笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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龍神side




 本や伝聞でしか知らなかった祭り。あの頃家から聞いていた賑やかな音や声とは全く比較にならない明るさと盛り上がりが、そこにはあった。




 先ほどから西連寺が俺に出店の説明をたくさんしてくれる。相変わらず少し顔が赤かったが、握った手はもう震えていなかった。

 それにしても、祭りとはこんなに店の数が多いものだったのか。正直どこに行けばいいのか皆目見当もつかない。少し困っていると、すぐにそれに気がついた西連寺が手を引いた。




「とりあえずあそこ行くぞ」

 



 そう言って連れられて来たのは『氷』と書かれた暖簾のかかる屋台。西連寺にかき氷の出店だと教えてもらった所だった。




 少し混んでいたが、俺を先導する西蓮寺に大人しくついて行く。やはり西連寺は一般的に見ても相当な美形に属するようで、一緒にいる俺まで視線が集まる。当の西蓮寺は気にしてなさそうだが。


 順番が来ると、店番の女性に西連寺が注文をする。二つ、別々の味。俺のものまで選んでくれたようだ。





 じゃあ俺はお金を二人分出せばいいかと思い財布を取り出すと、その手を西連寺が掴んで止めた。





「馬鹿かお前。俺がエスコートしてやってんのに金を払おうとするな」






 呆れたようにそう言って、代金を女性に渡した。二人分だった。





 金払えなら分かるが、なんだ金を払おうとするなって。





 思わず異論を唱えようとすると、店番の女性が笑いながら俺を見た。




「諦めな、綺麗なお兄さん。彼も必死なのよ、お兄さんみたいな浴衣の美人を楽しませるのに」






 彼、というのは西連寺のことらしく、視線を寄越された西蓮寺はかああっと顔を真っ赤にして俺の手を引いた。逃げるようにお礼を言って立ち去る西連寺につられるようにしてその場を後にしようとすると、女性が手を振っているのが見えてそっとお辞儀をした。お世辞とはいえ俺に綺麗だとか美人だとか、彼女は少し変わった人だな。




 足早に歩く西連寺がやっと止まったのは、祭りの中心から少し外れた石段だった。座って買ったものを食べる人や、恋人同士なのか仲睦まじそうな男女がちらほら座っている。その石段に西連寺が座ったので俺も隣に腰を下ろすと、



「おい、お前のだ」




 とぶっきらぼうにかき氷が差し出される。代金のことと一緒に礼を言って受け取ると、西連寺は照れたように小さくおう、と返した。




 注文を聞いていたから分かるが、俺のは抹茶味みたいだ。俺から一言も言ったことはないはずだから、あまり甘くないものにしてくれたのは偶然なのだろう。





 そっと掬って食べると、抹茶の味と甘いシロップの風味が鼻腔を掠めた。すぐに溶けて、冷たさが口の中に残る。うん、たまにはいいな、こういう甘いものも。






 ふと視線を感じた。隣を見ると、西連寺がこちらを凝視している。




「なんだ?」





首を傾げながら尋ねると、慌てたように顔を背ける。しばらく考えて、納得した。






 ああ、そういうことか。






「ん、食べていいぞ」






 一口掬って差し向けると、西連寺が大袈裟なくらい動揺した。代金を払った手前、俺のが一口食べたかったが言い出せなかったのだろう。払ったのはこいつなのにな。






 だがしかし、西連寺は中々食べない。液体になりそうなので、痺れを切らして溜め息を吐いた。






「もたもたしていると溶けるんだが」







 そう言った俺に西連寺は真っ赤になってどもった。






「ばっ、お前、それ使ったやつ……」









  ……衛生的な問題か。俺としたことが、気が回らなかった。





「悪い、そこまで配慮していなかった」








 謝って手を引っこめようとしたら、次の瞬間手首を掴まれる。そしてそのまま西連寺は、俺の手首ごと自分の方に引き寄せてかき氷を口に入れた。予期せぬ行動に俺はびっくりして、反応が遅れてしまう。






「俺だけが振り回されるのは、フェアじゃねえだろ」







 口元を拭っていつもの不敵な笑みを浮かべた西連寺は自分の分のかき氷を掬って、俺がしたようにこちらに向けた。
















「俺のもやるよ」



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