ボケ老人無双

斑目 ごたく

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冒険の始まり

オーガトロルとの戦い 2

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「はー・・・何だかもう、馬鹿馬鹿しくなってきちゃった。トージロー、適当にやっちゃって。ほら、これを持つの」

 死の恐怖から一転して、トージローの惚けた振る舞いを突きつけられたカレンは、そのギャップに疲れ果て深々と溜め息を吐いてしまう。
 そして全てが面倒臭くなってしまった彼女は、トージローの腰から剣を引き抜き、彼の手に無理やりそれを握らせていた。

「グルルルゥゥゥ・・・グガアアァァァ!!!」

 カレンを食い破る寸前に割り込んできたトージローの存在を警戒し、距離を取りこちらの様子を窺っていたオーガトロルも、彼が剣という明確な武器を手にすれば、もはやじっとしてもいられない。
 オーガトロルは雄叫びを上げると、その得物を振り上げてトージローの下へと一直線に突撃してくる。

「これを・・・っと、ほらちゃんとして!」
「飯か?これが終わったら飯なんか?」
「はいはい、飯よ飯。これが終わったら、ちゃんと食べさせてあげるから。ほら、頑張って」

 そんな脅威が迫っても、カレンとトージローはのんびりとしたやり取りを行っていた。
 トージローの後ろへと回り、その剣を握り締めさせた腕を無理やり振り上げようとしているカレンに対して、トージローは何度も要求している飯の話を持ち出している。
 それに適当に頷いたカレンは何とか彼の腕を振り上げさせることに成功し、それをさっそく振り下ろそうとしていた。

「それっ!!・・・あれ、何も起こらない?何でだろ、おかしいな?あの時はこんな感じで、私が苦労して倒したゴブリンを消し飛ばしたのに・・・」

 掛け声と共にトージローの腕を無理やり振り下ろしたカレンは、それによって齎される破壊を予感して目を瞑っている。
 しかし何かがおかしいと感じたカレンはすぐに目を開くと、何も起こっていない目の前の景色に首を捻っていた。

「あぁ、そっか!あの時は、くしゃみした拍子に振り下ろしたんだった!!え、何トージロー・・・あんたその力、自分でコントロール出来ないの?ちょっと、しっかりしてよ!」
「ほぁ?」

 そして疑問に首を捻っていたカレンは、今とあの時の違いを思い出すと、驚きの声を上げる。
 それは、くしゃみの有無であった。

「はー・・・これだもんなぁ。仕方ない、とりあえず鼻をくすぐってくしゃみをさせるしか・・・こら!嫌がらないの!!これしか方法がないんだから!!私だって仕方なくやってるんだからね!?」

 くしゃみという偶発的な要素に頼らなければ力のコントロールも碌に出来ない、そんな事実にカレンが頭を抱えても、トージローは呆けた表情を見せるばかり。
 カレンはそんなトージローの姿に深々と溜め息を漏らすと、服の端っこを引き千切ってはこよりを作っている。
 それを使ってトージローの鼻をくすぐり、くしゃみを出させようとするカレンに、彼は嫌だ嫌だと顔を背けてしまっていた。

「・・・ぅぁ?っ、気を失っちまってたのか?一体、どうなって・・・るん、だ?」

 オーガトロルに打ち倒され、今まで気を失っていたタックスが何とか意識を取り戻す。
 朦朧とする意識を取り戻すように軽く頭を振るっていた彼が目にしたのは、トージローを羽交い絞めにして、その鼻へとこよりを突っ込もうとしているカレンの姿だった。

「嬢ちゃん、何をやって・・・っ!?嬢ちゃん、危ねぇ!!」

 そしてその向こう側から迫る、オーガトロルの姿も。
 もはやカレン達の目の前にまで迫ったその姿に、タックスは警戒の声を上げる。
 それは彼からすれば当然の行動であったが、この状況においては悪手であった。
 何故ならば―――。

「ほぁ?誰かわしの事を呼んだかいのぅ?」
「あ、ちょっと!?そっちじゃないっての!!」

 その声に釣られて、トージローが振り向いてしまうから。
 本来の身体能力からすれば圧倒的な差のある二人に、カレンはトージローを押し留めておくことが出来ず、逆に彼に持っていかれるように身体を振り回されている。
 そうして身体ごと振り向いてしまったトージローに、その掲げたままの剣はタックス達の方へと向いていた。

「ちょ・・・そっちは不味いんだって!!っ!?こんな時に風が・・・あぁ!?こよりがぁ!!?」

 見当違いの方向へと振り向いてしまったトージローを、カレンは必死に元の方向へと戻そうとしているが、圧倒的な力の違いにそれは中々うまくいかない。
 そうこうしている間にこの森に強い風が吹き込み、周辺の木々から一斉に花粉が吹き上がり、木の葉が舞い散る。
 そしてそれに気を取られたカレンは、トージローをくしゃみさせるために必要なこよりを、風に攫われてしまっていた。

「ふぇ、ふぇ・・・」
「ちょっと、嘘でしょ!?こんなタイミングで!?」

 そして吹き上がった花粉か、それとも舞い散った木の葉がその鼻をくすぐったのか、トージローは鼻をむずむずと動かしてはくしゃみの予兆を見せ始めていた。
 しかしそれでは不味いのだ、今彼はオーガトロルの方ではなく、タックスやグルドが倒れ伏している方を向いているのだから。

「ちょ、ちょっと我慢出来ない、トージロー?お願い、少しだけ我慢して!!」
「いや、そんな場合じゃないだろ!?いいからそこから逃げるんだ!!」
「あぁもう!!ややこしいから、あんたはちょっと黙ってて!!!」

 迫りくる最悪の事態に、カレンは必死にトージローへと呼び掛けてはくしゃみを我慢させようとしている。
 そんな彼女の姿に、タックスはなにを悠長なことをしているのだと叫ぶ。
 その声にトージローの注意がまたしてもそちらに向いてしまわないかと危惧するカレンは、彼へと指を突きつけると、お前はいいから黙ってろと叫んでいた。

「ガアアァァァァッ!!!」
「ふぇ、ふぇ・・・」

 背後に迫るオーガトロルも、もはやその息遣いが感じられるほどに近づいている。
 そしてトージローのくしゃみの予兆も、もはや引き返せない所まで来ているようだった。

「あぁぁぁぁ!!もう、どうなっても知らないから!!!」

 ここまで来たらもはや止めようもないと、カレンは全身の力を振り絞って、トージローの身体を無理やり前へと、つまりオーガトロルの方へと振り向かせる。
 それが成功したかどうかを確認する暇もなく、彼女は逃げるように転がりだし、小さくなっては目を瞑る。

「ふぇぇぇっくしょん!!!」

 そしてそれは、放たれた。
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