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しおりを挟む「それで不審者だと思ってあんなに恐る恐る入ってきたの?
挙げ句の果てには声掛けた僕の腕捻って壁に押し付けたって?
はーっ傑作だね。」
やばいお腹痛い、と俺の前で大爆笑しているそいつを俺は思いっきり無言で睨んだ。
結論から言うと、中にいたのは侵入者ではなかった。
かといって先生方の誰かでも西連寺でもなかった。
あの後扉を開けると、中は電気がついておらず薄暗かった。誰もいない。
俺の思い違いで、本当にただの戸締まり忘れだったんだろうか。
早まったか、と溜息をついたその時、背後に気配を感じた。息を詰め、同時に振り返る。
「やぁ、久しぶ──」
俺が振り向く直前に何か言っていたが、その言葉が耳に入らなかった俺はそのまま背後にいた人物の腕を掴んで捻り上げた。
「いっっったい!!ギブ!」
「誰だ………ってお前……」
そのまま尋問しようとして相手の顔を見た俺は、捻り上げていた手を止めた。
「声と気配で気づいてほしかったなぁ?」
くつくつと笑いながら浅葱色の瞳をこちらに流す。色素の薄い茶髪が同調するようにふわっと揺れた。相変わらず息を呑むほどの美形だ。
「元はと言えばお前が紛らわしいことをするからだろうが。入ってきた時に普通に声を掛ければいいものを、わざわざ背後に立って話しかけられたら、誰だって警戒するだろう。」
「ふふ、入ってきた時の瑚珀可愛かったなあ。めっちゃ中窺って、ゆっくり移動して安心したみたいに溜息を吐いちゃって。腕捻られなかったら襲ってたよ」
「…うるさい。警戒してただけだ」
目の前のこいつは、御法川万尋という。
父親が法務大臣で、母親が海外の有名な富豪の娘という大層な家の次男なのだが、おとぎ話の王子様のような見た目に反して破天荒で、父親のような厳格な雰囲気などは一切持ち合わせていない。
それどころか入学当初から問題しか起こしていないため、藍野に匹敵するほどのトラブルメーカーだ。実は三月に問題を起こし謹慎処分になっていたので、今日まで全く会うことがなかった。
「……それで?お前は結局何をやらかして謹慎処分になっていたんだ」
「ん?言ってなかったっけ、仁先生に追いかけられて、駆け込んだ空き教室の窓ガラス割って逃げたからだって。」
「それは聞いた。俺が聞きたいのは、何でそんなことになったのかの経緯だ」
ちなみに御法川の言う仁先生とは、御法川の所属する三年Aクラスの担任で、科学を担当する仁吹雪先生のことだ。俺たち風紀委員会の顧問の先生でもあり、生徒に厳しいのだが、うまくやればちゃんと褒めてくれるいい先生だ。
「ああ、大したことじゃないよ。仁先生が仕事任せてきそうになったから、ちょっと煽って遊んであげただけ」
それだけであんなに怒るなんて先生も大人気ないよね、なんて鼻で笑う御法川の頭をはたいておいた。仁先生がとても気の毒だ。こいつの担任なんてさぞ苦労されていることだろう。
「痛いなあ。同じ風紀委員なんだから、仲良くしようよ」
「お前は異例の存在だろうが」
そう、実は御法川は風紀委員なのだ。俺が半強制的に入れた。
誤解しないでほしいのだが、こいつが何か活躍したが故に勧誘したわけではない。むしろその逆で、あまりに問題を起こすので俺が最も監視しやすいように風紀に入れた。何も知らない一年がこいつの王子のような見た目に騙されて泣くようなことがないといいが……まあ無理だろうな。
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