笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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 なんと反応すれば良いのか分からなくて、差し出されたかき氷を見つめる。




「おい、溶けるぞ」





 ニヤニヤしながら先ほどの俺と同じことを言う西連寺。その通り、確かにすぐに溶けてしまう。







 だが……その、自分でする時は何とも思わなかったのだが、される側になると急に恥ずかしく思える。







 しかし、同じことを俺は西連寺にした手前、俺もされなくては平等でない。






 意を決して口を開けると、するりとかき氷が口の中に運ばれて冷たさが広がった。少しだけ酸味があって、甘い。注文の時ちょっと意外だったのだが、西連寺のはレモンだった。なるほど、確かに爽やかな感じがして夏には良さそうだ。







 ………………などと分析しなければとてもじゃないが平静を装えそうにない。正直、想像よりずっと恥ずかしかった。こんな気持ちになるものなのか、これは。






「顔、赤いぞお前」






 笑いながら言う西連寺を睨む。わざわざ声に出して言わなくてもいいだろうが。




 不貞腐れてかき氷を食べ進めると、俺が悪かったから拗ねんな、と笑みを含んだ声で宥められた。



「拗ねてなんかない」



「わーったわーった、拗ねてない。顔も別に赤くない」



「………楽しんでるだろう」





 じとっとした目で見る。すると、西連寺は一等嬉しそうに、笑った。







「当たり前だろ。今が一番楽しい」









 目を細めて本当に楽しそうに言うものだから、不覚にもドキッとしてしまった。







 ……こいつ、さっきまであんなにしおらしかったくせに。

 
 







 嫌いじゃないとか思っていたが、やっぱり嫌いかもしれない。だって、性格が悪い。








 明後日の方向に顔を逸らす。その時、ふと俺は気がついた。








 ん……?




 そういえば、稀吏達はどこに行ったんだろうか。





「西連寺、稀吏達は……」




「あ?……ああ、あいつらなら」







 ほら、と携帯の画面が突き出されて見ると、こんなメッセージが表示されていた。






 

『花火が始まる前に場所を取ってから適当に回ることにするから、時間になるまで二人でゆっくりしててくれ。』



 

『統和、せっかく機会作ったんだから頑張れ』









 人が多くなる前に花火がよく見える場所を取ってくれるらしい。何だかすごく申し訳ないんだが…ところで、西連寺は一体何を頑張るんだろうか。





「つーわけで、八時までは店回るぞ。俺が直々に教えてやる」



「それはありがたいが、本当に稀吏達に任せていいのか……?」



「気にすんな、この時間なら場所取るくらい一瞬で終わるだろ。任せとけばいい」








 西連寺はそう言って立ち上がり服を払った。行くぞ、とぶっきらぼうに差し伸べられた手を握る。温かい。










目を瞬くと、煌めくような祭りの光と、白銀の星の光が夜の視界に見えた。







 夏の夜がこんなに綺麗に見えたのは、初めてだった。

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