笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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 乾の温かい手が俺の手を包み込んでいる。


 




 子供体温なのだろうか。そんなところも犬そっくりだな、なんて思ってしまう。




「期待、してたんだ!!!」




 必死そうな声に我に返り、乾と向き合う。




 期待…………何にだ?




 目を見つめ返してゆっくりと続く言葉を待つ。乾が俺に何かを必死になって伝えようとしているのはよく分かる。よく分かるから、俺は急かさずに乾の言葉を最後まで聞こうとした。




「お、俺は、本当は、生徒会の皆に注意しないといけないって、仕事しないとって言わなきゃいけないって分かってた、けど…………俺が、欲張ったからっ」





 切れ切れに言葉を紡ぐ乾は、俺の両手を握った手を震わせていた。


「皆が、仕事をしなくなってまずいって思う反面、もしかしたら、俺だけ仕事をしたら龍神が俺の事を気にかけてくれるかもって、思って」



 俺が気にかける……?


 乾は、俺を気にして仕事をしていたと……?





「乾、一つ聞いていいか」


「あ、ああ」



「その、今の話を聞くと、まるで乾が俺を気にして仕事をしていたように聞こえるんだが…」



 俺の勘違いだろうか。だったら申し訳ないな。



 という思いを抱く俺に、乾はこくりと首を縦に振った。同時にかああと頬を赤くする。



「俺は、実は、ずっと龍神と話してみたかったんだ…………だが、その、俺は自分から話にいけるタイプじゃないから、今回のことで俺だけ仕事をしたら、もしかしたら………龍神の方から俺を気にとめてくれるかもしれないと、期待してしまった」



 本当に、すまない。


 二度目の謝罪でしゅんとする乾に合わせて俺の両手に込められていた力も緩くなる。




「気持ち悪いだろう…?幻滅するだろうな……」





 泣きそうな顔で乾が小さく声を震わせた。両手が離され、途端に自由になった俺の手は重力に従い自然に下りる。















────『どうしたの、瑚珀』














 気づけば俺は、乾の頭を撫でていた。






「っえ、た、つがみ…………?」







 戸惑った様子の乾にハッとする。すぐに手を離した。





「…っ悪い、ある人の癖で俺はすぐに人の頭を撫でてしまうんだ」






 最近はそれほどでもなかったんだが……同級生を撫でるなんて俺も流石にどうかしている。まして乾は俺よりもずっと身長が高くて、落ち着いた生徒なのに。





「げ、幻滅……してないのか?」





 乾が目を潤ませてこちらを見る。不安そうに瞳が揺れた。




 それに関しては断言出来る。




「してない。ついでに言うと気持ち悪くもない。……むしろ、乾が俺と関わりたくてって言うのも嬉しかった。俺と仲良くしたいと言ってくるやつはそんなにいないしな……」





 皆一定数の距離を置いて俺を遠巻きにしている。無視をされたりするわけではないが、やはり表情筋を動かさない無礼な人間にわざわざよろしくしたいと思う人は響を除けばいない。




 だから、乾が俺にそんな気持ちを抱いていて嬉しかったのは本当だ。




「ほ、本当か?!」





 目を輝かせる乾に俺が再度頷くと、乾は今までに無いくらい嬉しそうに笑った。




 その姿はまさに犬が喜んでいるようで、しっぽと耳が見えた気がするのは内緒だ。
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