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冒険の始まり
墓前にて
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見晴らしのいい丘に、簡素だがしっかりとした作りの杖が突き刺さっている。
その前には金色の髪の少女が跪き、手を合わせては黙祷していた。
遮る者が何もない丘の上に強い風が吹き、少女の髪を揺らす。
彼女はその感触に、長い時間閉じていた目蓋をゆっくりと開いていた。
「お爺様、いつかきちんと立派なお墓を立てますから・・・今はこれで、我慢してくださいね」
その目を薄く開いた金色の髪の少女は、目の前の地面へと突き立てられた杖に向かって謝罪の言葉を告げる。
それはその下に埋まっている彼女の祖父、エセルバードに向けたものだろう。
「あれから、神殿の補修もまだ進んでいません。今は皆で協力して、何とか頑張っている所です。そうそう、聞いてくださいお爺様!お爺様が召喚した勇者様のお名前が分かったのです!トージロー様っていうんですって。ふふふ・・・異国的で不思議な響きのお名前」
皆を、世界を、そして自分を救うために自らの命を犠牲にした祖父に対して近況を報告するカレンの表情は優しい。
しかしその優しい笑顔は、どこか今にも泣きだしてしまいそうな脆さも覗かせていた。
「・・・お爺様、私はこれからトージロー様と王都に向かいます。そしてその後はお爺様との約束通り、世界を回ろうと思います。お爺様は常々仰っていましたもんね『勇者の力を自分だけのものにしてはいけない!皆のために使うのだ!!』って」
合わせた手を解いて、カレンは祖父の形見であり墓標でもある杖へとその手を伸ばす。
そしてそれをそっと撫でた彼女は、かつてを懐かしむように生前の彼の口調を真似ていた。
「私、実は楽しみなんです。勇者様と、トージロー様と世界を回るの。お爺様に子供の頃から言い聞かされてきたから・・・ううん、きっと子供の頃からの夢なんです。勇者様のお付きの神官として、困った人達を助けて回るのが」
まだ日が昇って間もないのか、カレンの唇から漏れる息は白く霞んでいる。
その吐き出す息が感情に滲んで、さらに白く濁っていた。
「はー・・・夢が叶っちゃったなぁ。勇者様と一緒に冒険して、悪い奴らをやっつけて、困っている人を救って・・・そして、お爺様に褒めて貰うの」
見上げた空に、涙が零れる。
吐き出した息で霞んだ視界が晴れると、その向こう側には抜けるような青空が広がっていた。
「褒めて、貰いたかったなぁ・・・ぐすっ、ぐすっ・・・お爺様ぁ、どうして・・・どうして死んじゃったの・・・」
一度、零れてしまった涙はやがて嗚咽に変わって。
カレンは目元を押さえては、そこから止め処なく涙を流している。
彼女がその喉から絞り出した問い掛けに答えてくれる者は、もうそこにはいなかった。
「っ、誰!?・・・トージロー様?」
一人、祖父の墓標の前で涙していたカレンの背後から、草むらを掻き分けるような物音が聞こえてくる。
それに振り返ったカレンが目にしたのは、そこに佇む老人、彼女達が召喚した勇者トージローであった。
「・・・慰めに来てくれたんですか?」
突然現れ、しばらく草むらの中でぼーっと突っ立っていたトージローは、現れた時と同じように突然カレンの方へとふらふらと近寄ってくる。
そんな彼の姿に、カレンは目元に残った涙を拭いながら訪ねる。
しかしトージローは、そんな彼女の横を通り過ぎると、その近くに生えていた真っ白な花の前まで歩いていく。
「・・・お花、好きなんですか?」
「おぉ、そうじゃそうじゃ。好きなんじゃよ、この花・・・スミレじゃろ?なぁ、よし枝さんや」
「ふふっ、そうなんですか。でもこの花、スミレ?っていう花じゃないですよ。ええと名前は・・・ユキマネグサ、確かユキマネグサです。ほら、雪みたいな綺麗な色しているでしょう?」
白い花の前に佇み、ぼーっと突っ立っているトージローへとカレンは近づき、声を掛ける。
それに反応したトージローはやはり、彼女の事もよく分かってはいないようだ。
そんな彼の反応に笑みを漏らしたカレンは、僅かに明るくなった表情でその花を指し示してみせていた。
「カレン様、カレン様ー!!王宮からの迎えが来ておられます!!カレン様ー、どこにおられるのですかー!!」
カレンの説明にも、トージローはぼんやりとした表情を向けるばかり。
そんな彼らの背後から、カレンの事を探し求める声が響いていた。
「・・・迎えが、もう行かないと。さぁ、トージロー様も」
「おぉ!飯の時間かいのぅ?」
「もぅ、朝ご飯ならさっき食べたばかりじゃないですか」
迎えの声に立ち上がったカレンは、トージローへと手を伸ばす。
その手を取ったトージローはしかし、やはりそれが何の事やら理解してはいないようだった。
「・・・トージロー様のお世話はちょっと大変だけど、私頑張ります。だから見守っていてくださいますか、お爺様?」
トージローの手を無理やり引っ張りながら声のした方へと向かうカレンは、一度振り返り空を見上げる。
そしてそこにいる筈の誰かに向かって、彼女は誓いを口にしていた。
「まずは王様からの褒賞金で神殿を立て直さないと!!大魔王を倒して、世界を救ったんだから十分な額が貰える筈よね?それに世界を回るんだから、そのための軍資金も貰わないと!えっと、トージロー様用の武器も欲しいでしょ?それに私のだって、物置から引っ張り出してきたお爺様のお古だし、出来れば新調したいなぁ。あぁ!それに世界を回るんなら、ご当地のグルメだって・・・じゅるり。よーし、何だかやる気出てきたぞー!!」
「お、おぉー」
遥かな彼方へと遠い視線を向けていたカレンは、それを地上へと戻すと現実の希望へと燃えていた。
彼女はこれから向かう王都へと妄想を膨らませると、そのこぶしを握りしめて振り上げる。
そんな彼女に釣られて、トージローもまたその手を振り上げて、緩い雄叫びを上げていた。
その前には金色の髪の少女が跪き、手を合わせては黙祷していた。
遮る者が何もない丘の上に強い風が吹き、少女の髪を揺らす。
彼女はその感触に、長い時間閉じていた目蓋をゆっくりと開いていた。
「お爺様、いつかきちんと立派なお墓を立てますから・・・今はこれで、我慢してくださいね」
その目を薄く開いた金色の髪の少女は、目の前の地面へと突き立てられた杖に向かって謝罪の言葉を告げる。
それはその下に埋まっている彼女の祖父、エセルバードに向けたものだろう。
「あれから、神殿の補修もまだ進んでいません。今は皆で協力して、何とか頑張っている所です。そうそう、聞いてくださいお爺様!お爺様が召喚した勇者様のお名前が分かったのです!トージロー様っていうんですって。ふふふ・・・異国的で不思議な響きのお名前」
皆を、世界を、そして自分を救うために自らの命を犠牲にした祖父に対して近況を報告するカレンの表情は優しい。
しかしその優しい笑顔は、どこか今にも泣きだしてしまいそうな脆さも覗かせていた。
「・・・お爺様、私はこれからトージロー様と王都に向かいます。そしてその後はお爺様との約束通り、世界を回ろうと思います。お爺様は常々仰っていましたもんね『勇者の力を自分だけのものにしてはいけない!皆のために使うのだ!!』って」
合わせた手を解いて、カレンは祖父の形見であり墓標でもある杖へとその手を伸ばす。
そしてそれをそっと撫でた彼女は、かつてを懐かしむように生前の彼の口調を真似ていた。
「私、実は楽しみなんです。勇者様と、トージロー様と世界を回るの。お爺様に子供の頃から言い聞かされてきたから・・・ううん、きっと子供の頃からの夢なんです。勇者様のお付きの神官として、困った人達を助けて回るのが」
まだ日が昇って間もないのか、カレンの唇から漏れる息は白く霞んでいる。
その吐き出す息が感情に滲んで、さらに白く濁っていた。
「はー・・・夢が叶っちゃったなぁ。勇者様と一緒に冒険して、悪い奴らをやっつけて、困っている人を救って・・・そして、お爺様に褒めて貰うの」
見上げた空に、涙が零れる。
吐き出した息で霞んだ視界が晴れると、その向こう側には抜けるような青空が広がっていた。
「褒めて、貰いたかったなぁ・・・ぐすっ、ぐすっ・・・お爺様ぁ、どうして・・・どうして死んじゃったの・・・」
一度、零れてしまった涙はやがて嗚咽に変わって。
カレンは目元を押さえては、そこから止め処なく涙を流している。
彼女がその喉から絞り出した問い掛けに答えてくれる者は、もうそこにはいなかった。
「っ、誰!?・・・トージロー様?」
一人、祖父の墓標の前で涙していたカレンの背後から、草むらを掻き分けるような物音が聞こえてくる。
それに振り返ったカレンが目にしたのは、そこに佇む老人、彼女達が召喚した勇者トージローであった。
「・・・慰めに来てくれたんですか?」
突然現れ、しばらく草むらの中でぼーっと突っ立っていたトージローは、現れた時と同じように突然カレンの方へとふらふらと近寄ってくる。
そんな彼の姿に、カレンは目元に残った涙を拭いながら訪ねる。
しかしトージローは、そんな彼女の横を通り過ぎると、その近くに生えていた真っ白な花の前まで歩いていく。
「・・・お花、好きなんですか?」
「おぉ、そうじゃそうじゃ。好きなんじゃよ、この花・・・スミレじゃろ?なぁ、よし枝さんや」
「ふふっ、そうなんですか。でもこの花、スミレ?っていう花じゃないですよ。ええと名前は・・・ユキマネグサ、確かユキマネグサです。ほら、雪みたいな綺麗な色しているでしょう?」
白い花の前に佇み、ぼーっと突っ立っているトージローへとカレンは近づき、声を掛ける。
それに反応したトージローはやはり、彼女の事もよく分かってはいないようだ。
そんな彼の反応に笑みを漏らしたカレンは、僅かに明るくなった表情でその花を指し示してみせていた。
「カレン様、カレン様ー!!王宮からの迎えが来ておられます!!カレン様ー、どこにおられるのですかー!!」
カレンの説明にも、トージローはぼんやりとした表情を向けるばかり。
そんな彼らの背後から、カレンの事を探し求める声が響いていた。
「・・・迎えが、もう行かないと。さぁ、トージロー様も」
「おぉ!飯の時間かいのぅ?」
「もぅ、朝ご飯ならさっき食べたばかりじゃないですか」
迎えの声に立ち上がったカレンは、トージローへと手を伸ばす。
その手を取ったトージローはしかし、やはりそれが何の事やら理解してはいないようだった。
「・・・トージロー様のお世話はちょっと大変だけど、私頑張ります。だから見守っていてくださいますか、お爺様?」
トージローの手を無理やり引っ張りながら声のした方へと向かうカレンは、一度振り返り空を見上げる。
そしてそこにいる筈の誰かに向かって、彼女は誓いを口にしていた。
「まずは王様からの褒賞金で神殿を立て直さないと!!大魔王を倒して、世界を救ったんだから十分な額が貰える筈よね?それに世界を回るんだから、そのための軍資金も貰わないと!えっと、トージロー様用の武器も欲しいでしょ?それに私のだって、物置から引っ張り出してきたお爺様のお古だし、出来れば新調したいなぁ。あぁ!それに世界を回るんなら、ご当地のグルメだって・・・じゅるり。よーし、何だかやる気出てきたぞー!!」
「お、おぉー」
遥かな彼方へと遠い視線を向けていたカレンは、それを地上へと戻すと現実の希望へと燃えていた。
彼女はこれから向かう王都へと妄想を膨らませると、そのこぶしを握りしめて振り上げる。
そんな彼女に釣られて、トージローもまたその手を振り上げて、緩い雄叫びを上げていた。
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