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ついに夏休みに突入し、盆期間が目前となった平日に風紀委員会は最後の部屋整理をしていた。明日からは学園閉庁で学園に入ることができなくなるからだ。
「委員長は明日、ご実家に帰られるんですよね」
外が赤く染まる中、書類を片付け帰宅の準備をしていた亘が龍神に話し掛けた。
「…………ああ」
ややあって、返事が返ってくる。その様子に亘は首を傾げた。
龍神は基本、聞かれた問いにははっきりと答えるタイプだ。それが彼なりの誠意の表し方であり、礼儀である。そのため、今回のように間を置いて回答することは極めて珍しいことと言えた。
(もしかして、ご実家に帰られることがあまり好きではないのでしょうか…)
そういえば去年、龍神は盆期間中に一度も実家に帰省していない。先代の風紀委員長に帰省しなくていいのかと聞かれても、龍神は黙って首を振るだけだった。
『龍神』といえば、現生徒会長である西連寺の実家、西連寺家とも引けを取らないほどの名家である。
その歴史は長く、江戸時代まで遡る。そんな大家の次期当主となれば、家柄の重圧もさぞ大きいのだろう。あるいは、両親からの期待が大きいのかもしれない。去年は帰らずに済んだが、今年は流石に帰らなくてはならなくなった、という所だろうか。
憶測を張り巡らせた結果、亘は独り合点し、それ以上龍神に踏み込むことは無かった。亘もまた実家にはいい思い出がないので、詮索するのも無粋だと考えたからだ。
だから、その推測が全く違うとは、露程にも思わなかったのである。
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