求めていた俺

メズタッキン

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第4部 「摩天楼の決戦編」

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31話



『芭部流の塔』 最上階。 決勝戦が行われる舞台だ。 高さ的には、丁度雲を突っ切るか突っ切らないかスレスレである。
構造は下の階層とほぼ同じである。

と、言うのは前置きで。

最上階の観客席で一人、愚痴をこぼしている男がいた。敷島悠人だ。

「ああ、足腰が痛いもー。桐生はテレポート機能付きエレベーターで一瞬だけどさあ、観客はみんな階段で上の階に上がらなきゃいけないんだぜ? なんだもー、この待遇の差は。」

「桐生は僕ら以上に苦労して来たんだよ? その事を鑑みれば・・」

「ああハイハイ言われんでもわかってるよサファイ。」


「あ、決勝戦始まるっぽいぞ。」

栗山マナトが指差す方向。それは闘技場の中央だ。
そこには桐生と対戦相手が向かい合っていた。


『みなさんお待たせしました!!とうとうやって来ましたね。皇楼祭決勝戦です! 最後の戦いを飾るのは、 今年デビューにして素晴らしい成果を挙げてきた、桐生選手と!
対するのは、皇楼祭四年連続チャンピオン、
我らが 戦士の鑑! " 牟田一尊 " !!
いやー、ついにやって来ましたねー。現在の心境はどうですか?解説の牟田さん・・・
あ、そうでした。 言い忘れていましたが、皇楼祭の四年連続チャンピオンとは、彼の事でした!! あはは。』


「はぁ!?」
流石に驚く桐生。

『と、言うわけで、みなさん。決勝戦の実況と解説は私が兼ねて行おうと言う方針でいい?』


(いいともーーーッ!!)

観客席から古いリアクションが返ってきた。


すると牟田一尊という先代のチャンピオンが口を開いた。

「済まないね、桐生選手。今まで身分を隠していて。」

「流石元チャンピオン。やる事が違うね。」

「そうだろう?」

「別に褒め言葉でもねーんだけどな。」

「あっはっは。まあどうでもいいか!
おーーい、実況の佐藤さーん、始めちゃっていいぞーー。」

牟田という男。 元チャンピオンという割には温厚でのほほんとした感じの人物である。
だが桐生は経験則からして只者ではない事はなんとなく感じていた。


『それでは皇楼祭決勝戦、はじめッッ!!』

ビーーーーーーーーッ!!


ドッッッッッッッッ


「え?」

試合開始直後だった。 牟田の心臓の辺りから刃物のようなものが突き出た。否。正確には
何者かに突き刺された、と言うのが妥当か。



「おいおい、まさか俺もこんな展開は予想してなかったぞ・・。」

桐生はすぐに気付いた。 目の前の対戦相手が何者かの手によって背後から刀剣で胸を刺された事を。 そして彼の胸から大量の血が吹き出し、そのまま還らぬ人となった事を。

「牟田ッ!?おい、しっかりしろ!!」

桐生は牟田に声をかけるが後の祭りだった。
倒れた牟田の周りには血の水溜りができていた。

余りにも唐突な出来事に会場も騒然としていた。


そして桐生は、牟田を背後から暗殺した犯人の姿を確認する。

そこにいたのは・・

「野人・・!?」

桐生の目に映った殺人鬼の特徴は、鷲のような頭に翼、ゴリラの胴体、そして悪魔のような尻尾が生えている人型の怪物だった。
やがてその怪人は蛇のような長い舌で牟田の血がこべりついた刀剣を舐めると、桐生に話しかけてきた。

「目標、ハッケン。桐生、確保スル。」

野人は刀剣を握り、桐生に向かって突進してきた。

「桐生、覚悟シロ!!」

「まずい、やられる!!」

桐生は思わず目を瞑り掌を前に突き出した。
だが意味はなかった。

バキッッ!!

既に誰かが野人の顔面に跳び蹴りを喰らわせていたからだ。



「一ノ瀬!!」

桐生が叫んだ。

「やあ、僕の盟友が窮地に晒されてたのを偶然目撃してしまってね。」

言いながらかつての宿敵は地面に着地する。
蹴飛ばされた野人は十メートルほど遠くに吹き飛び、観客席に突っ込んだ。


「グ・・ガ・・。」

野人はそのままピクリとも動かなくなった。

「キャーーーー!!」

突然の襲撃者を見た周りの観客たちはパニックに陥り、四方八方に散乱する。 そしてパニックは会場全体に伝染した。


『みなさん、落ち着いてください!!』

実況の佐藤が観客たちを必死になだめようとする。

だが、不運なことに襲撃者の野人は1人ではなかった。

「オマエも他人事じゃネエゾ。」

実況席の佐藤のすぐ後ろでは巨大な斧を振り翳している野人がいた。

『あ、あなたはッッ!?』

「サヨーナラ。」

ズバァッッ!!

斧はそのまま真下に振り下ろされ、佐藤の胴体が真っ二つに切り裂かれた。 実況部屋は真っ赤に染め上げられる。

そして斧を持った野人がトランシーバーを取り出して、口元に当てて言った。

「今デス。」


すると。




バッガーーーーーーーーーーン!!!!!!


爆音が響いたと思ったら、芭部流の塔の天井がオープンカーのようにごっそりと削り取られていた。 闘技場と観客席全体を青空と太陽が覗いている。 まるで竹取物語に出てくる切り落とされた竹のようだ。

空前絶後の破壊力を前に言葉を失う一同。


「な、ななな、何事だもーーーッ!?」

敷島が目を丸くして空を見上げると、数百体もの野人が空中を漂っていた。 そしてその中心には天使と悪魔を合成したような巨大な翼を広げている『人間』の姿があった。 おそらく野人の大軍を率いる統領だろう。
しかし真っ黒なシルエットに包まれているため容姿は確認できない。

「い、一体何者なんだもー!?」
敷島の声は統領の『人間』の耳には届かなかった。
やがて真っ黒なシルエットに包まれた『人間』は巨大な翼をバッサバッサとはためかせながら無言のまま桐生と一ノ瀬の前に静かに降り立った。 その後に続くように野人達も
次々と闘技場の上に降りていく。


「誰だテメェは!!」

目の前に突然現れた『人間』を睨みつける桐生。


「ごきげんよう、桐生。」

神秘とも言えるほどの巨大な翼を生やし、黒い影に包まれている『人間』がようやく一言目を放った。 どこか聞き覚えのある声で・・。


「お、お前・・・、まさか・・」


「聞いたことはあるだろう?『冥王』の名を。」

『冥王』。

それは桐生がずっと追っていた存在。
本来なら宇宙にいるはずの存在。
太古の昔から多くの大陸を滅ぼしてきた破壊の根源。


やがて全身を包む漆黒のベールが剥がれていき、遂にその正体が露わになった。
それを見た桐生は率直な感想を述べてみた。








         「こりゃまた派手な再会だな、白石。」












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