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しおりを挟む龍神side
学園の外に出ると、既に龍神家専属の車が待機していた。実家に帰省すると連絡したので関係者が手配したのだろう。近づくと一礼され、扉を開けて中へと誘われる。俺は一言礼を言って乗り込んだ。
学園から本家までは、かなり遠い。簡単に車で行けるような距離では無い為、俺がそれを理由に帰省を断れば大体受け入れられてしまう。その点で言えば、この学園に来て良かったかもしれない。
だが、今年は流石に高校三年ということもあり実家への帰省を余儀なくされた。大方、後継についての話や卒業後の進路について聞かれるのだろうな。
四時間ほど穏やかに揺られて、車は屋敷の前に停車した。西連寺の実家は洋式のようだが、俺の家は完全な和風だ。警備や設備は最新らしいが。
重厚な門を側にいた警備員に開けてもらい敷地内に入ると、奥にある家の戸の前に二つの人影が立っているのが見えて俺は思わず姿勢を正して歩みを速めた。そうして二人の前に立つと、そのうちの一人にがばっと抱き締められる。
「瑚珀、お帰りなさい」
ほっそりとした腕に抱き締められた俺はぎこちなく手を回す。
「……はい、ただいま帰りました…母上」
絞り出して、掠れた声で言えば母上は少し悲しそうに笑った。
「………やっぱり、母さん、とは呼んでくれないのね」
「………………すみません」
「いいのよ、私ももっと努力しなきゃね」
空気を変えるように元気な声を出してばちっ、とウインクする母上に、俺は顔が見せられなくてうつむいた。
違う。
母上は何も悪くない。
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困らせているのも俺だ。
母さん。
一言、たった一言言えばいいだけだ。言え。今すぐ、早く。
そう自分を責めても、喉はなぜかその言葉を言おうとするとぎゅっと締め付けられたように声が出ない。まるで、その言葉を言うことを体が拒否しているようだ。
「瑚珀。私には顔を見せてくれてくれないのかな?」
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「とんでもありません。ただいま帰りました、父上」
うん、おかえり、瑚珀。
深みのある低音でそう返され、母上にもされたように抱き締められる。
そのたくましい腕に俺は、帰って来たんだな、と他人事のように思った。
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