ボケ老人無双

斑目 ごたく

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栄光時代

賭け 1

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 夕暮れを迎えた冒険者ギルドには、今日も酒盛りに興じる冒険者で賑わっている。
 しかしそれらの一角では、それ以外とは違いどこか真剣な空気が漂っていた。
 彼らは一つのテーブルに、幾つもの椅子を並べては何やら顔を突き合わせて何かついて真剣に話し合っているようだ。
 そしてそのテーブルの上には、幾つもの硬貨が山となって積み重なっていた。

「あいつらが依頼を失敗するのに、もう10リディカ賭けるぜ!!」

 その中の一人の男が、銀の硬貨をテーブルに叩きつけながら、何やら宣言している。
 その内容から、どうやら彼らが何かを巡って賭けをしていることは容易に想像出来た。

「おいおい、またそっちかよ!?誰か成功する方に掛ける奴はいねぇのか?これじゃ賭けになんねぇよ!!」

 男の言葉に耳を澄ましていた周りの者達も、その内容を確認すると溜め息を吐いていた。
 それは男が叩きつけた硬貨が、運ばれた先を見れば分かるだろう。
 大まかに二つに分けられた硬貨の塊は、一方に見上げるような山が聳え立っており、もう一方には石ころが転がるばかりであった。
 それはこの賭けの掛け金が、一方ばかりに偏っていることを意味している。

「そりゃそうだろ?いくら久々に出た飛び級っていっても、あんな嬢ちゃんじゃあなぁ・・・それに嬢ちゃんだけならまだしも、あの爺さんもついていってるんだろ?流石に奇跡が二度も続かねぇわな」
「そうだそうだ!あんなのはぁ、きっとインチキに違いねぇ!!あんな小娘がオーガトロルを倒しただぁ?んなの、ある訳ねーだろ!!」

 こんな掛け金の比率では賭けが成立しないと、胴元らしき男が嘆いている。
 そんな男の嘆きに、周りの冒険者達は仕方ないだろうとにやけていた。
 彼らが賭けに対象にしているのは、あの時の出来事で冒険者としての階級を二段階も上げていたカレンが、依頼を達成して帰ってくるかどうかであった。
 あんな小娘の新人冒険者が、あっさりとそんな成功を手にしたことが気に食わない彼らは、当然の如く彼女の実力を認めていない。
 ましてやそんな小娘が、ボケてしまっている老人を連れて依頼に向かったのだ、今度こそ失敗して帰ってくるはずだと彼らは高を括っていた。

「で、でもよぉ・・・それはあのデリックさんが保証してるんだろう?あの人がわざわざそんな嘘を吐くかなぁ・・・」
「た、確かに一理あるな・・・この国で七番目の冒険者の言葉だからな」

 カレンの功績はインチキだとせせら笑う男達に、太った冒険者が異論を挟んでいる。
 彼はその功績は彼らにとっても雲上人である、あのデリック・キングスガーターが保証したものだと口にしていた。
 その言葉には説得力があったようで、彼の周りにはそれに頷いている何人もの冒険者の姿があった。

「だったらよぉ、成功の方に賭けりゃいいじゃねぇか?今なら倍率もデカくて、ウハウハだぜぇ?」
「い、いや・・・それとこれとは話が別と言うか」
「あぁん?お前らは、あの小娘の実力を信じてんだろ?だったらこの程度の依頼達成出来て当然じゃねぇか!?ほらほら、早く賭けねぇと帰ってきちまうぞ?いや、帰ってこねぇか?死んじまったら、帰ってこれねぇもんな!?ぎゃはははは!!!」

 カレンを擁護する太った冒険者に対し、彼女を扱き下ろしては笑っていた男は肩を組むと、彼にだったら彼女が依頼を成功して帰ってくる方に賭ければいいじゃないかと提案している。
 その当然ともいえる提案に、太った冒険者は汗をダラダラと流し始めると、しどろもどろと目を泳がせ始めていた。
 そんな太った冒険者の様子に満足したのか、彼へと肩を組んだ男は早く早くと彼を急かすと、ご機嫌な笑い声を響かせていた。

「へっ、口だけなら何とでもいえるわな!自信があるってんなら、態度で示せってんだ態度で。この金ぴかな光り輝く、お金っつう態度でな!」

 散々男から煽られても、太った冒険者はその懐から硬貨を取り出そうとはしない。
 そんな彼の態度に馬鹿にしたようにその身体を突き飛ばした男は、テーブルに転がっていた硬貨を一つ摘まみ上げると、それで証明してみせろと彼らを煽っている。
 そんな彼の言葉に、反論する者は現れなかった。

「あ~ぁ、これじゃ賭けになんねぇってのに・・・おい、ちゃんと掛け金をメモってるか?きっちり出した奴に返すんだぞ。きっちりやらねぇと後で揉めるからな」
「へぇ、ちゃんとやっとります」
「よし。じゃあ、悪いが皆さん。賭けも成立しなさそうだし、お開きってことで―――」

 散々煽り倒す男の言葉にも、変わりそうにない掛け金のバランスに、胴元の男が入れ替わるようにしてテーブルの前へと進み出てくる。
 彼は成立しない賭けをお開きにしようと、賭け金とそれを誰が賭けていたかをメモしていた手下へと声を掛け、それらを返却しようとしていた。

「カレンが依頼を達成して帰ってくるに、100リディカ!」

 そんな彼の目の前に、袋に入った硬貨が叩きつけられる。
 それはその言葉が嘘ではないと主張するように、テーブルへと倒れては中身の硬貨を幾つか漏れ出さしていた。

「・・・エステル、いいのかい?」
「いいに決まってるでしょ!私はカレンの実力を信じてますから!!」

 それは赤毛の美人受付嬢、エステルのものであった。
 叩きつけられた硬貨袋の中身を確認しながら、胴元の男はそれでいいのかとエステルに尋ねる。
 そんな彼の言葉に、自信満々といった様子で腰に手を当てたエステルは、問題なんてある訳がないと言い切っていた。

「いや、そっちじゃなくてだな・・・ギルド職員が、こんな賭けに参加してもいいのか?」

 しかし胴元の男が訪ねていたのは、そちらではなく彼女の職業的な立場の問題であった。

「そうですよ、先輩。これ、ギルドの規定に抵触してますよ」
「はぁ?そんな細かい事、いちいち気にしてたらギルドの受付なんかしてられますかっての!!私は毎日、こいつらみたいな冒険者相手してんのよ!?お行儀よくなんて、やってられるわけないでしょ!?もう100リディカ!!勿論、カレンが成功する方によ!!」

 そしてそれは、彼女の同僚であるピーターにも注意されてしまう。
 しかしエステルはそんなこと関係ないと断言すると、懐からもう一つ硬貨の入った袋を取り出して、それをテーブルへと叩きつけていた。

「ふふふ・・・カレンは私が担当した、初めての飛び級冒険者なんだから。あの子がこのまま活躍していけば、それとコンビの私も出世街道を・・・むふ、むふふふっ」
「はぁ・・・そういう事ですか。まぁ、そういう事なら・・・僕も50リディカほど。先輩と同じ方で」

 自らが叩きつけた硬貨に周りが呆気に取られているのを目にしたエステルは、満足そうに頷くと何やらぶつぶつと呟き始めていた。
 その呟きの内容に彼女の思惑を理解したピーターは、呆れたように溜め息を漏らすと自らも財布を取り出し、そこから硬貨をテーブルへと並べていた。
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