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食卓に並ぶ豪勢な和食を囲みながら、龍神完治は対面の息子に視線を流した。豪華な和食を前に行儀よく座っているが、その顔はあまり穏やかとは言い難い。完治といすずに対して緊張し、畏まっているようだ。
「瑚珀、これもどうかしら。美味しいのよ?」
「はい、いただきます、母上」
勧められた料理を律儀に全て食べる瑚珀に、いすずは嬉しそうだ。妻が瑚珀の強ばりに気付いてないということはないと思うが、それ以上に嬉しいのだろう。瑚珀も戸惑ってはいるものの、拒絶はしていない。むしろいすずを悲しませまいとする気遣いすら見える。
心優しい子だ。
勉強も運動もでき、風紀委員長まで務める瑚珀のことを、完治は社交の場などで褒められることが多い。龍神家は瑚珀君のおかげで安泰ですね、と周りから言われるのはいつものことだ。こんな息子がいて羨ましいと。
しかし、息子はそれを聞くたびに顔を曇らせる。
いつだったか、完治はとある富豪が開催したパーティーに瑚珀を連れて参加したことがある。そこで完治達に挨拶をしに近づいて来た巷で有名な家門の男が、瑚珀を見てこう言った。
「ほう、彼がご当主様のご子息ですか………あまり、ご当主様とも奥様とも似ていらっしゃらないのですね?」
それを聞いた時、傍らの瑚珀は顔色一つ変えず、
「私は父方の祖父に似たようです」
と躱してみせたが、完治には瑚珀がかなり傷ついたように見えた。その証拠に、帰りの車内で彼は完治に聞いたのだ。
「父上………私は、龍神の家門に泥を塗るような真似をしているのではないでしょうか」
鉄壁、と言えるほど完璧に表情を変えることのない息子だが、素顔はただの心優しい少年だと完治は知っている。自分の存在が完治やいすずに害をなすのではないかと、ただそれだけを瑚珀は心配していた。
息子が実家に帰ってくることを望んでいないのは、よく知っていた。完治といすずに気を遣うのも、二人を父上と母上としか呼ばない理由も。
原因も、よく分かっている。
ずっと、分かっている。本当は。
だって、確かあの時瑚珀は、戸惑う完治といすずにこう続けたから。
「私に、龍神家の血が流れていないがために」
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