ボケ老人無双

斑目 ごたく

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冒険の始まり

弱点の露呈

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「燃えろおおぉぉぉぉぉ!!!」
『ぐぎゃああああぁぁぁ!!?』

 勇ましい雄叫びと共に響いた悲鳴が、立ち上る炎に彩を添えている。
 小柄なゴブリンよりもさらに身体を小さくしてその懐へと潜りこんだカレンは、手にした杖を振るって彼の顎をかち上げると、その胸へと空いている手を押しつけていた。
 そして腹の底から響くような声を上げた彼女はそこから炎を迸らせ、ゴブリンの身体を燃え上がらせていた。

「へへへ・・・どんなもんよ?私だってねぇ・・・こんぐらいはやれるんだから!!」

 燃え盛る炎に包まれ、その全身を焼き尽くされてしまったゴブリンは、悲痛な叫び声を上げながらやがて倒れ伏し、そのまま動かなくなってしまう。
 その様を見下ろしながら背中を木へと預けたカレンは、誇らしそうな笑みを浮かべると、自らの力を誇って見せる。
 その頬は、炎に煽られ赤く染まり、僅かに煤を被っては黒ずんでしまっていた。

「お爺様からいつか勇者様と旅することになるって言われて、それに備えてずっと修行してきたのよ?世界を救う勇者様をお支えするんだって、お勤めの後に来る日も来る日も・・・その勇者様がねぇ、あんなのだったからって、その修業が消えてなくなる訳じゃないんだから、ゴブリンなんかに負ける訳ないでしょ!!さぁ、どっからでも掛かってきなさい!!」

 祖父から、いつか勇者と旅をすることになると言われた少女は、そんな日々を夢見て修行の日々を歩んでいた。
 その夢の中には溢れんばかりの栄光と、もしかするとロマンスも含まれていたかもしれない。
 それが現れた勇者がボケた老人という現実に打ち砕かれても、積み重ねてきた日々までが嘘を吐く訳ではない。
 そう啖呵を切りながら、カレンはゴブリン達を睨みつける。
 その迫力に、彼らもまた臆してしまっているようだった。

「ほらほら、どうしたのよ!?びびっちゃったの、こんな女の子一人相手に!?こないんだったら、こっちから行くわよ!?」

 仲間の一人が残酷な方法で殺害され、それをした相手が何やら怨念の籠った視線を向けてくる。
 そんな状況に臆してしまったのか、ゴブリン達はお互いに顔を見合わせては、じりじりとカレンから距離を取っていく。
 そんな彼らの姿に、カレンは煽るようにそちらへと伸ばした杖を動かしていた。

「こっちにはねぇ、魔法だってあるんだから!距離を取ったって無駄なのよ?ちゃんと分かってるんでしょうね!?ほらほら、燃やしちゃうわよ~」

 少しばかり距離を取った所で、魔法を放てばそんなものは意味を為さなくなる。
 それを証明するように、カレンはその左手に炎を宿らせてみせる。
 彼女はそれを、つけたり消したりを繰り返すことで、ゴブリン達に逃げても無駄だとアピールしていた。

『お、おい・・・どうする?このままじゃ俺達、あいつと同じように焼かれちまうぞ?』
『でもよ、逃げたってどうせ後ろから打たれるんだろう?だったらどうすれば・・・』
『おい!どうでもいいから早く決めろ!!このままじゃ、なぶり殺しだぞ!!』

 カレンが話す言葉は分からなくても、それが言わんとしていることは伝わっている。
 そんな彼女の脅しに動揺し、ゴブリン達は焦った様子でお互いに意見をぶつけ合っている。
 しかしこの不利な状況に、彼らの意見は一向にまとまる様子はなかった。

『分かってる!!だからこうして考えて・・・おい、おかしくないか?』

 このままでは不味いと叫ぶゴブリンに、彼に怒鳴りつけられたゴブリンもそんな事は分かっていると叫び返している。
 そうして再び頭を悩ませようとしていたゴブリンは、ふと何かに気がついたかのように顔を上げていた。

『何がおかしいってんだ!?俺らが雁首揃えて、あんなメスニンゲン一人に手こずってるって事か!?あぁ、おかしいねぇ!!おかしくって、ドブネズミの肉で御馳走が出来らぁ!!』
『そうじゃねぇよ!!そっちじゃなくて、あいつがおかしいって話だ!!あのメスニンゲンがだ!』
『あぁ?どういう事だよ?』

 顔を上げたゴブリンの言葉に、仲間のゴブリンは自嘲気味に表情を歪ませる。
 そんな彼の言葉に、そうではないと叫んだゴブリンはカレンの事を指差していた。
 その先では、カレンが相変わらずその左手に炎を宿しては消してを繰り返している。

『だっておかしいだろ?あいつ魔法が使える筈なのに、さっきから打ってこないじゃないか?俺達はこうして隙だらけなのに』
『あぁ?そりゃ、俺達がこうして木の陰に隠れてるからだろ?』
『それでも打ってこない理由はないだろ?一方的に攻撃出来るんだからさ。そう考えると、あのメスニンゲンもしかして・・・直接触らないと、魔法で攻撃出来ないんじゃないか?』

 細身のゴブリンが気がついたのは、カレンが一向に手に宿した炎をこちらへと打ってこないという事実であった。
 その事実から、彼女が魔法を離れた場所に放つことが出来ないのではないかと彼は仮定する。

「そらそらー!そんな所の隠れてないで、さっさとかかってきなさーい!!」

 その推測を裏付けるように、カレンは相変わらずその場から魔法を放つことをせず、彼らに対して挑発するようにその手にした杖を振るうばかりであった。

『おい・・・そうだとすると、俺達はどうすりゃいいんだ?』
『そりゃ決まってるだろう?あっちが飛び道具を使わないんだったら、こっちが使うって話さ』
『飛び道具たって・・・そんなの、俺達も用意しちゃいねぇぞ?』
『・・・あるだろそこに』
『あぁ?』

 一向にその手に宿した炎を放とうとしないカレンの姿に、その推測が間違っていないと確信した細身のゴブリンは、それならばこちらが飛び道具を使い、一方的に攻撃しようと提案する。
 その提案に体格のいいゴブリンは、こっちも飛び道具など用意していないと首を捻るが、そんな彼に細身のゴブリンは地面を指差して見せていた。
 そこには枯葉や小枝に紛れて、小ぶりな石が転がっていた。
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