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どこで間違えたか
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龍神side
「委員長、どうぞ」
コトリ、とコーヒーが机の上に置かれる。ふわっと落ち着く香りが室内に漂い、自然と気分がリラックスした。俺は報告書を書いていた手を止め、コーヒーを持ってきた亘を見上げる。
「ああ、悪いな。いつもありがとう」
「いえ、お気になさらず」
温めのコーヒーに口を付けて束の間の休息に入っていると、隣でデスクワークをしていた亘がふと呟いた。
「生徒会の彼等、仕事を再開し始めたそうです」
「……そうか」
俺が転校生と生徒会連中に忠告して2日経った。
そんなに直ぐ元に戻らないかもなと思っていたのだが、リコールの一言が思ったより効いたらしい。亘によると生徒会連中は、今まで溜まっていた仕事が一気に襲ってきたことで、毎日生徒会室に篭もっているそうだ。俺は自分達が仕事をしていなかった期間は親衛隊が代わりに仕事を請け負ったりしていたことを知っているので、生徒会の復帰と同時に彼らを手伝わないようにと親衛隊員に言っておいた。
当然だ、自分の始末は自分で付けなければ意味がない。おかげで生徒会室は火の車状態だろうが、仕方ないだろう。どうしても仕事が追いつかないようなら俺が補佐するが、それは最終手段だ。
とはいえ、あれでも優秀な奴らだから、何だかんだ言ってやり切るだろう。実質俺の助けは必要ない。
「さすが委員長です。生徒会が一発で言うことを聞くとは」
「いや、俺は変われとは言ってない。あくまでもあいつらの意思であり判断だ」
救いようが無いほどの姿だったのは事実だが、今生徒会室で連日篭って仕事をしている姿もまた事実。
現に今日、珍しく教室で俺に話し掛けてきた生徒会長が放課後風紀室を訪ねると言ってきた。
西連寺が教室で話しかけてきた事など嫌味や揶揄いを除けば俺が風紀委員長になる前以来の事なのでとても驚いた。
風紀に入る前は偶に話していたんだが……どこで間違えたんだろうな。
人の縁とはよく分からないものだと思いつつ書類に目を通していると、風紀室の扉がノックされた。
「どうぞ」
ノックに返事を返すと、やや強めに風紀室の扉が開いた。チラリと見て、納得する。
「ああ、西連寺か」
入ってきたのは先程脳内で登場した生徒会長、西連寺だった。噂をすれば、というところだろうか。来ると言っていた時間より若干遅いのがこいつらしい。ただ真面目に言うと学生の内から遅刻癖をつけるのはどうかと思うぞ。社会に出たら遅刻は許されない。信用を失う行為だからな。
「んだよ、うっすい反応だな。俺を見たら大抵の奴らは騒ぐか妬むかのどっちかだぞ。ならお前もその二択から選ぶべきだろーが」
開口一番、心底馬鹿にしたように言ってくる西連寺だが、俺からすればお前が心底馬鹿だ。
「俺は別にお前に思うことは何も無いからな。騒ぐ必要も妬むべき要素もない」
そう言って馬鹿にしたような視線を涼しく流し、挑発を躱す。時間の無駄なのでそのまま間髪入れずに話を振った。
「そんな事はどうでもいい。お前は俺に提出する書類があるんだろう。それを早く出せ」
思いっきり冷たい目で西連寺を見ると、何故かあいつは黙り込んだまま動かな
い。てっきり嫌味の一つや二つでも返ってくると予測していただけに思わず怪訝な顔をしてしまった。何故何も言ってこない?
「おい」
まさか体調でも悪いのだろうかと一言声を掛けると、西連寺はやっと顔を上げて元の馬鹿にしたような笑みを浮かべ、鼻で笑った。
「ハッ、相変わらずムカつくクソ風紀だな。そんなに書類が欲しいならくれてやる」
俺の心配を返せ。
嘲笑に内心イラッとしつつも、いつもの感情のコントロールが効いて無表情を保つ。
「仕事を放り出して書類を溜めていたのはどこのどいつだ」
言いながら差し出された書類を受け取り目を通す。ミスの一つでも見つけてやろうと思ったが、そこは西連寺、書類のどこにもミスは無かった。
「……ん、ミスは無いな。」
こういう所は完璧な西連寺。仕事に関しては評価しているし、信頼している。
…………認めたくはないが。
判を押した書類を西連寺に渡す。
「特に言うことは無い。確かに処理した」
「ったりめーだろ。俺が直々に作った書類だ」
「……用が済んだら帰れ」
「てめえに言われなくても帰る。こんなとこに長々と居られるわけねえだろ、俺は忙しいんだ」
バタンッと大きな音を立てて扉が閉まる。物に当たるなと言いたい。
まったく、最後まで人を苛立たせる奴だな。
呆れて溜息を吐く。すっかり冷たくなってしまったコーヒーに再度口を付けた。
そういえば、リコールの件で忠告しに行った時、なんで西連寺だけあんなに余裕そうだったのか聞くのを忘れていた。
…………と言っても、西連寺の考えている事なんか俺に分かるはずもないが。
何が気に食わないのか分からないが、俺はそんなに西連寺のことが嫌いじゃないんだがな。コーヒーを飲み干し、休憩を終えてまた書類に向かいながらどこか腑に落ちない感情を抱く。しかし、それもすぐに振り払った。
まあ、向こうが嫌いなら距離を置くのが正解だろう。
触らぬ神に祟りなし、だ。
「委員長、どうぞ」
コトリ、とコーヒーが机の上に置かれる。ふわっと落ち着く香りが室内に漂い、自然と気分がリラックスした。俺は報告書を書いていた手を止め、コーヒーを持ってきた亘を見上げる。
「ああ、悪いな。いつもありがとう」
「いえ、お気になさらず」
温めのコーヒーに口を付けて束の間の休息に入っていると、隣でデスクワークをしていた亘がふと呟いた。
「生徒会の彼等、仕事を再開し始めたそうです」
「……そうか」
俺が転校生と生徒会連中に忠告して2日経った。
そんなに直ぐ元に戻らないかもなと思っていたのだが、リコールの一言が思ったより効いたらしい。亘によると生徒会連中は、今まで溜まっていた仕事が一気に襲ってきたことで、毎日生徒会室に篭もっているそうだ。俺は自分達が仕事をしていなかった期間は親衛隊が代わりに仕事を請け負ったりしていたことを知っているので、生徒会の復帰と同時に彼らを手伝わないようにと親衛隊員に言っておいた。
当然だ、自分の始末は自分で付けなければ意味がない。おかげで生徒会室は火の車状態だろうが、仕方ないだろう。どうしても仕事が追いつかないようなら俺が補佐するが、それは最終手段だ。
とはいえ、あれでも優秀な奴らだから、何だかんだ言ってやり切るだろう。実質俺の助けは必要ない。
「さすが委員長です。生徒会が一発で言うことを聞くとは」
「いや、俺は変われとは言ってない。あくまでもあいつらの意思であり判断だ」
救いようが無いほどの姿だったのは事実だが、今生徒会室で連日篭って仕事をしている姿もまた事実。
現に今日、珍しく教室で俺に話し掛けてきた生徒会長が放課後風紀室を訪ねると言ってきた。
西連寺が教室で話しかけてきた事など嫌味や揶揄いを除けば俺が風紀委員長になる前以来の事なのでとても驚いた。
風紀に入る前は偶に話していたんだが……どこで間違えたんだろうな。
人の縁とはよく分からないものだと思いつつ書類に目を通していると、風紀室の扉がノックされた。
「どうぞ」
ノックに返事を返すと、やや強めに風紀室の扉が開いた。チラリと見て、納得する。
「ああ、西連寺か」
入ってきたのは先程脳内で登場した生徒会長、西連寺だった。噂をすれば、というところだろうか。来ると言っていた時間より若干遅いのがこいつらしい。ただ真面目に言うと学生の内から遅刻癖をつけるのはどうかと思うぞ。社会に出たら遅刻は許されない。信用を失う行為だからな。
「んだよ、うっすい反応だな。俺を見たら大抵の奴らは騒ぐか妬むかのどっちかだぞ。ならお前もその二択から選ぶべきだろーが」
開口一番、心底馬鹿にしたように言ってくる西連寺だが、俺からすればお前が心底馬鹿だ。
「俺は別にお前に思うことは何も無いからな。騒ぐ必要も妬むべき要素もない」
そう言って馬鹿にしたような視線を涼しく流し、挑発を躱す。時間の無駄なのでそのまま間髪入れずに話を振った。
「そんな事はどうでもいい。お前は俺に提出する書類があるんだろう。それを早く出せ」
思いっきり冷たい目で西連寺を見ると、何故かあいつは黙り込んだまま動かな
い。てっきり嫌味の一つや二つでも返ってくると予測していただけに思わず怪訝な顔をしてしまった。何故何も言ってこない?
「おい」
まさか体調でも悪いのだろうかと一言声を掛けると、西連寺はやっと顔を上げて元の馬鹿にしたような笑みを浮かべ、鼻で笑った。
「ハッ、相変わらずムカつくクソ風紀だな。そんなに書類が欲しいならくれてやる」
俺の心配を返せ。
嘲笑に内心イラッとしつつも、いつもの感情のコントロールが効いて無表情を保つ。
「仕事を放り出して書類を溜めていたのはどこのどいつだ」
言いながら差し出された書類を受け取り目を通す。ミスの一つでも見つけてやろうと思ったが、そこは西連寺、書類のどこにもミスは無かった。
「……ん、ミスは無いな。」
こういう所は完璧な西連寺。仕事に関しては評価しているし、信頼している。
…………認めたくはないが。
判を押した書類を西連寺に渡す。
「特に言うことは無い。確かに処理した」
「ったりめーだろ。俺が直々に作った書類だ」
「……用が済んだら帰れ」
「てめえに言われなくても帰る。こんなとこに長々と居られるわけねえだろ、俺は忙しいんだ」
バタンッと大きな音を立てて扉が閉まる。物に当たるなと言いたい。
まったく、最後まで人を苛立たせる奴だな。
呆れて溜息を吐く。すっかり冷たくなってしまったコーヒーに再度口を付けた。
そういえば、リコールの件で忠告しに行った時、なんで西連寺だけあんなに余裕そうだったのか聞くのを忘れていた。
…………と言っても、西連寺の考えている事なんか俺に分かるはずもないが。
何が気に食わないのか分からないが、俺はそんなに西連寺のことが嫌いじゃないんだがな。コーヒーを飲み干し、休憩を終えてまた書類に向かいながらどこか腑に落ちない感情を抱く。しかし、それもすぐに振り払った。
まあ、向こうが嫌いなら距離を置くのが正解だろう。
触らぬ神に祟りなし、だ。
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