布の中を覗くと、そこにある硬貨の数を数え始めていた。
「うぅ、やっぱり足りない・・・あいつらにお金渡したからだ。あの、すみません・・・やっぱりこれ、そこに返しちゃってください」
財布の中身をいくら念入りに数えても、そこには必要な額は残っていなかった。
その事実にがっくりと項垂れたカレンは、気まずそうに店員に声を掛けると、取ってもらった鞄を戻すように頼んでいた。
「あ、それでしたら後払いにも出来ますよ?」
「・・・へ?後払い?そ、そんなことが出来るんですか?」
プルプルと震える腕でそれを差し出し、未練がましく中々離そうとしないカレンの姿に、店員はある提案を告げていた。
それは代金の支払いは後でもいいという、いわゆるツケというシステムの話であった。
「えぇ、勿論。『ニューヒロイン』のカレン・アシュクロフト様であれば当然でございます」
「あ、そうなんだ。私だから・・・『ニューヒロイン』のカレン・アシュクロフトだから出来るんだ」
「はい、そうでございます」
そんなことが出来るのかと疑問を浮かべ、店員の顔をまじまじと見つめるカレンに、店員はカレンだから出来るのだと口にする。
その店員が口にしたニューヒロインという言葉に気を良くしたカレンは、それを確かめるように繰り返している。
そして店員もまた、それを強調するように頷いていた。
「だったらお願いします、後払い・・・いや、ツケで!!」
「はい、畏まりました。100リディカ、ある時払いで」
おだてるような店員の言葉に、もはやそれを諦めるなどという選択肢はない。
カレンはすっかり覚悟を決めると、カウンターに両手をつきそれを宣言する。
その声に店員はにっこりと頷く、粛々とツケの記録を取っていた。
今まさに喉を通った美食に舌鼓を打つカレンの口元には、何やら白いクリームのようなものが張りついている。
それに気づき、ペロリと舌で舐め取った彼女は、それが誰かに見られてはいないかと周囲を窺っていた。
彼女の視線の先には、先ほど追い出されたばかりのレストランとはかなり違った雰囲気の店内の様子が広がっていた。
そのごった返すお客の中を、給仕の女性が慌ただしく駆け抜けている姿はまさしく大衆食堂といった様相だろう。
そんな食堂の片隅で、数少ないデザートの一つを頬張るカレンは、それでも十分な満足感を堪能していた。
「ふー・・・美味しかったぁ。うーん、やっぱり私にはこういう雰囲気のお店の方が合ってるのかなー?うぅ、言っててなんか寂しくなっちゃうけど・・・あぁでも、あのチーズケーキは一口でいいから食べたかったなぁ」
お腹一杯の食事を終えた満足感に、長々と息を吐き出したカレンは天井を見上げている。
そこには誰かが放り投げたのか、くっきりと靴跡のついた天井の姿があった。
それを目にして僅かに表情を緩めたカレンは、自分にはやはりこうしたお店の方が合っていると頷いている。
それでも彼女は、あの時口にすることが出来なったデザート思い出すと、それについての未練を口にしていた。
「うぅん、もう二度と食べられないと決まった訳じゃないんだし・・・あ、お会計お願いしまーす!」
それが決して二度と手に入らないものではないと首を振り未練を断ち切ったカレンは、立ち上がると給仕の女性へと声を掛ける。
そして財布を取り出そうとした彼女は、それとは別に零れ落ちていくものの姿を目にしていた。
「あっ」
それは先ほど買い替えようと思っていた、腰に括りつけていた小さな鞄が壊れ、中に入っていたポーションの小瓶が床へと落ちていく光景であった。
「これとこれ・・・あっ!あとあれもください!」
商品の会計を済ませるカウンターの上に、次々と商品が乗せられていく。
その様に店員が呆気に取られていると、さらに目の前の少女はカウンターの奥を指差しては、そこにある商品も欲しがっていた。
「ふふっ!さっき見かけたお店とはちょっと雰囲気違うけど、ここもいい品揃えよね。辺境の街だし、やっぱり冒険者も多いのかな?冒険者用のお店が充実して・・・あ、それですそれ!」
その金色の髪の少女、カレンは目の前に積み上げられた商品の山を見下ろしては上機嫌で呟いている。
カレンは今訪れているのは、先ほどトージローが暴れていたお店と同じような、冒険者用の道具を販売しているお店であった。
そのお店は先ほど見かけた店よりも実用性重視といった道具が並んでおり、見た目の華美さは先ほどのお店よりも控えめであった。
そこに少しばかり不満を滲ませながらも、カレンは概ね満足だと積み上げた商品を見下ろしている。
「わぁ!近くで見るとさらにいい感じですね、これ!それで、全部でお幾らですか?」
カレンが店員に取ってもらっていたのは、先ほど破損したばかりの小ぶりな鞄と似たようなサイズの鞄であった。
先ほどのものよりもしっかりとした作りのそれを目にし、嬉しそうに手を叩いたカレンは、店員にそれらの値段を尋ねると財布から硬貨を取り出そうとしていた。
「えぇと、これとこれ・・・それとこれですね、はい。しめて、100リディカになります」
「あ、100リディカですか。お得ですねー・・・100リディカ!?」
山のように積まれた商品に、店員はその値段を計算するのにも少しばかり時間が掛かっている。
そうしてしばらくの暇の後、ようやくそれを終えた店員はその合計を口にする。
その値段に条件反射のように言葉を返し、早速とばかりに代金を払おうとしていたカレンはしかし、その余りの額に思わず店員の顔を二度見しては、驚きの声を上げてしまっていた。
「はい、しめて100リディカですが・・・どうかなさいましたか?」
「い、いえ!別に何でもないです!ううーん、参ったな・・・あんな大金、足りるかなぁ?」
カレンが突然上げた大声に、店員は不思議そうに首を傾げている。
そんな店員の姿に誤魔化すように手を振ったカレンは、それから隠すように財布の中を覗くと、そこにある硬貨の数を数え始めていた。
「うぅ、やっぱり足りない・・・あいつらにお金渡したからだ。あの、すみません・・・やっぱりこれ、そこに返しちゃってください」
財布の中身をいくら念入りに数えても、そこには必要な額は残っていなかった。
その事実にがっくりと項垂れたカレンは、気まずそうに店員に声を掛けると、取ってもらった鞄を戻すように頼んでいた。
「あ、それでしたら後払いにも出来ますよ?」
「・・・へ?後払い?そ、そんなことが出来るんですか?」
プルプルと震える腕でそれを差し出し、未練がましく中々離そうとしないカレンの姿に、店員はある提案を告げていた。
それは代金の支払いは後でもいいという、いわゆるツケというシステムの話であった。
「えぇ、勿論。『ニューヒロイン』のカレン・アシュクロフト様であれば当然でございます」
「あ、そうなんだ。私だから・・・『ニューヒロイン』のカレン・アシュクロフトだから出来るんだ」
「はい、そうでございます」
そんなことが出来るのかと疑問を浮かべ、店員の顔をまじまじと見つめるカレンに、店員はカレンだから出来るのだと口にする。
その店員が口にしたニューヒロインという言葉に気を良くしたカレンは、それを確かめるように繰り返している。
そして店員もまた、それを強調するように頷いていた。
「だったらお願いします、後払い・・・いや、ツケで!!」
「はい、畏まりました。100リディカ、ある時払いで」
おだてるような店員の言葉に、もはやそれを諦めるなどという選択肢はない。
カレンはすっかり覚悟を決めると、カウンターに両手をつきそれを宣言する。
その声に店員はにっこりと頷く、粛々とツケの記録を取っていた。
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