笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

文字の大きさ
上 下
60 / 80

8

しおりを挟む


生徒会書記 乾稀吏side






 俺は今すごく深い後悔の念と、瑚珀に謝りたい気持ちでいっぱいだ。




 ん?何気に瑚珀って呼ぶのが初めてだって?えーとだな、その、本当は心の中ではずっと瑚珀って呼んでいたんだが……いざ名前呼びをするとなると、き、緊張してしまって……なかなか名前で呼べないんだ。





 あ、これは全然今関係なかったな。すまん…。




 あー、そうだ、それで……その、実は昨日、瑚珀と夏祭りに行くことになったんだが、そのあと俺は生徒会のみんなに同じお祭りに誘われたんだ。正確には、行こうと言い出したのは庶務の真央と怜央なんだが。



 俺は先に瑚珀と約束をしていたから当然断ったんだが、なんというか、俺の言い方が悪かったのか、先約があるから行けないと言うとみんなが興味を持ってしまって……根掘り葉掘り聞かれた後に瑚珀と二人で行くことがバレてしまったんだ。



 まあ、その時食いついてたのは千秋と真央と怜央だけで、生徒会ツートップの二人は興味なさそうにしていたんだが……問題はここからで、家に帰ったら速攻で統和から電話がかかってきた。もうそれは、本当に見ていたのかってくらい俺が家に帰った瞬間にかかってきたぞ。いや、多分統和のことだし見てたんだろうな。




『おい稀吏!!龍神と出かけるってどういうことだっ!!聞いてねぇぞ!』






 電話に出て、「はい」の「は」まで言ったところで怒鳴られる。相当ご立腹みたいだ。



『どういうことと言われても、そういうこと、としか答えられん』



『お前、そもそもそんなに龍神と仲良かったのか?誘うほど?誘うってことはそれなりに仲良いという証拠があるんだろうな?』





 質問多いな、と苦笑する。少しいじわるをしてやろう、と悪戯心が動いた。




『名前呼びして連絡先を交換するくらいの仲だな』


『はっ?!?!?!?!』





 電話の向こうで大きな物音が立て続けにして、俺は満足した。しばらくすると物音が止んでシーンとした。低い声で統和が言った。



『………お前らは付き合ってんのか?』





 なんとか平然としているみたいだが、俺には分かる。これは相当ショックを受けている。絶望したみたいな哀愁あいしゅうが声に滲んでるからな。






 思わず笑うと、電話越しでも分かるほど統和の温度が下がった。慌てて訂正する。




『誤解だ、付き合ってない』



『……………………………………お、おう』






 それで本当に誤魔化しているつもりなのだろうか。明らかに今ホッと息ついたのが伝わったんだが。






『今は、だけど』







 俺がそう言えば、また電話の向こうが騒がしくなる。これくらいは俺にも許されるだろう。




 さて、そろそろ核心を突いた方がいいか。
 




『それで、統和はやっぱり瑚珀が好きなんだな』



『んなの当たりま……はあ?!?!』



『気づかないとでも?統和はそれで取り繕ってるようなら色々まずいと思うぞ。分かり易すぎだ』






 少なくとも、統和と幼馴染の俺にはすぐ分かる。お世辞にもアレをアタックと言えるかは分からないが……その、正直小学生か、せいぜい中学生並みのアピールの仕方だからな。






 一瞬で黙り込んだ統和を無視して話を続ける。




『そもそもこんな感じで俺に怒鳴り込んできた時点でもう、好きなのを認めてるとしか………』



『あ゛ぁーくそ!!分かったから黙れ!』





 流石に可哀想だしここら辺にしとこう。統和は機嫌を損ねると大変だからな。しばらく感傷に浸る統和を放置していると、急に統和が声に力を込めた。




『決めた。俺は決めたぞ稀吏』



『……嫌な予感だが、一応聞こう』



『俺もついて行く』






 滅茶苦茶言い出したな、統和。



『絶対だめだ。瑚珀の許可を取ってない』


『適当に言い包めとけ。つか、俺が行くんだぞ?嫌なわけねぇだろうが』


『統和、瑚珀は会うなり煽ってくる奴と行きたいとは思わないと思う』


『………………………とにかく、あいつにはうまく言っとけ!』





 図星を突かれて不貞腐れた統和は投げやりに言って丸投げした。 



『俺一人ついていくのが不自然なら、こうとか千秋も誘えばいいだろ。それがいいじゃねぇか。今から誘っといてやるよ』


『いや、そもそも統和がついてくることが一番不自然なんだが……というか、統和が自分から瑚珀本人に言えばいいのに』


『う、うるせぇ!!言えるわけないだろうが!!!』






 そう言い捨てられ、電話が勢いよく切られる。思わず頭を抱えた。





なんて瑚珀に言い訳しよう………。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

お飾りは花だけにしとけ

イケのタコ
BL
王道学園で風紀委員長×生徒会長です 普通の性格なのに俺様と偽る会長に少しの出来事が起きる 平凡な性格で見た目もどこにでもいるような生徒の桃谷。 ある日、学園で一二を争うほどの人気である生徒会ほぼ全員が風紀委員会によって辞めさせられる事態に 次の生徒会は誰になるんだろうかと、生徒全員が考えている中、桃谷の元に理事長の部下と名乗る者が現れ『生徒会長になりませんか』と言われる 当然、桃谷は役者不足だと断るが…… 生徒会長になった桃谷が様々な事に巻き込まれていくお話です

過保護な不良に狙われた俺

ぽぽ
BL
強面不良×平凡 異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。 頼む、俺に拒否権を下さい!! ━━━━━━━━━━━━━━━ 王道学園に近い世界観です。

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

僕の平凡生活が…

ポコタマ
BL
アンチ転校生によって日常が壊された主人公の話です 更新頻度はとても遅めです。誤字・脱字がある場合がございます。お気に入り、しおり、感想励みになります。

処理中です...