求めていた俺 sequel

メズタッキン

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第3部 「黒崎寛也編」

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14話 勝つための法則





「さぁ、黒崎寛也。お前はどうなりたい?」

桐生は寛也に覚悟を試すために問いかける。

「ボクは・・・」

次に続く言葉を発する前に寛也は一瞬だけ口を噤(つぐ)むが、ブンブンと首を横に強く振って迷いを断ち切る。

「ボクは強くなりたいんだ!!これ以上大切なものを、誇りを失わないためにッ!」

「・・いい目だ。その返事を待ってたぜ。」

フッと、桐生は安堵の笑みを漏らす。寛也の瞳はもう復讐の呪いに縛られた虚ろなものでは無くなっていた。


「よっしゃ!俺はこう見えても多少武道の心得はあんだ。ビシビシ鍛えてやっからな!!」

こうして桐生による特別指導がスタートした。



一方、栗山マナト、馬場コウスケ、菅原聡彦の三人は三手に分かれて突然不良たちの後を追って駆け出していき、行方をくらました桐生を探しに街中を徘徊していた。 マナトは”尾根所田公園“とその付近を、馬場コウスケは聖川東学園校内を、そして菅原聡彦は路上駐車中の車の下や、ゴミ箱の中などを捜索した(この行動に関しては果たして意味があるのかは疑問だが)。


やがて3人は小さな十字路の交差点で合流した。

「はぁ、はぁ、見つかった?」

完走したマラソンランナーの如く息を切らしたマナトが言った。

「いや、全く。菅原は?」

馬場コウスケが聡彦に訊ねる。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、まずいな。もう夕方になっちまうぜ・・・ん?どうした2人とも。
そんなジト目で同時に視線向けられてもリアクションに困るよ?」


菅原聡彦の服装は何故か水に濡れてビショビショで、頭には何故かバナナの皮を始めとした生ゴミの山が覆いかぶさっており(お約束のハエ先輩つき)、靴は所々がボロボロになって穴が開いていた。

「くっさ!!菅原お前なんちゅーとこ探してたんだよ!??」

真っ先にツッコミを入れたのはコウスケだ。

「え?あ、あはは。おかしいなぁ。川東川を上流から下流まで泳いでこの辺りのゴミ箱の中を全部荒らしまくったはずなんだけど中々桐生いなくってなぁ。」

菅原の天然ぶりは誰がいつ見ても常軌を逸している。

「・・・・」

マナトとコウスケは互いの顔を見つめ合い溜息をついた。
マナトは夕暮れの空を見上げて、この異様な場の空気を取り繕うように言った。

「・・まぁ、あいつのことだ。今頃きっとどこかで事件に首突っ込んでフラグ立ててんだろう。」



場面は再び戻り、某所の古びた倉庫の中。

「パンチというのはな、まず力一杯拳を握って・・・」

黒崎寛也を強くするためのレッスンが桐生講師によって行われていた。 つい先程まで敵同士だったとはまるで思えない。


カラララ・・・カララララララ・・・・


その時、倉庫の奥から嫌な音が2人の耳に届いた。

桐生に相手にすらされず、コケにされたままぶっ飛ばされた長いリーゼント頭の不良、ジュンタが鉄パイプを床に引きずる音だった。

「クソガキども・・。さっきはよくもこの俺に舐めた真似しやがったなぁ・・・」

リーゼント頭の不良、ジュンタは桐生と寛也の至近距離に現れ、鉄パイプを握り直す。

「あれ?お前誰だっけ?」

「この野郎ォ!!忘れたとは言わせねーぞ!もう一回勝負だ!!」

桐生のこの反応には流石にトサカにきたジュンタ。そんな彼を無視して桐生は隣の寛也に近づいて言った。

「寛也、ちょいと耳貸せ」

「うん」

「(おそらくコイツの狙いは俺だ。ぶっちゃけお前のことはただの人質のガキ程度の認識しかしてないだろう。そこで一ついい作戦を思いついた。ゴニョゴニョ・・・)」

「(うん、うん、へ?・・・・わ、わかった。やってみるよ・・・)」


「このジュンタを無視して内緒話たぁいい根性してんじゃねえかよぉおおおお!!」


ジュンタは鉄パイプを振り上げながらスタートダッシュをきった。

「(来るぞ・・!ギリギリまで引き付けるんだ!)」


真正面から遮二無二に突っ込んでくるジュンタに対し、桐生は咄嗟に横飛びをかます。

「なにぃッ!?」

一度加速したジュンタの足はその場を止まるところを知らず・・

「えいっ!!」

パサッ。

桐生のすぐ背後に隠れていた寛也がお気に入りのオレンジ帽子をジュンタの足元の床に投げ捨てる。

「う、うおぉ・・ッ!?!?」

ズルッと、ジュンタは寛也の帽子を右足で踏み、勢いに任せてうつ伏せに転倒し、顔面から地面に強打する。

このスキを決して逃さない。

ドカッッ!!

「グフッッ!?」

寛也がジュンタの背中に全体重かけて飛び乗ったのと、ジュンタが悲痛の叫びをあげたのは同時だった。

寛也は、ジュンタの背中に乗ったまま無駄に長いリーゼントの髪を両手でがしりと掴み、梃子の原理を利用して力一杯引っ張る。ハタから見ればプロレスでいうところの、キャメルクラッチ(に似たもの)だった。

「うぉおおおおおおおお!!!!!」

小学生寛也は歯を食いしばり、必死に高校生不良の髪を引っ張る。かなり珍しい光景だ。

「いでででででで!!ち、千切れる!!千切れちゃうううう!!自慢のリーゼントがぁあああああああ!!」


ブチッ。ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ!

全ての毛髪がジュンタの頭皮から取り除かれた。

「いやぁあああああああああああん!!!お、おでの髪が、おでの髪がぁあッ!!もうお婿に行けないわ!覚えてらっしゃい!!」

おカマみたいな声を発してジュンタは気絶しているカツラギを担いでそそくさと逃げて行ってしまった。


「ふぅ・・・」

おでこにかいた変な汗を拭う寛也。

「よくやったな、寛也。お前はこれで一歩成長した。」

「なんか今日はありがとう、桐生」

「礼なんかいらねぇって。俺は俺の自由で行動してるだけだしな。」

桐生はパンパン、と床に落ちたオレンジ帽子を拾い、汚れを落として寛也に手渡す。

「ボクわかったよ。敵と戦う方法は何も一通りだけじゃないんだって。」

「その通りだよ。腕力なんかなくたって、人って生き物には誰しも“コレ”がついてるんだ。」

トントンと、桐生は自分の頭を人差し指で軽く叩いた。

「そうは言ってもやはり強敵相手じゃ今回のように上手くはいかないこともある。そんな時は一人で抱え込む必要はない。今日、お前は俺という新しい仲間を得たんだからな。」

「・・うん!よろしく、桐生ッ!」

「ああ」

この瞬間。
パァン!!と、二人の少年がお互いの手を握る大きな音が閑散とした倉庫の中に響き渡った。


「ありゃ?体が動かないよ・・・」

「あ・・・すまん、能力のことをすっかり忘れとった。」












ほとんどの人達が寝静まった夜11時ごろ。

つるっぱげの温泉玉子人間と化したジュンタは川東駅の高架下で体育座りになって啜り泣いていた。

「ぐっぞお・・・、あのチビガキめぇ。わたくしの自慢の髪を台無しにしやがってぇ!しかも、わたくしがオカマだって事までバレちゃったじゃない!こんど会ったら嫌というくらい吠え面かかせてあげちゃうんだから!」


まるで別人のように変貌した不良少年ジュンタ。その背後に一人の影が忍び寄る。

「僕はその頭、とてもお似合いだと思うけどなぁ」

その影はジュンタを慰めるように彼の目の前に向き合うようにかがみ込む。

「え・・・?あなた、誰よ?」

ジュンタの目の前に忽然と現れたのは中性的な顔立ちで、少し長めの後ろ髪を縛り、学ランを着た美形の少年だった。

「あ、ごめん挨拶が遅れたね。僕の名は誠。
この写真の男を探してるんだけど、知らないかな?」


「誠」と名乗るその少年は学ランの胸ポケットから取り出した “ある少年“の顔写真をジュンタに渡した。

「こ、コイツはっ!!」

ジュンタは思った。なぜコイツの顔を1日に二度も拝めなきゃならないのか。なんてったってコイツは昼間に自分に恥をかかせたチビの“仲間”の少年だったじゃないか。そう、敵の動きを封じる特殊な手を持った少年。

「その反応・・どうやら貴様は彼の事を知っているようだな」

ガッッ!!

「ぐぅッ!?あ、あなた・・何を・・?」

一人称は僕なのに二人称は貴様というアンバランスな口調の少年、誠はジュンタの首を掴んで脅迫する。


「あまりこう言う小汚い真似はしたくないんだけどね。死にたくなかったら”彼”の場所をとっとと教えてくれないかな?ハゲオカマ」

ギリリリリ・・

ジュンタの首を絞める誠の手が次第に強くなっていく。苦しみに耐えながらジュンタは目の前の見知らぬ人物に掠れた声をなんとか振り絞って質問した。

「あ、あなた・・・桐生ってやつと・・一体どんな関係・・・なの・・?」


そして誠は答えた。



「彼は僕が幼少の頃の旧友だよ。今では諸事情があって敵になっちゃったんだけどね」
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