笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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 そうして母を守ろうと躍起になっていた俺は、本当に何も知らない子供だった。









 俺が六歳の誕生日を迎えた日。母は突然変わってしまった。




 俺が近づいたり、話しかけると目を吊り上げて怒るようになった。俺を見るとあからさまに溜め息を吐く。食事は作ってくれたが、以前のように一緒に食べてくれるようなことは一切しなくなった。俺は、誰もいない部屋で一人で食事をし、一人で過ごし、一人で寝た。




 なぜ母が突然変わってしまったのか、俺には分からなかった。もしかして、自分がいきなり口調を変えたのがいけなかったのかと思い、定着しつつあったそれを元に戻して無邪気なものにして話しかけてみたりしたこともあった。




 しかし、それを聞いた母は、顔を思いっきり表情を歪ませて吐き捨てた。




「二度としないで」






 本気で怒気をはらんだそれを聞いて、強い拒絶を示したその青い瞳を見て、俺は呆然とした。母は仕事に出て行った。










 母に、嫌われた。そう思った。









 誰もいない、狭いその部屋で俺は一人すすり泣いた。大好きだった母に嫌われたら、俺には何も残らなかった。この家から出て他人と交流することが滅多に無い俺にとって、母は俺の全てだった。たった一人の、大切な人だった。





 母と同じ、この髪と瞳に喜んでいたのは、俺だけだったのだろうか。

 

 たまに母と食べる事ができる食事を楽しみにしていたのも本当は俺だけで、母は俺がまだ子供だからと仕方なく付き合っていたのだろうか。
 
 


 夜遅くまで起きて母を玄関で待つほど帰りを望んでいたのも俺だけで、実は会いたくもなかったのだろうか。


 
 本当は、ずっと前から、母は俺を疎ましく思っていたのだろうか。




 
 本当は、




 本当は、




 ほんとう、は。





 大好きだったのは、俺だけだったのだろうか。







 その夜、母が帰ってきた時、俺は泣いたせいで目が赤く充血し、誰が見ても泣いたことが分かる顔だった。




 俺はまだ希望を捨てきれず、もしかしたらこの顔を見て母は心配をしてくれるのではないかと。慰めてくれるのではと。そう期待した。







 でも、それは愚かな願いだったと知った。






 おかえり、そう言った俺を見て、母は顔を歪めた。そして言った。






「私に顔を見せないで。あんたを見るとイライラするのよ」







 名前さえ、呼ばれることなく。あれほど好きだった青い瞳には、嫌悪以外の感情は無く。聞いたこともないほど、乱雑にそう言い捨て。





 立ち尽くす俺に、母は目もくれず部屋の奥に入って行った。








 引き止める言葉をかけることすら許されず、俺はしゃがみ込んで嗚咽おえつを押し殺した。




















 声を出して泣いたら、また、母は俺を嫌うに違いないと思ったから。








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