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しおりを挟む桐生さんは、龍神家と親しくしている桐生家という家の現当主だ。家が近所なこともあり、俺がここにきた当初から面倒を見てくれていた。俺に龍神家の血が流れていないことを、母上と父上を除いて唯一知っている人でもある。父上曰く、かなり頭が切れるやり手らしい。
父上と母上にとっても、俺にとっても家族同然の存在だ。
「仕事……」
「夏休みとはいえ、教師は仕事があるからな。まあ……今は高校が近いから、すぐ帰れるのが良いところだが」
そう言うと桐生さんは、俺を見て目を細めた。
「それで、瑚珀はこんな道端に突っ立ってどうした?その顔だと、何かあったんだろ?」
この人は俺の表情を熟知しているから、俺の考えていることを簡単に見抜いてしまう。学園のみんなには無表情に見えるような顔をしているのに、だ。多分、自分でも気がついていないような癖などを読み取られているのだろう。
俺はそれを少し怖く思う反面、嬉しかったりもする。
言葉に詰まって黙っている俺に、桐生さんは少し屈んで目線を同じにした。ふ、と優しく笑う。
「ん、じゃあ違う話をしようか」
桐生さんはいつも、絶対に無理に言わせたりしなかった。俺が答えに詰まれば、何でもない話に話題を変えて、俺が話すタイミングを待ってから静かに聞いてくれる。それは昔から今も変わらないのだと知って、俺は妙に安心した。
「さっき瑚珀は俺のことを苗字で呼んだけど、俺と瑚珀はそんなに他人行儀な関係だっけか」
悪戯っぽく笑う桐生さんから俺は目線を逸らす。
「……もう高校生なので、桐生家の現当主である方のことは丁寧に呼ぶべきだと思ったのです」
俺が控えめに言うと桐生さんは、
「今更気を遣うんじゃない」
と笑って俺の頭をくしゃっと撫でた。
「親しくない奴がいきなり下の名前で呼んできたら、失礼だなと思うかもしれないが……瑚珀は俺の特別以外に何者でもないからな。むしろ敬語も外してほしいくらいだ」
「それはできません」
「分かってるよ。敬語は昔からだしな………でも、呼び名は変えてくれると嬉しいな?出来れば昔みたいに」
妙に色気のある含み笑いをするものだから、俺は思わずどきっとしてしまう。すっ、と流した切長の瞳には愉悦が覗いていて、俺はこの人楽しんでるな、と察した。桐生さんは同性の俺でも一瞬クラッとくるほどの色気を持っているから、俺は昔から振り回されてばかりだ。俺が、名前で言うのをやめたのは、早くこの人に追いつきたかったからだと分かっているはずなのに。
「っ………つ、かさ、さん」
何とか声を絞り出して言えば、桐生さん……司さんは上出来、と優しく笑った。手慣れた手つきで、再び頭を撫でられる。
教師をしている司さんはきっと、学校でも生徒たちから絶大な人気を誇るのだろう。
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