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無事に御法川が出て行き、龍神と亘は風紀室に二人になった。
「はあ、もう…何が何だかわからないんですが……」
と言いながら風紀室の扉を閉めた亘は龍神の方を向いた瞬間固まった。
「……亘?どうした」
龍神が怪訝な顔をするが、もはやそんなものは亘の視界に入っていないも同然だった。黒曜石のようなその瞳は、ただ一点、龍神の首筋のみに注がれている。
日焼けしていない白い首に目立つ紅。それが何なのか瞬時に分かった亘は呆然としていた。通常であれば凄まじい怒りに囚われていたはずだが、それよりも亘にとって衝撃なのは龍神の今の格好だ。
普段、龍神は夏でも学ランを着てしっかり首元まで詰めている。真面目な龍神にとって着崩すことはおろか、一般生徒のように正装をやめたりすることは風紀委員長としての立場に反するため、首から下が露出するのは体育くらいだ。
だが今はどうだろう。学ランは全開、中のシャツはボタンが三つも開いていて鎖骨から胸元までが大きく露出している。普段禁欲的な服装なだけに、今の姿は破壊力という観点から心臓に悪すぎる。この格好で生徒達の前に出れば、一体何人の生徒が色気に当てられて卒倒することだろう。
他人の目に入る前に早急に元に戻さなければ。
ある種の使命感に駆られた亘は戸惑う龍神を置いて高速で龍神のボタンと襟を閉じ元に戻す。これはまだ世には早すぎる。
「それで、委員長。隠さずに全てあの悪魔とあったことを話してください」
見たことがないほど怖い顔をしている亘に若干気圧されつつ、龍神は全て残らず先程のことを吐かされた。龍神が話すにつれ険しい顔をしていた亘は一連の流れを聞いて額に青筋を浮かべながら、とりあえず頷いた。
「………悪魔、いえ、御法川先輩はとりあえず後でもう一度殴っておくとして、委員長。あなたはもう今後一切御法川先輩と二人っきりにならないでください」
「それは少し無理なように感じるが…」
「いいですね?」
「わ、分かった」
半ば強引に龍神に返事を言わせた亘は、大きな溜め息を吐いた。
「しかし、御法川先輩ですか……こんな時にと言いますか、正直ただただ迷惑ですね」
もはや頭痛すらします、と額に手をやる亘に容赦ないなと龍神も苦笑しつつ、面倒臭くなるであろうことは分かっていた。
「本当にな。あいつに一年のことを言うと、芋づる式で藍野に興味を持って厄介事を持ち込むのは目に見えている」
御法川万尋という人物は稀に見るほどの自由人であり、およそ八割は好奇心で動いているような人間だ。おまけに思考も感情も正確に読めないので、彼の手綱を握り制御することはほぼ不可能に近い。龍神が風紀に入れたのも先生や先輩にどうにかしてくれと泣きつかれたからで、それまでの御法川への対策が全て効果が無かったためだ。
はっきり言って御法川は、同じ言語を話しているのに一向に分かり合えないため、その存在はもはや地球外生命体のようなものであると亘は思った。胃痛案件である。
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