笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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龍神side







「うわああああああ、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」








「落ち着け、これは事故だ」











 突然だが、事故が起きた。








……ああ、すまない、俺も少し混乱しているようだ。説明不足だったな。




 とりあえず目の前にいる生徒をなだめて落ち着かせる。自分より取り乱している人がいると案外冷静になれるものだ。






「でっでも……僕のせいで風紀委員長様がっ!」





 涙目になってこちらを見る彼は強く責任を感じているらしく、なかなか引かない。視線は俺のつけている腕輪。




 そこには、捕縛の完了を知らせる赤色のランプを灯す銀の腕輪がある。彼がつけている腕輪も、同様の色をしていた。





 何が起こったのか、順を追って説明しようか。






 俺はあの後鬼ごっこに集中し、他の人に見つからないように静かに歩いていたのだが、ちょうど階段を上っていた時、この今対面している彼と鉢合わせてしまった。向こうも俺に驚いたらしく足を滑らせて階段から落ちてしまったので、反射的に俺が抱きとめたらセンサーが反応してしまった、というわけだ。




 たまたま、逃げる側の生徒だったらしい。




 よって俺と彼はペアになってしまい、彼は今その責任を感じて項垂れている。



「いいか、俺は別に新歓ではなくとも君を助けていた。つまりこれは当然のことであり、君が責任を感じることじゃない」


 
 だから気にするな。


 そう伝えると彼は呆然として



 

「ほ、ほんとに噂通りの人だ……」



 
 と呟いた。噂とは……?例の笑わない云々のことだろうか。

 



「ところで、君の名前を聞いてもいいか。いい加減二人称で呼ぶのも失礼だ」


 
「は、はひ!いいい一年Sクラスの、み、三浦尋みうらひろと申しますっ!!」







……三浦?





「ああ、転校生と懇意にしている生徒というのは、君のことか」





 俺が呟くと三浦はビクッと肩を震わせて恐る恐る頷いた。





 なるほど、道理で見た事のある顔だと思ったわけだ。







 しかし、彼を捕まえたということは、俺が三浦に何か願いを言わなければならないということだよな……。





 参ったな、誰も捕まえないつもりだったんだが……まあ、新歓が終わるまで気長にゆっくり考えるとしようか。





それに、


 

「君を捕まえたことで皆も俺を追い掛けないだろうしな」

 
「へ?」
 

「君も可愛らしい顔立ちをしているし、俺といる方が安全だろう。行こうか」

 
「えっ?!」


 



 悪いが少しだけこの状況を利用させてもらうぞ。



 ぼやっとしている三浦の手を引いて校内を歩く。堂々と歩けるようになって安心した。




「はっ!!ちょっっと待ってくださいっ!無理です無理です殺されちゃいます!」




 唐突に我に返り真っ青な顔をした三浦が焦ったようにこちらに訴えた。




「何でだ?」




 首を傾げると三浦はうっ、と呻いて怯んだが、すぐにまた喚いた。






「おかしいです僕が風紀委員長様みたいな人気者とペアになるなんて!!ここは普通王道転校生のポジションのはずなのに僕がここに収まったら腐男子受けみたいでまずいです!」












 ん??




 



「悪い、半分くらい単語が分からなかった」



「だから、僕は萌えの傍観者でありたいのであって、主人公にはなりたくないんです!」





 

 何となく既視感を覚えて首を捻ると、該当する人物の顔が浮かんだ。響だ。

 もしかすると彼は響と同類なのだろうか。心無しか同じものを感じるが…………。



 

「とにかく!ダメなんです!風紀委員長様とペアなんて僕制裁受けちゃいますよ!!!!!」



 

………………制裁?



 

 
「俺に親衛隊はいないが……もしそれが本当ならそれは絶対に防いでみせる。それが俺の仕事だ」




「ああああ!違うんですぅうううう!!」





 これではその証明が不十分ということだろうか。根拠がない、と?

 
 ふむ。


 
 少し考え込み、三浦の手を取ると彼は突然のことに慌てふためいた。




 



 
「俺が必ず守る。これでもダメか…………?」





 

 

背の低い三浦の為に屈んでそう口にすると、三浦は顔を真っ赤にして狼狽した。



 

「なっ、なっ、なあああ……」



 


 返事はない。ということは、了承と取っていいのだろうか。そう思って顔を覗き込んでみた。



 

「三浦?」



「も、もう、良いですから……ペアで良いです……」





蚊の鳴くような声でそう返され、俺は満足して頷く。そうと決まれば俺がエスコートしなくては。





「三浦、行こう」





 
 今度こそ、三浦は俺の手を取って歩き始めた。

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