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第1部 「変わる日常編」
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3話
帰りのホームルーム。担任からどうやら話があるらしい。
「えー、なんかこの近辺で不良がウロウロしてるらしいから気をつけるよーに」
担任はやる気のなさそうに耳糞を小指でほじくりながらそう言って先に行ってしまった。まあ、もともとこういう奴だ。
「うひょー。おっかねえもー!!オイラ怖すぎて眠れないもー!!」
「・・このご時世で不良だなんて。」
不良というワードに過剰に怯える敷島とは対照的に、
マナトはどこか落ち着いて見える。
桐生は普段、登下校するときに近道を使うタイプだ。ある近道を使うと登下校時間三十分を十五分までショートカット出来るのだ。 で、ある近道とは何かというと、それは路地裏だ。桐生は早速いつも利用してる横幅六メートル弱のやや広めの路地裏に足を踏み入れる。ポケットに両手を突っ込み、やがて一歩踏み出す。
この時、後方二十cmから人影が拳を振り上げていたことを桐生は知る由もなかった。
ブンッ!!
「っと危ねえ!」
咄嗟に気配を感じ取りバックステップで敵との距離をとる。どうやら敵の拳は空振りだったようだ。
「へっ、惜しかったな。後一秒有れば終わったものを」
自慢気に言う桐生だが、その額からは汗が噴き出し頰まで伝っていた。内心は少しビビっているのだ。
「その格好からしてお前が例の不良とやらだな?さては街の学生を無差別に襲ってるのもお前だろう!」
みると目の前の男は桐生よりも身長が三、四センチほど高い。Yシャツは第四ボタンのあたりまで裂け、腰パンで、髪はツーブロック、顔の左側面には刺青が刻まれていた。やがて男は口を開く。
「テメエからは異能の匂いがプンプンしやがる。さてはテメエも『選ばれし者』かあ?」
「テメエ『も』、だと?」
桐生は拳を握っていた。
「ああそうさ。人ならざるものの力。破壊の根源となる力。本来それは神の手によって人々が平等に与えられるべきものだった。」
「なに?」
「だから『あのお方』が神に代わって与えることにしたのさ。そしてこの俺「黒崎龍弥」も彼に選ばれた人間のうちの一人・・ってわけだ。」
桐生にとっては日常とかけ離れすぎて何を言っているのか理解できなかった。桐生の脳内処理の猶予を許さずに黒崎という男は話を続ける。
「端的に述べるとだな、お前も俺と同類ってわけさ。」
「へえ。なかなかおもしれーこと言うヤンキーじゃねえか。んで何だ?学生たちを襲った理由と今の話がどこかで繋がるのか?」
「襲っただなんて心外だな。そうだな。言うなれば彼らの心の救いに「応えた」ってとこだな。だから・・、」
黒崎が次の一句を発音しようとした瞬間、桐生がコンビニの行列に無理やり横入りするように口を挟んだ。
「もういいや。そういうのめんどくせえから。ようはテメエを倒せばいいってことだよなぁ!!」
桐生は地面を蹴るようにして走り出し黒崎の懐に潜り込む。
ドガッ!!
腹のど真ん中に蹴りの踵がクリティカルヒットした。
黒崎の腹に・・・ではなく、なんと桐生の腹にだ。
「ぐはっ!?」
桐生は地面に倒れこみ自らの腹を抱え、悶絶する。
「驚かせて悪ぃなあ。俺はただの不良じゃねえ。能力者だ。それも『伸縮』の能力、だ。」
「し、伸縮・・だと?」
桐生が片手を使い辛うじて上体を起こす。そして敵の瞳を見据える。
「そうだ。俺の手足は最長二百メートルまでなら自在に伸び縮みできる。当たったらひとたまりもねえっつうことぐれぇわかるよなあガキ。」
確かに、先程の攻撃を思い出してみると自分は蹴りをくらい十メートル先まで吹き飛んだ。普通の人間の運動神経ではそんなことは絶対に不可能だ。
そして、まるで動揺する桐生の心を先読みしたかのように黒崎は言う。
「筋肉を収縮させることにより発生する力を筋力と言う。人間ってなあこの力は限られちまってるわけよ。
だがなぁ、俺の能力はそんな常識は通用しねえ。二百メートルまでなら俺の手足は好きなだけ伸ばせるってわけ。」
「へぇ。」
この時すでに桐生は全身を起こしている。さっきのダメージがまだ腹の奥から伝わってくるが。
「よーく考えてみろ。人によって腕の長さってのは若干違うだろ?長ければ長いほどそれは強ェに決まってる。つまりこの勝負はすでに決してるってわけだ!」
黒崎はケタケタと笑みをこぼす。
しかし追い詰められているはずの桐生は何故か平常心を保っている。
「で?その話は飽きたからさ。お前らの目的は何なんだよ?」
「ああん?」
「聞こえなかったか?も・く・て・きだよ。さっさと吐け。」
「ああそうだった。まだ教えてなかったな。いいぜ。教えてやる。 ただし。 俺を倒すことができたらなああああ!」
黒崎は自らの右手の拳を後方十メートルくらいまで引き伸ばす。そして巨大なバネと化した拳は反動をつけてボッ!!と桐生の顔面まで矢の如く撃ち放たれた。
桐生は余裕の表情を変えずしかも目を閉じたまま片手で黒崎の拳の先端を掴み取った。
「な、何!?」
黒崎にとってそれは予想外の展開だった。伸びる右手を捕らえられたこと【ではなく】、伸びたままの右手の筋肉がまるで凍ったようにこわばり動かなくなったのだ。脳からいくら信号を送っても全く反応しない。
まるで中枢神経から末梢神経まで神経と呼べるもの全てが死んだように。
「馬鹿な!俺のパンチを見切れるやつなど今までにいなかったはずなのに!」
少年桐生はこれといった「特徴」はない。モテるわけでもないし頭がいいわけでもない。 だが彼には一つだけ、「特技」があった。「特徴」と「特技」は決定的に違う。生まれ持って備わった先天的な「特徴」とは違い、「特技」は個人各々が努力をすればいくらでも磨き上げることができる。桐生の「特技」、それは「空手」だ。何の個性もない人間が「せめて何かを持ちたい」と言うエゴイズムが実現させてくれた唯一の賜物だ。 桐生は現在黒帯の称号を持っている。昔から喧嘩の弱かった桐生が、「自分の身を守るには自分で強くなるしかない」と、努力を積み重ねた証だ。
かたや黒崎は「能力」という「他人から与えられた」オモチャを振りかざす「素人」だ。その経験値の差は歴然である。
やがて桐生も反撃の体勢を立て直す。
「あーあ。そーいや俺空手の心得があったんだっけか。なら最初っからこんな『相手に触れた瞬間動きを封じる』能力なんて要らなかったな。」
黒崎は何か信じられないものを見たような感覚に苛まれ、
「何、だと?右手どころか全身動かねえ!!」
「俺の能力の適用範囲は左右の手首から先だ。だから握手とかするときとかスッゲー不便だけどな。」
「くそっ。だが俺の筋力は・・」
「ばーか。おまえは脳みそまで筋肉がこべりついちまってるのか? 『 関係ない』んだよ。このバカみたいな力の前ではな。どんなに筋力を増幅したところで俺の手に触れた瞬間、自分でその解除を命令しない限り動きを完全に封じっぱなしってわけ。まあそれを知ったのはたった今だけどな。」
「フン、だが俺にはまだ左手が・・」
「おせえよ!」
黒崎の瞳にはもうすでに桐生の硬い拳が迫ってくるのが映っていた。
ベコッ!!と。気がついたら黒崎は自分の顔面に拳が突き刺さり視界が真っ白になっていたことに気がついた。
そして十分後。地面に沈みながら意識を取り戻した黒崎はゆっくりと目を開く。 そこには勝者である「少年」が真上からこちらを覗いていた。
「そんじゃ、教えてもらおうか。お前らの目的を。」
To be continued..
帰りのホームルーム。担任からどうやら話があるらしい。
「えー、なんかこの近辺で不良がウロウロしてるらしいから気をつけるよーに」
担任はやる気のなさそうに耳糞を小指でほじくりながらそう言って先に行ってしまった。まあ、もともとこういう奴だ。
「うひょー。おっかねえもー!!オイラ怖すぎて眠れないもー!!」
「・・このご時世で不良だなんて。」
不良というワードに過剰に怯える敷島とは対照的に、
マナトはどこか落ち着いて見える。
桐生は普段、登下校するときに近道を使うタイプだ。ある近道を使うと登下校時間三十分を十五分までショートカット出来るのだ。 で、ある近道とは何かというと、それは路地裏だ。桐生は早速いつも利用してる横幅六メートル弱のやや広めの路地裏に足を踏み入れる。ポケットに両手を突っ込み、やがて一歩踏み出す。
この時、後方二十cmから人影が拳を振り上げていたことを桐生は知る由もなかった。
ブンッ!!
「っと危ねえ!」
咄嗟に気配を感じ取りバックステップで敵との距離をとる。どうやら敵の拳は空振りだったようだ。
「へっ、惜しかったな。後一秒有れば終わったものを」
自慢気に言う桐生だが、その額からは汗が噴き出し頰まで伝っていた。内心は少しビビっているのだ。
「その格好からしてお前が例の不良とやらだな?さては街の学生を無差別に襲ってるのもお前だろう!」
みると目の前の男は桐生よりも身長が三、四センチほど高い。Yシャツは第四ボタンのあたりまで裂け、腰パンで、髪はツーブロック、顔の左側面には刺青が刻まれていた。やがて男は口を開く。
「テメエからは異能の匂いがプンプンしやがる。さてはテメエも『選ばれし者』かあ?」
「テメエ『も』、だと?」
桐生は拳を握っていた。
「ああそうさ。人ならざるものの力。破壊の根源となる力。本来それは神の手によって人々が平等に与えられるべきものだった。」
「なに?」
「だから『あのお方』が神に代わって与えることにしたのさ。そしてこの俺「黒崎龍弥」も彼に選ばれた人間のうちの一人・・ってわけだ。」
桐生にとっては日常とかけ離れすぎて何を言っているのか理解できなかった。桐生の脳内処理の猶予を許さずに黒崎という男は話を続ける。
「端的に述べるとだな、お前も俺と同類ってわけさ。」
「へえ。なかなかおもしれーこと言うヤンキーじゃねえか。んで何だ?学生たちを襲った理由と今の話がどこかで繋がるのか?」
「襲っただなんて心外だな。そうだな。言うなれば彼らの心の救いに「応えた」ってとこだな。だから・・、」
黒崎が次の一句を発音しようとした瞬間、桐生がコンビニの行列に無理やり横入りするように口を挟んだ。
「もういいや。そういうのめんどくせえから。ようはテメエを倒せばいいってことだよなぁ!!」
桐生は地面を蹴るようにして走り出し黒崎の懐に潜り込む。
ドガッ!!
腹のど真ん中に蹴りの踵がクリティカルヒットした。
黒崎の腹に・・・ではなく、なんと桐生の腹にだ。
「ぐはっ!?」
桐生は地面に倒れこみ自らの腹を抱え、悶絶する。
「驚かせて悪ぃなあ。俺はただの不良じゃねえ。能力者だ。それも『伸縮』の能力、だ。」
「し、伸縮・・だと?」
桐生が片手を使い辛うじて上体を起こす。そして敵の瞳を見据える。
「そうだ。俺の手足は最長二百メートルまでなら自在に伸び縮みできる。当たったらひとたまりもねえっつうことぐれぇわかるよなあガキ。」
確かに、先程の攻撃を思い出してみると自分は蹴りをくらい十メートル先まで吹き飛んだ。普通の人間の運動神経ではそんなことは絶対に不可能だ。
そして、まるで動揺する桐生の心を先読みしたかのように黒崎は言う。
「筋肉を収縮させることにより発生する力を筋力と言う。人間ってなあこの力は限られちまってるわけよ。
だがなぁ、俺の能力はそんな常識は通用しねえ。二百メートルまでなら俺の手足は好きなだけ伸ばせるってわけ。」
「へぇ。」
この時すでに桐生は全身を起こしている。さっきのダメージがまだ腹の奥から伝わってくるが。
「よーく考えてみろ。人によって腕の長さってのは若干違うだろ?長ければ長いほどそれは強ェに決まってる。つまりこの勝負はすでに決してるってわけだ!」
黒崎はケタケタと笑みをこぼす。
しかし追い詰められているはずの桐生は何故か平常心を保っている。
「で?その話は飽きたからさ。お前らの目的は何なんだよ?」
「ああん?」
「聞こえなかったか?も・く・て・きだよ。さっさと吐け。」
「ああそうだった。まだ教えてなかったな。いいぜ。教えてやる。 ただし。 俺を倒すことができたらなああああ!」
黒崎は自らの右手の拳を後方十メートルくらいまで引き伸ばす。そして巨大なバネと化した拳は反動をつけてボッ!!と桐生の顔面まで矢の如く撃ち放たれた。
桐生は余裕の表情を変えずしかも目を閉じたまま片手で黒崎の拳の先端を掴み取った。
「な、何!?」
黒崎にとってそれは予想外の展開だった。伸びる右手を捕らえられたこと【ではなく】、伸びたままの右手の筋肉がまるで凍ったようにこわばり動かなくなったのだ。脳からいくら信号を送っても全く反応しない。
まるで中枢神経から末梢神経まで神経と呼べるもの全てが死んだように。
「馬鹿な!俺のパンチを見切れるやつなど今までにいなかったはずなのに!」
少年桐生はこれといった「特徴」はない。モテるわけでもないし頭がいいわけでもない。 だが彼には一つだけ、「特技」があった。「特徴」と「特技」は決定的に違う。生まれ持って備わった先天的な「特徴」とは違い、「特技」は個人各々が努力をすればいくらでも磨き上げることができる。桐生の「特技」、それは「空手」だ。何の個性もない人間が「せめて何かを持ちたい」と言うエゴイズムが実現させてくれた唯一の賜物だ。 桐生は現在黒帯の称号を持っている。昔から喧嘩の弱かった桐生が、「自分の身を守るには自分で強くなるしかない」と、努力を積み重ねた証だ。
かたや黒崎は「能力」という「他人から与えられた」オモチャを振りかざす「素人」だ。その経験値の差は歴然である。
やがて桐生も反撃の体勢を立て直す。
「あーあ。そーいや俺空手の心得があったんだっけか。なら最初っからこんな『相手に触れた瞬間動きを封じる』能力なんて要らなかったな。」
黒崎は何か信じられないものを見たような感覚に苛まれ、
「何、だと?右手どころか全身動かねえ!!」
「俺の能力の適用範囲は左右の手首から先だ。だから握手とかするときとかスッゲー不便だけどな。」
「くそっ。だが俺の筋力は・・」
「ばーか。おまえは脳みそまで筋肉がこべりついちまってるのか? 『 関係ない』んだよ。このバカみたいな力の前ではな。どんなに筋力を増幅したところで俺の手に触れた瞬間、自分でその解除を命令しない限り動きを完全に封じっぱなしってわけ。まあそれを知ったのはたった今だけどな。」
「フン、だが俺にはまだ左手が・・」
「おせえよ!」
黒崎の瞳にはもうすでに桐生の硬い拳が迫ってくるのが映っていた。
ベコッ!!と。気がついたら黒崎は自分の顔面に拳が突き刺さり視界が真っ白になっていたことに気がついた。
そして十分後。地面に沈みながら意識を取り戻した黒崎はゆっくりと目を開く。 そこには勝者である「少年」が真上からこちらを覗いていた。
「そんじゃ、教えてもらおうか。お前らの目的を。」
To be continued..
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