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冒険の始まり
そして誰もいなくなった
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「魔王を倒したと認められなかった?」
カレンから事情を聞いたマリオンは、そう疑問を口にする。
想定外の事態に急遽開催された事情聴取は、カレンの周りを取り囲んで行われた。
その中心で小さくなって事情を説明するカレンの姿はまるで、何か犯罪を起こした者のようだった。
「うん、そうなの。あのお金もお爺様が亡くなった見舞金として渡されたもので、魔王討伐の褒賞金として渡されたものじゃないの」
「どうしてですか!?現に大魔王エヴァンジェリンを撃退したじゃないですか!?それなのに何で・・・」
「そ、それは・・・」
自らの説明に驚くマリオンに、カレンはあのお金すら褒賞金として渡されてものではないと白状する。
その言葉にどうしてと立ち上がっては問い詰めてくるマリオンに、カレンは言葉を詰まらせると、ある方向へと視線を向けていた。
「だ、駄目ですよトージロー様!まだお話の途中ですから・・・!」
「止めんでくれ!わしは、わしはさっきの子に・・・婆さんにもう一度会いに行くんじゃあ!!」
その視線の先には、訳の分からないことを呟きながらどこかへと向かおうとしているトージローと、それを必死に引き留めているダリアの姿があった。
「あぁ、その・・・トージロー様の所為ですか?」
「うん。そのね・・・トージロー様がとてもじゃないが勇者には見えないって言われちゃって。大魔王エヴァンジェリンを倒したって言っても、全然信じてもらえなくて・・・」
カレンが視線を向けた先のトージローの姿に、誰もが事情を察し押し黙ってしまう。
彼の言葉を代弁したマリオンにカレンは頷き、そこであった出来事を語っていく。
そのもっともな内容に、誰も反論することが出来ずにその場には重苦しい沈黙が流れていた。
「で、でもね!協力して頑張ればどうにかなると思うの!!お金も少なかったけど貰えたし、一か月後の期限まで皆で頑張って―――」
その重苦しい空気を何とか払しょくしようと、軽く手を叩いたカレンは努めて明るい表情できっと何とかなると皆を励ましている。
それは気休めに過ぎない言葉ではあったが、彼女のその明るく前向きな振る舞いは、それで何とか周りを元気づけようとしていたのは間違いなかった。
「あの・・・少しよろしいでしょうか、カレン様?」
「え?うん、何?」
しかしその言葉にも、多くの者は俯き暗い表情を浮かべたまま。
そしてやがてその中の一人が、重い口を開いては恐る恐るカレンに声を掛けていた。
「その、私達はそれに協力出来ません」
「え!?ど、どうして!?」
そして彼らは、カレン達には協力出来ないとはっきりと告げていた。
「カレン様には申し訳ありませんが、私達は王都の教会に戻ります。元々、私達はそこからここに派遣された形ですから・・・エセルバード様も亡くなり神殿もこの有り様では、これ以上ここにいる訳には・・・」
「そ、そうなんだ。それは、仕方ないよね・・・うん、分かった。向こうについても、頑張ってね」
彼らは元々、王都にある教会からここに派遣されていた神官達であった。
その彼らが古巣に帰るというのを、一体誰が止められるだろうか。
カレンはチラリと背後のボロボロな神殿の姿に目をやり、引き留める事など出来ないと諦めると、納得に頷いていた。
「了承いただき、ありがとうございます。では、これで」
「あ、荷造りも済ませてるんだ。そっか・・・」
カレンから許可を貰った神官達は立ち上がると、そのままそれぞれの荷物を抱えてこの場を後にしていく。
その手際のいい振る舞いに、カレンはどこか釈然としない様子で彼らの事を見送っていた。
「それじゃ私達も行こっか、ダリア?」
「・・・うん」
元々、エヴァンジェリンと戦ったあの日、崩壊した神殿から多くの神官達がここを去っていた。
今、そこからさらに多くの神官が去ったことで、この場に残ったのはカレンとトージロー、そして後は若い女性神官二人ぐらいになってしまっていた。
そしてその二人も、その場から立ち上がろうとしている。
「ちょ、ちょっと待って!?ダリア、マリオン!まさか二人も・・・?」
その場から立ち上がった二人を、カレンは信じられないという表情で見上げている。
彼女にとって年も近く仲も良かった二人がこの場を去ることなど、考えてもいない事態だったのだ。
「んー・・・その、申し訳ないんだけど、この状況じゃあね。私も地元にいい縁談の話があるんだ、それを断ってまでここに残るのは、ね・・・」
「私も、故郷が大変だって聞いて・・・放っておけなくて。その・・・ごめんなさい、カレン様!」
目を見開き固まってしまっているカレンに対し、マリオンは気まずそうに頭を掻くと、ここに残れない理由を説明する。
彼女に続いて事情を説明したダリアは、カレンに対してお詫びするように深く頭を下げており、その真っ当な理由も相まってそれを引き留めるのは悪い気にさせていた。
「そっか、そうなんだ・・・二人とも故郷に帰るんだ。そうだよね、大事だよね故郷って・・・うん、分かった。二人とも故郷に戻っても頑張ってね。私もトージロー様と頑張って、きっと神殿を立て直して見せるから・・・」
ダリアの真摯な態度に、そして今の神殿の状況に彼女達を引き留めることは出来ないと悟ったカレンは、寂しそうな笑顔で二人を見送ろうとしている。
「カレン様・・・」
「ほら、行くよダリア!」
「う、うん・・・」
そんなカレンの姿に、ダリアは後ろ髪を引かれるようにその場に立ち尽くしてしまう。
しかしそんな彼女をマリオンが手を伸ばして、無理やり引っ張っていく。
「・・・誰もいなくなっちゃったな」
二人の姿が見えなくなるまでその手を振っていたカレンは、その姿が見えなくなるとポツリと呟く。
彼女の背後には、廃墟と化した神殿の姿が。
それは陰り始めた日差しに、彼女の未来を象徴するように不気味なシルエットへと姿を変え始めていた。
カレンから事情を聞いたマリオンは、そう疑問を口にする。
想定外の事態に急遽開催された事情聴取は、カレンの周りを取り囲んで行われた。
その中心で小さくなって事情を説明するカレンの姿はまるで、何か犯罪を起こした者のようだった。
「うん、そうなの。あのお金もお爺様が亡くなった見舞金として渡されたもので、魔王討伐の褒賞金として渡されたものじゃないの」
「どうしてですか!?現に大魔王エヴァンジェリンを撃退したじゃないですか!?それなのに何で・・・」
「そ、それは・・・」
自らの説明に驚くマリオンに、カレンはあのお金すら褒賞金として渡されてものではないと白状する。
その言葉にどうしてと立ち上がっては問い詰めてくるマリオンに、カレンは言葉を詰まらせると、ある方向へと視線を向けていた。
「だ、駄目ですよトージロー様!まだお話の途中ですから・・・!」
「止めんでくれ!わしは、わしはさっきの子に・・・婆さんにもう一度会いに行くんじゃあ!!」
その視線の先には、訳の分からないことを呟きながらどこかへと向かおうとしているトージローと、それを必死に引き留めているダリアの姿があった。
「あぁ、その・・・トージロー様の所為ですか?」
「うん。そのね・・・トージロー様がとてもじゃないが勇者には見えないって言われちゃって。大魔王エヴァンジェリンを倒したって言っても、全然信じてもらえなくて・・・」
カレンが視線を向けた先のトージローの姿に、誰もが事情を察し押し黙ってしまう。
彼の言葉を代弁したマリオンにカレンは頷き、そこであった出来事を語っていく。
そのもっともな内容に、誰も反論することが出来ずにその場には重苦しい沈黙が流れていた。
「で、でもね!協力して頑張ればどうにかなると思うの!!お金も少なかったけど貰えたし、一か月後の期限まで皆で頑張って―――」
その重苦しい空気を何とか払しょくしようと、軽く手を叩いたカレンは努めて明るい表情できっと何とかなると皆を励ましている。
それは気休めに過ぎない言葉ではあったが、彼女のその明るく前向きな振る舞いは、それで何とか周りを元気づけようとしていたのは間違いなかった。
「あの・・・少しよろしいでしょうか、カレン様?」
「え?うん、何?」
しかしその言葉にも、多くの者は俯き暗い表情を浮かべたまま。
そしてやがてその中の一人が、重い口を開いては恐る恐るカレンに声を掛けていた。
「その、私達はそれに協力出来ません」
「え!?ど、どうして!?」
そして彼らは、カレン達には協力出来ないとはっきりと告げていた。
「カレン様には申し訳ありませんが、私達は王都の教会に戻ります。元々、私達はそこからここに派遣された形ですから・・・エセルバード様も亡くなり神殿もこの有り様では、これ以上ここにいる訳には・・・」
「そ、そうなんだ。それは、仕方ないよね・・・うん、分かった。向こうについても、頑張ってね」
彼らは元々、王都にある教会からここに派遣されていた神官達であった。
その彼らが古巣に帰るというのを、一体誰が止められるだろうか。
カレンはチラリと背後のボロボロな神殿の姿に目をやり、引き留める事など出来ないと諦めると、納得に頷いていた。
「了承いただき、ありがとうございます。では、これで」
「あ、荷造りも済ませてるんだ。そっか・・・」
カレンから許可を貰った神官達は立ち上がると、そのままそれぞれの荷物を抱えてこの場を後にしていく。
その手際のいい振る舞いに、カレンはどこか釈然としない様子で彼らの事を見送っていた。
「それじゃ私達も行こっか、ダリア?」
「・・・うん」
元々、エヴァンジェリンと戦ったあの日、崩壊した神殿から多くの神官達がここを去っていた。
今、そこからさらに多くの神官が去ったことで、この場に残ったのはカレンとトージロー、そして後は若い女性神官二人ぐらいになってしまっていた。
そしてその二人も、その場から立ち上がろうとしている。
「ちょ、ちょっと待って!?ダリア、マリオン!まさか二人も・・・?」
その場から立ち上がった二人を、カレンは信じられないという表情で見上げている。
彼女にとって年も近く仲も良かった二人がこの場を去ることなど、考えてもいない事態だったのだ。
「んー・・・その、申し訳ないんだけど、この状況じゃあね。私も地元にいい縁談の話があるんだ、それを断ってまでここに残るのは、ね・・・」
「私も、故郷が大変だって聞いて・・・放っておけなくて。その・・・ごめんなさい、カレン様!」
目を見開き固まってしまっているカレンに対し、マリオンは気まずそうに頭を掻くと、ここに残れない理由を説明する。
彼女に続いて事情を説明したダリアは、カレンに対してお詫びするように深く頭を下げており、その真っ当な理由も相まってそれを引き留めるのは悪い気にさせていた。
「そっか、そうなんだ・・・二人とも故郷に帰るんだ。そうだよね、大事だよね故郷って・・・うん、分かった。二人とも故郷に戻っても頑張ってね。私もトージロー様と頑張って、きっと神殿を立て直して見せるから・・・」
ダリアの真摯な態度に、そして今の神殿の状況に彼女達を引き留めることは出来ないと悟ったカレンは、寂しそうな笑顔で二人を見送ろうとしている。
「カレン様・・・」
「ほら、行くよダリア!」
「う、うん・・・」
そんなカレンの姿に、ダリアは後ろ髪を引かれるようにその場に立ち尽くしてしまう。
しかしそんな彼女をマリオンが手を伸ばして、無理やり引っ張っていく。
「・・・誰もいなくなっちゃったな」
二人の姿が見えなくなるまでその手を振っていたカレンは、その姿が見えなくなるとポツリと呟く。
彼女の背後には、廃墟と化した神殿の姿が。
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