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しおりを挟む「やりましたね龍神様!!」
「ああ、皆んなもありがとう。おかげで勝つことができた」
ハチマキを握りながら味方と喜び合う。遠山はどうなったか?ふ、悪いが俺は後輩に勝利を譲る気は無い。本気で行って勝たせてもらったぞ。
勝利に湧いていると、後ろから足音がして振り返る。奇襲はごめんだった。
「よお、そっちも勝ったみてぇだな」
Sクラスの騎馬隊だったので、俺はすぐに警戒を解いた。下から西連寺の声がして、見下ろす形になる。
「ああ、流石に2年に負けるわけにはいかないからな。も、ということはお前達も勝ってきたばかりか」
「今さっきCクラスの連中とやり合った。にしてもメス同士の喧嘩ってのは怖ぇな」
………一体何があったのかは聞かないでおこう。
「め、メスだなんて会長様……」
今のどこに顔を赤くする要素があったのか分からないが、深山は案外図太い神経の持ち主なのかもしれない。俺の心配は杞憂だったか。
「敵ん中で面倒臭そうなのはやっぱ稀吏んとこだな。土台の稀吏がまずでかいのに、騎手もガチムチ野郎だからな」
戦場に目を向けるとその騎馬はすぐに見つかった。他の騎馬隊よりも圧倒的に頭一つか二つ分大きく、しかも横にも大きい。全員筋肉も上背もある人で構成された白組の最終兵器といえる。
「で、でかい………」
「ムキムキだし……」
遠山とは違う意味で、競技としては至極正しくみんなに怯えられている。大将戦はあそことになりそうだな。
Sクラス含めた赤組の中では俺たちが一番身長が高い騎馬隊だろう。大体は俺より背の低い小柄な生徒が上に乗っているからな。
ということは、俺たちは何としてでも生き残って稀吏達の騎馬と戦う必要がある。目指せ乾隊、というところだろうか。
また新しく敵の騎馬が近づいて来た。休む暇もないほど戦闘になるなほんとに。
容赦なくハチマキを奪って奪いまくり、敵も味方も減った頃、ついに大将戦になった。西連寺達の騎馬は先ほど惜しくもハチマキを取られてしまい、この場に残っているのは俺達と乾隊だけだ。
「ひいいいっ、で、デカすぎる!!」
俺を支える菱川が敵を見て悲鳴を上げる。
まず稀吏が190センチを余裕で超えているのに上に乗っている生徒……確か盛山だったか、彼も180超えていそうなのが恐ろしい。菱川はSクラスでは一番身長が高く188センチあるが、それでも俺は見下ろされる形になっている。完全に勝つために構成した騎馬だろう。下にいるのが稀吏だから成り立つことだ。
身長差があるな……こちらは技術で上回るしかなさそうだ。
ピーッと笛が鳴って戦いの幕が上がった。
とりあえず、先手必勝。
こういうのは仕掛けたもの勝ちだ。合図を送ると騎馬が加速する。俺達はまず乾隊の裏に回り込んだ。後ろからさっさと奪おうという魂胆だ。
しかし、当然そんなにすぐうまくいくものではない。敵は素早く騎馬を回転させ俺達と対峙する。
「身長もパワーも俺たちが上っ!!」
「盛山、今だっ!」
稀吏の掛け声で盛山が手を伸ばしてくる。
「しゃがめ!」
咄嗟に叫ぶと菱川がすんでのところで体勢を低くし難を逃れた。また高さを戻すと次の攻撃が頭目がけて襲ってきたので、俺は真正面からその手を受け止めて組み合う。単純な力のぶつかり合いだった。
「なっ、バスケ部のこの俺がパワーで瞬殺できないっ?!」
空中で激しく取っ組み合う。驚嘆する声に微かに口角が上がった。盛山も確かに力が強いが、俺は風紀委員長だ。それなりに体力も力も備えているということを証明しなければ。願くば新しく風紀委員が入会してくれたりしてくれないだろうか。
そんなことを思いながら上からの力を受け止めるだけだった俺は、気合を入れ直して力を逆に押し上げた。相手がびっくりしている内に手を伸ばす。
「っぬおぅ?!」
が、ぎりぎりで防御されてしまいハチマキに指先が触れただけだった。
やはり身長差が厄介だな……手を伸ばしてもなかなか届かない。
攻撃を避けながら顔を顰める。一度離れるよう指示を出し、下で支えてくれているクラスメイト達と素早く会話する。
「すまない、今ので終わらせようと思ったんだが……」
「(しゅんってしてるかわいい)い、いいえ、僕たちはまだまだ大丈夫なんでっ!」
ぶんぶん、と効果音がつきそうな程首を振るみんなに申し訳なく思いつつも、中々良案が閃かない。やはりリーチの差がかなり効いている。
眉根を寄せて考え込んでいる合間にも、乾隊がいつ近づいてくるか警戒しなくてはならなくて集中が途切れてしまう。
するとその時、菱川が突然ハッとした顔になって俺を見上げた。
「これです、これですよ龍神様!!」
これ………?
「これ、とは?」
「今の僕、つまり、上目遣いです!!」
え………。
「あえて身長差を活かしてこっちのものにするんです!まして他でもない龍神様の上目遣いなら効果抜群です!!
「それは……その、効く、だろうか」
「はいそりゃあもう!!バッチリです!!」
なぜか食い気味の菱川に俺は若干困惑しながら残りの仲間を見たが、みんなもうんうんと頷くだけで否定する者はいなかった。
………やるしかないのか。
どうしてこんなに自信満々なのかは分からないが、この際できることはやった方が悔いも残らないだろう。幸い菱川から聞く限り難しいことではなさそうだしな。
相打ち覚悟で進軍する。近づくと間髪入れずに手が伸びて来たのでまた組み合った。
確か菱川の言う通りだと、一度下を向くんだったか。
正解がよくわからないまま、とりあえず何の前触れもなしに勢いよく顔をうつむかせてみた。あってるのかコレ。
「えっ、……え、あ、え?」
ところが俺の疑念を余所に、上から動揺した声が降ってきて意図せず効果を証明した。希望が見えたような気がして、俺はその一縷の光に懸けるようにゆっくり顔を上げた。騎馬がぐん、と相手に近づく。
「ぁおぅっ?!」
祈るような思いで盛山の目をじっと見つめると、盛山が目を顔を赤くして少しのけぞった。組み合っていた手への力が弱くなる。
今しかない。
菱川の肩口に軽く触れると瞬時に乾隊に接近してくれ、俺は距離を詰めると同時に組んでいた手を離してハチマキに手を伸ばす。しまった、という顔をした相手の顔が見え、彼らが騎馬ごと避けた。
だが、もう遅い。
「「「……ぅぉおおおおおおお!!!!!」」」
俺の手の中に握られているハチマキを確認した皆が、怒号のような勝利の雄叫びを上げた。
なぜ見上げるだけであれほど効果があったのかはよく分からないが、激闘だったことに変わりはない。これはちょっと得意になってもいいのではないだろうか。白熱した騎馬戦だったな。
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