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第3部 「龍神の地底湖編」
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16話
「で、お主らは何しにきたのじゃ?」
(どうしよう。神聖な地底湖に釣りをしにきたなんてとても言えない・・。)
「釣りをしにきたんじゃろ?正直に話せばよかろう。」
「なっ、知っていたんですか!?」
「当然じゃ。ワシはこの場所に長年住んでいる。今まで色んな人間がワシの元に尋ねてきた。だから顔を見れば分かるんじゃ。人間の頭の中や心の中がな。筒抜けなんだよ。このワシの前では全てが・・な。」
やはり目の前にいるのは伝承通りの本物の龍神様だ。
「ワシの過去の話を教えてやろうか。ワシはかつてはお主らと同じ、根っからの『人間』だったのじゃ。今こうして龍神に生まれ変わった理由は自分でも実の所分からないのじゃが、ただ"偶然"の一言に尽きるじゃろう。」
その一言に皆が驚いた。伝説の龍神様がまさか元人間だったなんて。
「今から二千年前の事じゃ。人間だったワシはとある田舎の小さな村に生まれた。そこは毎年例外なく五穀が豊かに実ることから「豊穣の大地」とまで呼ばれていた。 特に病気などもすることがなく、健康な食料を食べて健康に育っていった。集落間で争いなども滅多に起きなかった。 ワシはただ純粋にそれが幸せだった。 だがワシは次第に『自分が今幸せなのは当たり前』だと思い込んでしまうようになってしまったんじゃ。当然そう思い始めたのはワシに限ったことではない。あらゆる幸福に物足りなさを感じた村人達それぞれにあるものが芽生え始めたのじゃ。なんだと思う?」
桐生はついこの間までの自分と龍神の過去を照らし合わせてみる。
ーどこか似ていないか?ー
龍神の問いに答えることはとても簡単だった。なんとなく分かってしまったのだ。
「欲望・・か?」
「その通り。人間は必ず心のどこかに欲を隠し持っている。それは様々な形で現れる。だが時にそれは最悪の悲劇の火種となり得ることもあるのじゃ。
村人の中に一人、『頂点に立ちたい』と考え始めた男がいた。その男はやがて権力を得るようになり、遂には一国の国王にまでのぼりつめてしまった。男は元々普通の人間には持っていない才覚が備わっていた。それ故に多くの人間が彼に忠誠を誓いたいと、しゃしゃり出るようになったんじゃ。中には彼の狂信者も幾人かいたことだろう。そして『俺こそが国王様のお側で使える重臣に相応しい!』と考える人々がその地位をこぞって手に入れようと互いをいがみあっては傷つけ合い、殺し合い、気がついたら大規模な戦争に発展していたのじゃ。」
「なんて皮肉な話なんだ・・。」
桐生は拳を強く握る。
「この時点でワシは二十二歳だった。傭兵団に所属していたワシはその国王を討伐するため仲間とともに王国軍と戦ったのじゃ。結果はワシら傭兵団の惨敗。 仲間達はワシの目の前でみんな死んだ。その中にはワシがかつていたあの平和だった村の出身の者もいた。 傭兵団だけではない。王国軍の中にもかつてのワシの親友や親戚も含まれていた。
結果的に一つの共同体が二分して、本来仲間であるはずの人々が殺しあうことになったのじゃ。
そして戦争は終わり、ワシだけが一人生き残った。だが、家族や恋人も殺され、食べ物も建物も残っていない。拠り所を失ったワシはこの考えに至ったのじゃ。『国王を討てば再び元の平和だった世界に戻れるかもしれない』と。
たった一人で剣を手に取り、国王に再び立ち向かった。 今思えば無謀だったのかもしれない。
ワシはその男の圧倒的強さの前に完膚なきまでに打ちのめされた。 国王は血まみれになってもがいているワシの目の前まで歩いてきてこう言ったのだ。
【もはや我には国王などという称号は相応しくない。 覚えておけ、傭兵。これより我はこの世界を導く絶対者、『冥王』である 】 と。 」
桐生はここまで話を聞いてあるキーワードに気がついた。 『冥王』。 以前学校の図書館にあった聖書の写本にもそれに関して記述されていた。この世に降り立ち、一つの大陸を滅ぼした最恐の存在。でも、何かが矛盾していないか?
『冥王』と呼ばれる人物は『五千前に』この世に君臨したと本には書いてあった。 対して龍神様が人間時代に出会った『冥王』と名乗る男は『二千年前』の人間だ。
「どういうことだ・・?『冥王』は一人じゃない!?」
一方、敷島、マナト、サファイの外野三人は桐生と龍神が話している内容の意味がさっぱり理解できないので、会話に参加できない。
龍神は言う。
「いや、間違いなく『冥王』が存在できるのはこの世に『一人だけ』だ。つまり奴は、何度も何度も輪廻転生を繰り返してきているのだ。それも千年ごとにな。千年ごとにこの世のどこかの誰かに老若男女関係なく生まれ変わるのじゃ。 つまり今から千年前に生まれた『冥王』が一代前の冥王ということじゃ。 そいつは肉体が死んでも『魂』だけが死ねないのじゃよ。
裏返せば、 "今"。この世界の七十億人の中にたった一人、『冥王』の魂を宿す人間がどこかに存在するということを意味する。
「しかしたった一つ。それぞれの代の『冥王』には決まった共通点があるんじゃ。」
「なんだ?」
「それは、『世界の歴史を変えてしまうほどの強大な力』をもつということ。"強大な力"と一括りに言ってもそれには種類がある。ワシが二千年前に出会った『冥王』が持っていたのは"リーダーシップ" という名の力だ。他にも、五千年前は"忍耐力"、四千年前は"知性"、三千年前は" 優しさ"、千年前は"腕力" という『力』を備えていた。」
「じゃあ、"今代の" 『冥王』はどこの誰で、どんな『力』を持つ奴なんだ?」
「それは流石のワシにもわからない。そいつの性別も年齢も性格も含めてな。」
「正体不明ってことか・・。」
ただし、と龍神は付け加えて説明する。
「分かることが二つある。一つは、奴は現在地球上には存在せず、宇宙のどこかで活動拠点を築いていること。 そしてもう一つは、奴の最終目的が『最後の審判』を執行することだということじゃ。」
「ちょっと待て。"さいごのしんぱん"ってのは、一体なんなんだ?」
「最後の審判とは、"世界の終焉後に人間が生前の行いを審判され、天国か地獄行きかを決められる儀式"の事じゃ。 だがそれは必ずしも、"神にしか実行する権限がない"はずじゃ。 」
『冥王』とは、あくまで神によって選ばれた、その時代を導く「人間」なのだ。 だがしかし、それはひと昔前までの常識であって、今代の冥王に関しては例外なのだと龍神は語る。
「じゃあ、そいつはどうしてわざわざそんな事をしたいんだ?まさか暇潰しなんて程度のものじゃないとは思うけどな。」
「それも本人にしか分からないじゃろう。」
「そうか・・・・。 はっ!!」
桐生は勘が良すぎたのか、恐ろしいことに気付いてしまう。
(ちょっと待て・・。嘘だろ・・?)
最後の審判が執行されるには前提条件がある。一つはそれを「神が自ら行うこと」。だがこれについては今回は例外だと言っていたので関係ない。じゃあもう一つは・・・?
ーこの世界そのものを終わらせる事ー
To be continued..
「で、お主らは何しにきたのじゃ?」
(どうしよう。神聖な地底湖に釣りをしにきたなんてとても言えない・・。)
「釣りをしにきたんじゃろ?正直に話せばよかろう。」
「なっ、知っていたんですか!?」
「当然じゃ。ワシはこの場所に長年住んでいる。今まで色んな人間がワシの元に尋ねてきた。だから顔を見れば分かるんじゃ。人間の頭の中や心の中がな。筒抜けなんだよ。このワシの前では全てが・・な。」
やはり目の前にいるのは伝承通りの本物の龍神様だ。
「ワシの過去の話を教えてやろうか。ワシはかつてはお主らと同じ、根っからの『人間』だったのじゃ。今こうして龍神に生まれ変わった理由は自分でも実の所分からないのじゃが、ただ"偶然"の一言に尽きるじゃろう。」
その一言に皆が驚いた。伝説の龍神様がまさか元人間だったなんて。
「今から二千年前の事じゃ。人間だったワシはとある田舎の小さな村に生まれた。そこは毎年例外なく五穀が豊かに実ることから「豊穣の大地」とまで呼ばれていた。 特に病気などもすることがなく、健康な食料を食べて健康に育っていった。集落間で争いなども滅多に起きなかった。 ワシはただ純粋にそれが幸せだった。 だがワシは次第に『自分が今幸せなのは当たり前』だと思い込んでしまうようになってしまったんじゃ。当然そう思い始めたのはワシに限ったことではない。あらゆる幸福に物足りなさを感じた村人達それぞれにあるものが芽生え始めたのじゃ。なんだと思う?」
桐生はついこの間までの自分と龍神の過去を照らし合わせてみる。
ーどこか似ていないか?ー
龍神の問いに答えることはとても簡単だった。なんとなく分かってしまったのだ。
「欲望・・か?」
「その通り。人間は必ず心のどこかに欲を隠し持っている。それは様々な形で現れる。だが時にそれは最悪の悲劇の火種となり得ることもあるのじゃ。
村人の中に一人、『頂点に立ちたい』と考え始めた男がいた。その男はやがて権力を得るようになり、遂には一国の国王にまでのぼりつめてしまった。男は元々普通の人間には持っていない才覚が備わっていた。それ故に多くの人間が彼に忠誠を誓いたいと、しゃしゃり出るようになったんじゃ。中には彼の狂信者も幾人かいたことだろう。そして『俺こそが国王様のお側で使える重臣に相応しい!』と考える人々がその地位をこぞって手に入れようと互いをいがみあっては傷つけ合い、殺し合い、気がついたら大規模な戦争に発展していたのじゃ。」
「なんて皮肉な話なんだ・・。」
桐生は拳を強く握る。
「この時点でワシは二十二歳だった。傭兵団に所属していたワシはその国王を討伐するため仲間とともに王国軍と戦ったのじゃ。結果はワシら傭兵団の惨敗。 仲間達はワシの目の前でみんな死んだ。その中にはワシがかつていたあの平和だった村の出身の者もいた。 傭兵団だけではない。王国軍の中にもかつてのワシの親友や親戚も含まれていた。
結果的に一つの共同体が二分して、本来仲間であるはずの人々が殺しあうことになったのじゃ。
そして戦争は終わり、ワシだけが一人生き残った。だが、家族や恋人も殺され、食べ物も建物も残っていない。拠り所を失ったワシはこの考えに至ったのじゃ。『国王を討てば再び元の平和だった世界に戻れるかもしれない』と。
たった一人で剣を手に取り、国王に再び立ち向かった。 今思えば無謀だったのかもしれない。
ワシはその男の圧倒的強さの前に完膚なきまでに打ちのめされた。 国王は血まみれになってもがいているワシの目の前まで歩いてきてこう言ったのだ。
【もはや我には国王などという称号は相応しくない。 覚えておけ、傭兵。これより我はこの世界を導く絶対者、『冥王』である 】 と。 」
桐生はここまで話を聞いてあるキーワードに気がついた。 『冥王』。 以前学校の図書館にあった聖書の写本にもそれに関して記述されていた。この世に降り立ち、一つの大陸を滅ぼした最恐の存在。でも、何かが矛盾していないか?
『冥王』と呼ばれる人物は『五千前に』この世に君臨したと本には書いてあった。 対して龍神様が人間時代に出会った『冥王』と名乗る男は『二千年前』の人間だ。
「どういうことだ・・?『冥王』は一人じゃない!?」
一方、敷島、マナト、サファイの外野三人は桐生と龍神が話している内容の意味がさっぱり理解できないので、会話に参加できない。
龍神は言う。
「いや、間違いなく『冥王』が存在できるのはこの世に『一人だけ』だ。つまり奴は、何度も何度も輪廻転生を繰り返してきているのだ。それも千年ごとにな。千年ごとにこの世のどこかの誰かに老若男女関係なく生まれ変わるのじゃ。 つまり今から千年前に生まれた『冥王』が一代前の冥王ということじゃ。 そいつは肉体が死んでも『魂』だけが死ねないのじゃよ。
裏返せば、 "今"。この世界の七十億人の中にたった一人、『冥王』の魂を宿す人間がどこかに存在するということを意味する。
「しかしたった一つ。それぞれの代の『冥王』には決まった共通点があるんじゃ。」
「なんだ?」
「それは、『世界の歴史を変えてしまうほどの強大な力』をもつということ。"強大な力"と一括りに言ってもそれには種類がある。ワシが二千年前に出会った『冥王』が持っていたのは"リーダーシップ" という名の力だ。他にも、五千年前は"忍耐力"、四千年前は"知性"、三千年前は" 優しさ"、千年前は"腕力" という『力』を備えていた。」
「じゃあ、"今代の" 『冥王』はどこの誰で、どんな『力』を持つ奴なんだ?」
「それは流石のワシにもわからない。そいつの性別も年齢も性格も含めてな。」
「正体不明ってことか・・。」
ただし、と龍神は付け加えて説明する。
「分かることが二つある。一つは、奴は現在地球上には存在せず、宇宙のどこかで活動拠点を築いていること。 そしてもう一つは、奴の最終目的が『最後の審判』を執行することだということじゃ。」
「ちょっと待て。"さいごのしんぱん"ってのは、一体なんなんだ?」
「最後の審判とは、"世界の終焉後に人間が生前の行いを審判され、天国か地獄行きかを決められる儀式"の事じゃ。 だがそれは必ずしも、"神にしか実行する権限がない"はずじゃ。 」
『冥王』とは、あくまで神によって選ばれた、その時代を導く「人間」なのだ。 だがしかし、それはひと昔前までの常識であって、今代の冥王に関しては例外なのだと龍神は語る。
「じゃあ、そいつはどうしてわざわざそんな事をしたいんだ?まさか暇潰しなんて程度のものじゃないとは思うけどな。」
「それも本人にしか分からないじゃろう。」
「そうか・・・・。 はっ!!」
桐生は勘が良すぎたのか、恐ろしいことに気付いてしまう。
(ちょっと待て・・。嘘だろ・・?)
最後の審判が執行されるには前提条件がある。一つはそれを「神が自ら行うこと」。だがこれについては今回は例外だと言っていたので関係ない。じゃあもう一つは・・・?
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