笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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龍神side



「どうぞ」



「お、さんきゅ」





 午後二十一時、片付けを含む仕事を終えて西連寺を部屋に上げる。西連寺が手を洗っている間に俺は先にリビングへ向かい机の上を軽く片付けた。部屋に招くのは今日決めたので掃除をしていないのが惜しい。分かっていたら絶対にしたんだが。



「やっぱ俺のところと部屋の造りは変わんねぇんだな」


「それはそうだろう、造りが違ったら問題だ」




 手を洗い終えた西連寺が珍しそうに俺の部屋を見回す。あいにく俺は趣味など無いので物が少ないのだが、何がそんなに面白いのか、西連寺は口元に笑みを浮かべていた。こいつの部屋はきっと俺とは違って自らこだわった品々で溢れているのだろう、と推察しながら冷蔵庫の中を開ける。



 この学園にはルームサービスというものが存在するのだが、俺はこの制度があまり好きではない。特に夜なんかは十九時を過ぎた辺りからもう頼むのが申し訳ないような気持ちになるので滅多に利用しないし、例え利用したとしても昼だけだった。西連寺の生活模様なんて知らないが、何となくこいつは当たり前のように給仕を受容しそうな雰囲気なので、舌も肥えているのではないだろうか。それらを考慮すれば、ルームサービスを頼むのが客人への礼儀としては正しいのかもしれない。


 が、俺は先ほど言ったようにこの制度をなるべく夜に利用したくないので、西連寺に手料理でもいいか聞いてみることにした。




「西連寺」



「んー?」



「夕食は俺の手作りでも良いか?」



「………は?」



 俺の言葉で楽しそうに室内をうろついていた西連寺はピタリと動きを止めてこちらを見た。これで断られたら俺もまた考えるしかない。西連寺が人の手料理を口にすることができないタイプであるという可能性もあるしな。




「まあ、嫌なら無理強いはしないが……」


「んなこと一言も言ってねぇ、ぜひ頼む。むしろ手作りじゃないと嫌だ」


「え、あ、そうか……」




 控えめに言い添えると食い気味の否定が返ってきて、思わず戸惑ってしまう。よく分からないが、とにかく良かった。食べられないというわけではないらしい。忘れずにアレルギーや嫌いな物も尋ねたが、特にこれと言ってないそうだ。


 そうと決まればさっさと作ってしまおう。冷蔵庫の中を見て作るものを考えた俺は、材料を手に取ってキッチンに立った。俺のすぐ側で上機嫌に手元を除いてくる西連寺を軽く追いやる。




「少し時間がかかるから向こうで時間を潰していてくれ。好きに過ごしてくれて構わない」




 裂いたしめじの石づきを切り落としながら俺が言うと、西連寺はダイニングから椅子を持ってきて俺から少し離れた所に座った。何の真似だこいつ。俺は今向こうでって言ったのだが。



 聞こえなかったのか?と怪訝な顔で振り向くが、西連寺は口元に笑みを湛えて満足そうな表情を崩さなかった。




「お前が料理してくれてるところを満喫する。邪魔しねぇし、ここでもいいだろ」





 一体何がそんなに嬉しいのか、満面の笑みでそんなことを言われて困惑する。俺が切ったり炒めたりする様子なんてとても楽しいものではないと思うんだが。むしろ単調で飽きそうだ。




 別に面白くも無いだろうと思いつつも、本人の意向ならと作業に戻る。時間は有限だ。




 さて、具材は大方切れたし次だな。湯を沸かす傍ら、新しく水菜と大根を取り出す。一人で生活しているとなかなか大根を使いきれなくてつい冷蔵庫に入れてしまう。この機会に使ってしまおう。



 大根を千切りにして調味料と水菜に和え、皿に盛り付け、大根サラダが出来上がる。その間に沸騰したお湯に投入していたパスタが茹で終わったので、ざるに上げて水気を切り、既に味付けが完了していたしめじとベーコン、玉ねぎが入っているフライパンに加える。トングで軽く混ぜ、出してきた大皿に盛り付ければ、和風パスタの完成だ。




「もうできたのか?」



「ああ。味はある程度保証するが、過度な期待はするな」




 フォークを持ってテーブルに向かう俺に、西連寺はまるでひよこのように後をついてくる。身長180センチ超えの生徒会長がちょこちょこついて来るのは中々に面白かった。




「「いただきます」」




 席に着いて手を合わせ、夕食を食べる。ん、まあまあ美味しくできたんじゃないか。



 自分で味を確認し、頷いてふと西連寺を見ると、西連寺はフォークを持ったまま目を瞬かせていた。口に合わなかったのだろうか。ちょっと不安になってそっと様子を伺う。




「………すげぇ、美味い」




 その言葉に俺は安堵して胸を撫で下ろした。見ているこちらが爽快な気分になるほど綺麗に、且つたくさん食べてくれる。



「それは良かった。俺は日頃自炊して過ごしているが、自分で食べるだけで人に振る舞ったことはなかったから少し心配だったんだ」


「へぇ、それは光栄だ。俺がお前のハジメテっつーことだからな」


 ………なんだその感想は。いや、間違ってないんだが含みを感じる。



「だがてっきりお前が作るものは和食しかないのかと思った。お前ん家は和式だろ?」


「ああ、なるほど……そうだな、実家では和食が中心だ。でも別に和食しか出ないというわけではない。確かにあまりジャンクなものは出ないが、和にアレンジできそうな料理は結構食卓に並ぶぞ」


「それでこのパスタも和風なのか」



 本家では西連寺の言う通りやはり和食の方が好まれているらしく和食中心の生活には違いないが、和風に出来そうな料理は洋食であろうと提供される。




 ……その和風変換のせいで俺はいつもパスタは和風ばかり作ってしまうのだが、まあそれは黙っておこう。せっかく美味しそうに食べてくれていることだしな。
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