ボケ老人無双

斑目 ごたく

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栄光時代

賭け 2

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「あれ?ピーター君もそっちに賭けるの?別にあたしに気を遣わなくてもいいのよ?」
「いえ、僕もあの二人には期待していますから」
「ふーん・・・これは、ライバルの予感?ピーター君ってこう見えて抜け目ないし、要領がいいって評判なのよね・・・むむむ」

 そのピーターの意外な振る舞いに、エステルは彼に気を遣わなくてもいいのだと声を掛ける。
 しかし当のピーターはずれてしまっていた眼鏡を掛け直すと、自分の意思で賭けるだと断言していた。
 そんなピーターの様子に、エステルは目を細めると彼に警戒する視線を送っていた。

「へぇ、それじゃ締めて250リディカね。悪かねぇが・・・こいつじゃちょっと、成立まではいかねぇかな」
「はぁ?何でよ!?250リディカよ、250リディカ!これだけあれば一か月は余裕で・・・」
「それだけ、あの嬢ちゃんの実力を疑う奴らが多いってこった。どうする、エステル?反論があるなら受け付けるぜ、勿論・・・現金でな」

 エステルがピーターへと何やら敵意の籠った視線を向けている背後で、胴元の男が彼らが叩きつけた硬貨の数を数得ている。
 その数をしっかりと数え、それを手下へと伝えた彼はしかし、その額では賭けを成立させるには十分ではないと口にしていた。

「なぁーんですって!?えぇ、いいじゃない!!足りないってんなら持ってきなさいよ!!!」
「ちょっと!?駄目ですって、先輩!!それって生活費なんじゃないんですか!?それに手をつけたら・・・!!」
「止めないで、ピーター君!!ここで退いたら女が廃るってもんよ!!あんた達、私もカレンも女だからって舐めてるんでしょ!?女だってねぇ・・・やる時はやるってところを見せてやるわ!!」
「ちょ!?先輩、それってギルドの積立金じゃないですか!?駄目ですってそれは、洒落になりませんよ!!だ、誰か!先輩を止めてください!!」

 掛け金が足りないのはそれだけカレン達が侮られているからだと、胴元の男は指で輪っかを作りながらエステルに語り掛けている。
 そんな彼の挑発にまんまと乗せられて激高したエステルは、懐から更なる資金を取り出しては、それを彼に叩きつけようとしていた。
 それは今までの余剰なお金ではなく、彼女の生活費や更にはギルドの運営に携わるお金にまで至っている。
 そんなエステルの姿に、ピーターは彼女を必死に止めようとしているが、怒りに我を忘れている彼女は、彼の呼びかけに耳を貸そうとはしなかった。

「・・・賭け金が足りないだって?こいつで足りるかい?」

 そんな騒動に割り込むように、一人の男がギルドに足を踏み入れてくる。
 担いだ大剣で建物を傷つけてしまわないように扉を潜った彼は、騒動を聞きつけると一枚の硬貨を指で弾いて寄越す。

「っ!?こいつは!?」

 指で弾かれた効果はクルクルと回転し、胴元の手の下へと収まっている。
 それを受け取り、改めてその硬貨へと目を向けた胴元は、驚愕するようにその目を見開いていた。

「ユリシーズ金貨じゃねぇか!?あんたどうやってこれ、を・・・」
「そんだけありゃ、足りるだろ?」

 銀貨とは比べ物にならないほどの価値がある金貨の登場に、胴元は目を見開いてそれを寄越した男の方へと視線を向ける。
 しかし彼の疑問は、その先の男の姿を目にした瞬間に氷解していた。
 その眼帯の大男の姿を目にした瞬間に。

「デリック、あんた本当にいいのかい?あの嬢ちゃんが依頼を成功するかって賭けだぜ?それの成功するって方に賭けて・・・」
「そりゃ、いいに決まってるだろ?あの嬢ちゃんの実力を保証したのは、この俺だぜ?それが疑ってどうするよ。何だ、足りないんならもう一枚出そうか?」

 胴元の前には、ヒーロー級冒険者のデリック・キングスガーターが立っていた。
 デリックが寄越した金貨を見せながら、胴元は彼にそれでいいのかと尋ねている。
 しかしデリックは当然だろうと肩を竦めると、さらに追加の金貨を懐から取り出そうと漁り始めていた。

「い、いや!!これで十分だ、もう必要ない!!必要ないから、それはしまってくれ!!」
「そうか?別に俺は、もう一枚出してもいいんだがな・・・」
「いや、これで十分だ!本当に!!」

 高額な硬貨を簡単に出そうとする凄腕の冒険者に、胴元の男は必死に彼を止めようと両手を前に差し出している。
 そんな男の姿に、ようやく懐からもう一枚の金貨を取り出したデリックは、それを指で摘まみながら残念そうにしていた。

「おい、お前ら!!デリックさんのお陰で、一気にレートがひっくり返ったぞ!!追加で賭けるんなら、今の内だぞ!!」

 デリックから受け取った金貨を丁寧にテーブルへと設置した胴元は、それによるレートの変動を手下が背中に引っ掛けていたボードへと記入している。
 そうして新たなレートをボードに書き記した胴元は、さらに賭けるのなら今の内だとボードを叩く。
 そこに記されたレートは今まで比較にはならず、それを目にした賭けの参加者は懐から硬貨を取り出しては殺到してきていた。

「50リディカ、50リディカだ!失敗に賭けるぜ!!」
「俺は100リディカ賭ける!!このレートなら、賭けなきゃ損だぜ」
「俺は成功に100だ!なんせ、あの爺さんはバケモンみてぇに強ぇからな!!」
「それを言ってんのはグルド、お前らだけじゃねぇか!てめぇらがあの爺に負けたから、無理やり持ち上げてるってだけだろ?無理があるっての!」
「嘘じゃねぇって言ってんだろ!!分からねぇ奴らだなぁ、手前らは!!」

 胴元の下へと殺到する冒険者達は、次々に硬貨をテーブルへと叩きつけていく。
 その中には何やら別の事を主張している大男もいるようだったが、彼の主張は周りから鼻で笑われ、相手にもされることはなかった。

「ありがとうございます、デリックさん。お陰で、助かりました・・・依頼の報告ですか?」
「あぁ、ちっとな・・・ま、俺はあの嬢ちゃんの後援者みたいなもんだから。別に助けたつもりもねぇよ」

 先輩の暴走を寸での処で食い止められたと、ピーターはデリックに深々と頭を下げている。
 そんな彼の丁寧な仕草に、デリックは逆に照れ臭そうに肩を竦めて見せていた。

「それより、いいのかエステルをあのまま放っておいて?」
「・・・え?」

 エステルを止めてくれたと礼を述べるピーター、しかしその隣には彼女の姿はなかった。
 それを指摘するデリックに、ピーターは慌てて彼が示す方へと顔を向けていた。

「あんた達、もっと失敗に賭けなさいよ!!折角大儲けしようとしてたのが、台無しじゃない!!」

 そこには、テーブルに殺到する冒険者に紛れて賭けに興じるエステルの姿があった。

「はぁ・・・そこまで面倒見きれません」
「そうか?まぁ、お前がいいなら別にいいんだが・・・おっと、どうやら話題の御両人が帰って来たらしいぞ」

 自らの懐から取り出した硬貨をチラつかせながら、周りを煽ってレートを釣り上げようとするエステルの姿に、ピーターは頭を抱えては溜め息を漏らしている。
 彼の言葉に肩を竦めたデリックは、何かに気づいたかのように後ろを振り返っていた。
 そこにはまだ、何の気配もない。
 しかし凄腕の冒険者である、彼の感覚に間違いはないだろう。
 帰ってきたのだ、話題の人が。
 エクスプローラー級冒険者、カレン・アシュクロフトが。
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