笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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邂逅

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side 龍神



転校生と生徒会の姿を捜すついでに校内の様子もざっくりと見ながら亘と歩く。



「可能性としては、食堂か生徒会室ですかね」


と隣を歩く亘が言う。


「だろうな。もれなく生徒会の連中とセットだろう」


アイツら……特に生徒会長は俺のことが気に入らないらしく、会う度に突っかかってくるので正直うんざりだ。



が、それは顔には出さずに淡々と返す。風紀委員長たるもの仕事に私情を挟むのは良くない。


「まずは生徒会室に行く。居なければ教室だ」


「分かりました」



短く交わして生徒会室に向かうと、扉の中から騒ぎ声が聞こえた。

素早く亘と目線を交わし扉を開ける。



バンッ



中には予想通り、生徒会連中と藍野が居た。



「あ?誰かと思えばクソ風紀じゃねーか」



はっ、と鼻で笑って馬鹿にした笑みでこちらを見て来たのは、国内でも有数の権力を持つ西連寺家の嫡男であり、降魔ここの生徒会長でもある西連寺統和さいれんじとうわだ。転校生、藍野の隣で長い足を組んで深紅の瞳をこちらに向けている。

仕事も出来るしカリスマ性もある……これで性格がもっと良ければ違ったんだがな。



「風紀のツートップが何の用ですか?」



苛立ちを隠しきれていない様子のこいつは副会長の樋口滉ひぐちこう。中性的で美しい容姿をしており、細い縁の眼鏡を掛けていることからも神経質で繊細な印象を受ける。しっかりしているので問題ないと思っていたのだが……

恋は盲目、ということだろうか。

因みに、風紀のことは相変わらず毛嫌いしているようだ。



「…………………………」



そして先程からこちらに目を向けているのは、生徒会書記の乾稀吏いぬいきりだ。生徒会の連中には疲れさせられてばかりだが、乾だけは唯一の癒しであり良心だと言っていい。実は生徒会の仕事も書記のものだけはきちんと提出されているので、乾だけは俺も他の生徒会連中とは違うと思っている。



「お、やっほーこはちゃんとわたりん」



ヒラヒラと手を振って相好を崩すのは、生徒会会計の遠山千秋とおやまちあき。遠目でもよくわかるほど明るい金髪に第2ボタンまで開けられた制服からかなり軽薄な雰囲気が流れている。俺の事を「こはちゃん」なんて呼ぶ奴はこいつしか居ない。亘のことを「わたりん」なんて以ての外だ。今も亘は隣でにこにこしているが、ほんの少し唇の端が強ばっている。




「「うわー、風紀とか最悪ー」」




見事に重なった声でストレートな悪口を言っているのは双子の綿谷真央わたやまお綿谷怜央わたやれおだ。役職は生徒会庶務。二人いるが役職上は二人で一人という扱いになっている。それでいいのかと思うがまあ本人達がいいなら口を出すことではない。



そして。




「お!!庵司じゃん!!久しぶりだな!」




言わずもがなの転校生、藍野純。資料通りモサモサの髪に分厚い眼鏡姿で亘に話し掛けた。
大声で名前を呼ばれた亘は黙って微笑むに留めている。

不意に、転校生が俺を見た。




「お前!かっこいいな!!!名前はっ?」



来たな。

反射で無視しかけたが、いつもの無表情を浮かべて答える。

「俺は風紀委員長の龍神瑚珀だ。転校生、人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀というものだ、覚えておく事をお勧めする」

初対面だしこれくらいにしておこうか。次会って敬語でなければまた指導だ。

転校生に話す隙を与えず、俺は生徒会の連中に目を向けた。


「何の用か、と聞いたな。俺は何の用か分からないほど救いようがないお前たちに忠告しに来た」


「忠告?」


「お前達が転校生の尻を追いかけて全く仕事をしていないということが親衛隊を始めとした生徒に勘づかれつつある。このままの状態が続けばリコールの要請が来てもおかしくないだろう」


リコールという単語に副会長は少し顔を青ざめさせ、遠山も一瞬息を飲んだ。ちょっとは悪いという自覚があるらしい。会長の西連寺だけは何故か笑みを浮かべるほど余裕があるが。


「俺が言いたいことが分かるか?」


僅かに目を細めて言い放っておく。これくらいしなければこいつらは仕事をしないだろう。


さて、忠告はした。あとはこいつら次第だ。


亘に目配せして帰ろうと身を翻すその直前、誰かがかなりの力で俺の手を掴んだ。視界の端で亘が眉を上げたのが分かる。


「おい!そんな言い方して脅すなんて卑怯だぞ!統和達は今まで頑張ったんだからもう仕事なんかしなくたっていいんだ!!」


藍野だった。

暗そうな容姿に反してグイグイと俺に詰め寄ってくる。


「委員長!」


大丈夫だ、とこちらに歩み寄ろうとした亘を目で制す。



「「そ、そうだそうだ!」」



「そ、うです!もう十分でしょう?!」



藍野の勢いで庶務と副会長が同調する。藍野の手が俺の腕を更に強い力で掴む。

意外と力があるんだな。

なんて呑気に思いながら俺は冷たい目で奴らを見る。


「脅す?俺は、事実を述べただけだ。それに、今までやってきたからと言って途中で職務を放棄していい理由にはならない」


途端に縮こまる連中に隣の亘が溜息を吐いた。


「これは俺なりの優しさだ。地位を取り戻すチャンスだと思え」


それでも変わらなければ、リコールを受理するのみだ。

それから、と俺は藍野にも目を向ける。


「君も、自分の置かれている立場というものを自覚した方がいい。藍野純個人としての苦情も多い。それは嫉妬や嫌悪を別にしても、だ」


腕を握りこんでいる手に俺は静かに触れる。手がビクリ、と跳ねた。俺は藍野の耳にそっと口を近づけ、囁く。


「君が変わる事を、期待している」



唇を離すと、力が入っていた藍野の手は途端に弛緩しかんして離れた。

もう潮時だな。

亘、と呼び掛け二人で生徒会室を後にする。


はあ、骨が折れる。
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