60 / 61
8
しおりを挟む生徒会書記 乾稀吏side
俺は今すごく深い後悔の念と、瑚珀に謝りたい気持ちでいっぱいだ。
ん?何気に瑚珀って呼ぶのが初めてだって?えーとだな、その、本当は心の中ではずっと瑚珀って呼んでいたんだが……いざ名前呼びをするとなると、き、緊張してしまって……なかなか名前で呼べないんだ。
あ、これは全然今関係なかったな。すまん…。
あー、そうだ、それで……その、実は昨日、瑚珀と夏祭りに行くことになったんだが、そのあと俺は生徒会のみんなに同じお祭りに誘われたんだ。正確には、行こうと言い出したのは庶務の真央と怜央なんだが。
俺は先に瑚珀と約束をしていたから当然断ったんだが、なんというか、俺の言い方が悪かったのか、先約があるから行けないと言うとみんなが興味を持ってしまって……根掘り葉掘り聞かれた後に瑚珀と二人で行くことがバレてしまったんだ。
まあ、その時食いついてたのは千秋と真央と怜央だけで、生徒会ツートップの二人は興味なさそうにしていたんだが……問題はここからで、家に帰ったら速攻で統和から電話がかかってきた。もうそれは、本当に見ていたのかってくらい俺が家に帰った瞬間にかかってきたぞ。いや、多分統和のことだし見てたんだろうな。
『おい稀吏!!龍神と出かけるってどういうことだっ!!聞いてねぇぞ!』
電話に出て、「はい」の「は」まで言ったところで怒鳴られる。相当ご立腹みたいだ。
『どういうことと言われても、そういうこと、としか答えられん』
『お前、そもそもそんなに龍神と仲良かったのか?誘うほど?誘うってことはそれなりに仲良いという証拠があるんだろうな?』
質問多いな、と苦笑する。少しいじわるをしてやろう、と悪戯心が動いた。
『名前呼びして連絡先を交換するくらいの仲だな』
『はっ?!?!?!?!』
電話の向こうで大きな物音が立て続けにして、俺は満足した。しばらくすると物音が止んでシーンとした。低い声で統和が言った。
『………お前らは付き合ってんのか?』
なんとか平然としているみたいだが、俺には分かる。これは相当ショックを受けている。絶望したみたいな哀愁が声に滲んでるからな。
思わず笑うと、電話越しでも分かるほど統和の温度が下がった。慌てて訂正する。
『誤解だ、付き合ってない』
『……………………………………お、おう』
それで本当に誤魔化しているつもりなのだろうか。明らかに今ホッと息ついたのが伝わったんだが。
『今は、だけど』
俺がそう言えば、また電話の向こうが騒がしくなる。これくらいは俺にも許されるだろう。
さて、そろそろ核心を突いた方がいいか。
『それで、統和はやっぱり瑚珀が好きなんだな』
『んなの当たりま……はあ?!?!』
『気づかないとでも?統和はそれで取り繕ってるようなら色々まずいと思うぞ。分かり易すぎだ』
少なくとも、統和と幼馴染の俺にはすぐ分かる。お世辞にもアレをアタックと言えるかは分からないが……その、正直小学生か、せいぜい中学生並みのアピールの仕方だからな。
一瞬で黙り込んだ統和を無視して話を続ける。
『そもそもこんな感じで俺に怒鳴り込んできた時点でもう、好きなのを認めてるとしか………』
『あ゛ぁーくそ!!分かったから黙れ!』
流石に可哀想だしここら辺にしとこう。統和は機嫌を損ねると大変だからな。しばらく感傷に浸る統和を放置していると、急に統和が声に力を込めた。
『決めた。俺は決めたぞ稀吏』
『……嫌な予感だが、一応聞こう』
『俺もついて行く』
滅茶苦茶言い出したな、統和。
『絶対だめだ。瑚珀の許可を取ってない』
『適当に言い包めとけ。つか、俺が行くんだぞ?嫌なわけねぇだろうが』
『統和、瑚珀は会うなり煽ってくる奴と行きたいとは思わないと思う』
『………………………とにかく、あいつにはうまく言っとけ!』
図星を突かれて不貞腐れた統和は投げやりに言って丸投げした。
『俺一人ついていくのが不自然なら、滉とか千秋も誘えばいいだろ。それがいいじゃねぇか。今から誘っといてやるよ』
『いや、そもそも統和がついてくることが一番不自然なんだが……というか、統和が自分から瑚珀本人に言えばいいのに』
『う、うるせぇ!!言えるわけないだろうが!!!』
そう言い捨てられ、電話が勢いよく切られる。思わず頭を抱えた。
なんて瑚珀に言い訳しよう………。
30
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
僕を愛さないで
レモンサワー
BL
母が僕を庇って、死んでしまった時から僕の生活は一変した。
父も兄も温かい目じゃなく、冷たい目で僕を見る。
僕が母を殺した。だから恨まれるのは当然。
なのにどうして、君は母親殺しの僕を愛しいと言うの?どうして、僕を愛してくれるの?
お願いだから僕を愛さないで。
だって、愛される喜びを知ってしまったら1人、孤独になった時耐えられないから。捨てられてしまった時、僕はきっと絶望してしまうから。
これは愛されなくなってしまった優しい少年が、少年のことを大事に思う人と出会い、とびきりに愛される物語。
※R15に念の為に設定していますが主人公がキスをするぐらいです。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
王道学園なのに会長だけなんか違くない?
ばなな
BL
※更新遅め
この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも
のだった。
…だが会長は違ったーー
この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。
ちなみに会長総受け…になる予定?です。
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる