笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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※明けましておめでとうございます


「っは、くそっ……無駄に体力備えやがって……」

「伊達に主席入学してねぇっつーことだ。まあ、一生懸命俺に追いつこうとするお前は可愛かったがな」




 呼吸を整える俺の横で西連寺は涼しい顔で答える。俺の出せるスピードを出し切って進んだのに易々と俺に合わせやがって……しかも途中から立場が逆転して西連寺に主導権を握られてしまい、俺が西連寺について行く側になっていた。


「さすが3Sが誇るツートップのお二人!!」

「めちゃめちゃ早かった!!」

「これは絶対勝ったわ、競技的にも絵面的にも」



 俺たちが張り合っていたことなど知らないクラスメイトが盛り上がっている中、俺は悔しくて仕方なかった。



 絶対にみんなの目の前でバランスを崩してやろうと思ったのに……運動神経万能め。


「顔上げろ」



 命令されて、俺はムッとしながらそっぽを向いた。仕返しもできないし、勝てないしこうなったらもう幼稚かもしれないが無視しかない。



 しかし、それは次の瞬間には全く無意味になる。西連寺が俺の顎を掬って無理やり上を向かせたからだ。まだ息が荒かった俺は呼吸を繰り返しながら西連寺の真紅の目と対峙することになった。西連寺がごくりと喉を鳴らした。



「…………やべぇ、キスしてぇ」




 今すぐ離せ馬鹿。



 真顔で言ってくるので身の危険を感じた俺は即座に手を剥がそうとするが、西連寺がそれを止める。どうでもいいが、西連寺の言動にちょっと慣れてきたのか普通にあしらえるようになってきた気がする。


「あっぶね………今のはまあ条件反射みたいなもんだからそう言うな。汗、拭いてやるだけだ」

「何が条件反射だ、目が結構本気だっただろう」



 不満を口にすると額にタオルが軽く当てられ汗が拭き取られる。目の近くまで拭かれたので片目を閉じた。



 ………子供じゃないんだから自分でできるんだが。



 少しの羞恥心からタオルを奪おうとすると、絶妙な速さで躱されて一向に手にすることができない。しばらく格闘した俺は、もう諦めてさっさと拭いてもらうことにした。大人しくなった俺に西連寺は満足そうにして頬を緩める。何やら感動したように呟いた。


「なんか、新婚夫婦みてぇで良いな」



 いちいち俺の羞恥を煽るようなことを言う西連寺を小突こうとすると、不意に後ろから衝撃が来た。ぎゅっ、と抱きしめられる。



「瑚珀いんちょー……」





 このまったりした声は、俺の知る限り一人しかいない。


 
「尚か」


 


 半身をひねると予想通り気だるげな茶色の瞳があった。いつものように頭を撫でると手に擦り寄る。


「今日は起きてちゃんと参加しているんだな、偉いぞ」

「ん、頑張った……から、もっと撫でてほし……」

「ああ、尚が望むなら、いくらでも」



 サラサラの髪が乱れないように注意しながら何度もゆっくり撫でる。んー、と尚が幸せそうに喉を鳴らした。


「いやおいちょっと待て」




 しばらく展開について来れなかった西連寺が突然俺と尚の間に割って入る。双方を引き剥がすと、目を吊り上げて尚を睨んだ。


「定例会議じゃ苗字だったのになんで急に名前呼びになってやがる。というか、いいとこで邪魔してんじゃねぇ」



 単純に仲良くなったからだが。




 意味のわからない疑問に思わず真顔になる。ところが、対面の尚はむすっとした顔つきになって西連寺を睨み始めた。



 
「会長に、関係ない」




 争奪戦だ……と響が後ろで呟くが、それは違うと思うぞ。あとあからさまに嬉しそうにするな。

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