65 / 80
13
しおりを挟むなんと反応すれば良いのか分からなくて、差し出されたかき氷を見つめる。
「おい、溶けるぞ」
ニヤニヤしながら先ほどの俺と同じことを言う西連寺。その通り、確かにすぐに溶けてしまう。
だが……その、自分でする時は何とも思わなかったのだが、される側になると急に恥ずかしく思える。
しかし、同じことを俺は西連寺にした手前、俺もされなくては平等でない。
意を決して口を開けると、するりとかき氷が口の中に運ばれて冷たさが広がった。少しだけ酸味があって、甘い。注文の時ちょっと意外だったのだが、西連寺のはレモンだった。なるほど、確かに爽やかな感じがして夏には良さそうだ。
………………などと分析しなければとてもじゃないが平静を装えそうにない。正直、想像よりずっと恥ずかしかった。こんな気持ちになるものなのか、これは。
「顔、赤いぞお前」
笑いながら言う西連寺を睨む。わざわざ声に出して言わなくてもいいだろうが。
不貞腐れてかき氷を食べ進めると、俺が悪かったから拗ねんな、と笑みを含んだ声で宥められた。
「拗ねてなんかない」
「わーったわーった、拗ねてない。顔も別に赤くない」
「………楽しんでるだろう」
じとっとした目で見る。すると、西連寺は一等嬉しそうに、笑った。
「当たり前だろ。今が一番楽しい」
目を細めて本当に楽しそうに言うものだから、不覚にもドキッとしてしまった。
……こいつ、さっきまであんなにしおらしかったくせに。
嫌いじゃないとか思っていたが、やっぱり嫌いかもしれない。だって、性格が悪い。
明後日の方向に顔を逸らす。その時、ふと俺は気がついた。
ん……?
そういえば、稀吏達はどこに行ったんだろうか。
「西連寺、稀吏達は……」
「あ?……ああ、あいつらなら」
ほら、と携帯の画面が突き出されて見ると、こんなメッセージが表示されていた。
『花火が始まる前に場所を取ってから適当に回ることにするから、時間になるまで二人でゆっくりしててくれ。』
『統和、せっかく機会作ったんだから頑張れ』
人が多くなる前に花火がよく見える場所を取ってくれるらしい。何だかすごく申し訳ないんだが…ところで、西連寺は一体何を頑張るんだろうか。
「つーわけで、八時までは店回るぞ。俺が直々に教えてやる」
「それはありがたいが、本当に稀吏達に任せていいのか……?」
「気にすんな、この時間なら場所取るくらい一瞬で終わるだろ。任せとけばいい」
西連寺はそう言って立ち上がり服を払った。行くぞ、とぶっきらぼうに差し伸べられた手を握る。温かい。
目を瞬くと、煌めくような祭りの光と、白銀の星の光が夜の視界に見えた。
夏の夜がこんなに綺麗に見えたのは、初めてだった。
30
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
お飾りは花だけにしとけ
イケのタコ
BL
王道学園で風紀委員長×生徒会長です
普通の性格なのに俺様と偽る会長に少しの出来事が起きる
平凡な性格で見た目もどこにでもいるような生徒の桃谷。
ある日、学園で一二を争うほどの人気である生徒会ほぼ全員が風紀委員会によって辞めさせられる事態に
次の生徒会は誰になるんだろうかと、生徒全員が考えている中、桃谷の元に理事長の部下と名乗る者が現れ『生徒会長になりませんか』と言われる
当然、桃谷は役者不足だと断るが……
生徒会長になった桃谷が様々な事に巻き込まれていくお話です
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
灰かぶり君
渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。
お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。
「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」
「……禿げる」
テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに?
※重複投稿作品※
過保護な不良に狙われた俺
ぽぽ
BL
強面不良×平凡
異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。
頼む、俺に拒否権を下さい!!
━━━━━━━━━━━━━━━
王道学園に近い世界観です。
弟は僕の名前を知らないらしい。
いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。
父にも、母にも、弟にさえも。
そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。
シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。
BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる