ボケ老人無双

斑目 ごたく

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栄光時代

魔物達の襲撃

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 辺境の街グリザリドは、その名の通りに辺境にある街だ。
 そしてそれ故に常に危険に備えており、その街を囲う壁は高く強固であった。
 それは魔物の来襲に対しても、十分な防備を備えていることを意味している。
 しかし、そんな防備を一撃で無用の長物へと変える破壊力が、その魔物にはあった。

「あいつを、あいつを近づけるなぁぁぁ!!!」

 今、悲痛な叫び声を上げた兵士が見つめる先には、巨大な魔物の姿があった。
 それは褐色の肌をした、オーガと呼ばれる巨大で強力な魔物である。
 しかしもそれは、砦や城砦を落とすことに特化したフォートレスオーガと呼ばれる亜種のオーガであろう。
 その強大な力に加え、妨害を無効にする固い表皮を備えるそのオーガを前にしては、どんな強固な防備も砂上の楼閣にされてしまいかねない。
 それを危惧する兵士は、とにかくその魔物を近づけるなと叫んでいた。

「へへっ・・・どんなに強かろうとな、近づけさせなきゃ意味ねぇんだよ」

 それを使って城門を破ろうというのか、先端を尖らせた巨大な丸太を担いでいるフォートレスオーガの姿に、一人の兵士がぶつぶつと呟いている。
 彼は外壁の上に備え付けられた大弓に身体を預けては、フォートレスオーガに狙いを澄ませていた。
 如何に固い表皮を備えるフォートレスオーガと言えど、それに貫かれれば一溜りもないだろう。
 彼はその瞬間を思い浮かべては、暗い喜びに舌なめずりしている。

「おい、まだ準備は出来ねぇのか!?」

 巨大な魔物すら一撃で葬り去れるような大弓を放つには、それ相応の準備が必要となる。
 それをするために必死にハンドルを回している部下に対して、兵士はまだなのかと怒鳴りつけていた。

「今、終わります!!」
「よし!へへっ・・・でかい図体しやがって。お前の天下も今日で終わりだ。人間様の力を・・・ん、何だこれ?」

 それもようやく終わり、引き絞った弦に巨大な矢をセットした部下の姿に頷いた兵士は、改めてフォートレスオーガへと狙いを定めている。
 そうして彼がそれを放とうとしていると、その身体に何かが投げつけられていた。

「くんくん・・・これ、油か?」

 それは、瓶に詰まった油だ。
 そしてその中に突っ込まれた火種とセットの、火炎瓶であった。

「は、嘘だろ?に、逃げ・・・ぎゃああああぁぁぁ!!?」

 それにようやく気づいた兵士が、今更逃げようとしてももう遅い。
 十分に振り撒かれた油に、落ちた火種は一気に炎を広げている。
 それは、木材で組まれた大弓にも引火してしまっていた。

『ギャギャギャ!うまくいった、うまくいった!!』
『どんどんやるぞ、どんどんやるぞ!!』

 それを投げつけた張本人であるゴブリン達が、聞こえてきた悲鳴に愉快そうに笑い声を上げる。
 そして彼らに習うように、次々と城壁の上に兵器に対し火炎瓶が投げ込まれていた。

「不味い!?逃げろ、逃げろー!!?」
「うわああぁぁぁ!!?」

 次々と投げ込まれる火炎瓶は、その全てがうまく命中する訳ではない。
 しかし数の暴力で攻めてくるゴブリンからすれば、そんな事は問題にならないだろう。
 次々に炎上していく兵器に、それを使おうと壁の上に待機していた兵士達は、慌ててそこから逃げ出していた。

「あーぁ、酷いことになっちゃってまぁ・・・」

 そんな混乱を極める壁の上を、一人悠然と歩く男の姿があった。
 その男は燃え盛る炎の中にあっても、まるでその熱を感じていないかのように進み、ある場所にまで辿り着くと腕を伸ばす。

「まだ生きてっかー?ま、とにかく消火しねぇとな・・・っと」

 それは最初に火炎瓶を投げつけられ、その全身を炎へと包まれてしまった兵士の下であった。
 彼はその身体を掴み上げると、それをそのまま外壁の中へと放り投げてしまう。

「後はそっちで何とかしてくんな。さて、と・・・」

 外壁の中へと放り投げられた兵士は、そこにあった貯水池か何かに落ちたのか、盛大に水を巻き上げている。
 その姿を確認するまでもないといった様子で、壁の先端まで進んだ男は、その先から向こう側の様子を覗く。

「ありゃ、こりゃ不味い。急がねぇと、間に合わねぇな」
「はぁ・・・そうなんですか?でも、ここからどうやってあそこまで行くんですか、デリックさん?」

 壁の先から城門の様子を確認した男、デリックはそこに既に取りついているフォートレスオーガの姿に顔を顰めている。
 そんな彼に、その後ろをこっそりとついて来ていたカレンは尋ねている。
 こんな城壁の上から、どうやってそこに向かうのかと。

「そりゃ、そんなの一つしかねぇだろ?」
「えっ?それってどういう・・・えっ、えっ!?ちょっとデリックさん、まさか・・・!?」

 カレンの疑問に、デリックは彼女の身体を摘まみ上げる事で答えている。
 そうして彼女をまるでお米担ぐように抱っこした彼は、城壁の縁へと足を掛けていた。
 それの意味する所は、一つしかない。

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!?」

 そこから、飛び降りるのだ。
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