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しおりを挟む「そこで棗がズバってシュートして、その後嬉しそうに俺にグッドサイン出して笑うんですよめっちゃ可愛くないですか俺の弟!?しかも試合終わってすぐ俺のとこ来て褒めて欲しそうにそわそわするとかもう本当に俺の弟は前世天使だったのかもしれない……」
「うんうん、要くんは本当に弟くんが大好きなんだねぇ。その子も要くんみたいなお兄ちゃんいて幸せだなぁ」
「んへへ、そうですかね?だったら嬉しいです」
いつも通り、紅茶のカップ片手に『俺の周りの人自慢』を勝手に開催する俺に先生は嫌な顔一つせずホワホワと笑いながらきっとそうだよ、と相槌を打ってくれる。俺はそれに呑気に照れ笑いしながら、先生が入れてくれた温かい紅茶に口をつけた。瞬間、ふわ、と広がる甘くて芳醇な香りに恍惚とする。
「わ……美味しい!!せんせ、今日の紅茶って何ですか?」
「ダージリンだよ、頂き物なんだけど…口に合ったみたいでよかった。ジンジャーのクッキーもあるから食べてね」
ありがたく勧められたクッキーに手を伸ばしてポリポリと食べる。ピリリ、と少しスパイシーな生姜とホワンと香るシナモンの甘い風味がめちゃくちゃ美味しくて、紅茶によく合う。
先生が入れてくれる紅茶はいつも美味しいんだけど、残念ながら紅茶に詳しくない俺は毎回何の種類の紅茶か分からないのでこうして先生に尋ねている。
俺も紅茶の勉強とかしたほうがいいかな…一応この学園に通う生徒って大半がお高貴な方々だし。
なんて思っていると柊先生が、そういえば、とカップを置いた。
「話は変わってしまうんだけど……要くんは外部生だよね。もうこの学園には慣れた?」
ゆるり、と細められた先生の優しげな垂れ目がこちらに惜しみもなく注がれる。圧倒的母性。前後を一切忘れて抱きつきたくなりそうなそのママみに一瞬たじろいだけど、いやいやと頭を振って先生に元気よく頷く。
「はい!!おかげさまで……まだびっくりさせられることは多いですけどね」
主にこの学園の財力にな!!
ほんとどっから出てんのこの資金と言わざるを得ない豪華な装飾や好待遇に割と高い確率で驚かされている今日この頃。ちなみに深春が言うには、「卒業生(OB)の方が支援もしてくれてる」らしいので納得である。あ、もちろん創立者の校長も相当な富豪らしいけどね。金持ちの元には金持ちが集まってくるってことなのか…ってこれはなんか聞こえ悪いな、ごめん。でもまぁ類友的なね、うん(絶対違う)。
「ふふ、確かに外から来た子はびっくりするよね。ここは他の学校とは随分雰囲気が違うし……だけど、慣れたのならよかった。要くんなら悪いようにはみんな接しないと思うけど、最初からあんなことがあったばかりだから少し心配してたんだ」
「俺はもう大丈夫ですよ!!みんなすごく仲良くしてくれるし、クラスメイトも先輩もいい人で…恵まれてるな、って思います」
あの事件があってからというもの、深春と夏木はそれぞれすごく心配してくれたらしくて始めはめちゃくちゃ気を遣ってくれていた。多分この手の事件の被害者っていうのが精神的に参ったりすることが多いからだろう。
だけど俺は結構割り切っているというか、無傷とはいえないけど一応最後までやられていないから案外ケロッとしているので、2人は少しだけ安堵したみたいだった。
まぁ、それでもすっごい心配されたけど。深春なんか目に涙浮かべてうるうるさせていたので俺はそりゃもう参った。とにかく謝って謝って宥めた。俺は可愛い子の泣き顔には弱いんだ…。
夏木に関しては、開口一番まず俺の体に対して「痛いところは!?」と焦ったように聞いてきて、俺がもう大丈夫だと言うと「大丈夫なわけないじゃん…」と眉根を寄せられて逆にこっちがワタワタして大変だった
そういえば、深春はともかく、夏木まであんなに俺を心配してくれるとは思わなかった。いや失礼な意味ではなく純粋に。夏木とかまたなんかネタにでもしてイジってくるのかなとかちょっと心のどっかで思っていたとかではない。いや嘘、ちょっとだけ、ほんの爪の先くらいだけ思っちゃってたかもしれない、ごめん。
しかしともかく、俺ってちゃんと2人と友達だったんだなぁと俺は改めて感じる機会になった。これが嬉しくないわけがない。幸せ者だなぁとくふくふ笑うと、2人は不思議そうな顔をしていた。
あ、そうそう、幸せ者といえば俺の推しである彗先輩も俺を大層心配してくれていたようで、なんと朝俺の部屋の前で待ってくれていた。
びっくりしすぎて腰抜けるかと思ったマジで。ガチャって開けたら推しが玄関先にいるとか誰が予想できるんですか…?何それどんなご褒美?夢の国なの?っていやいやファンなら予想しろや推しの足音から呼吸音から心音まで把握して聞き取れよ馬鹿か俺(この間2秒)。
朝から輝く美貌の彗先輩は、固まる俺に「……はよ」と挨拶をしてくれた。玄関先で彗先輩に朝の挨拶をされる世界線って何???朝から制服姿の先輩が少し照れたように小さい声で挨拶してくれる奴って誰なんだよどんな幸せなんだよふざけんな誰だそいつ俺だわ。
おはようございまスゥゥゥッと挨拶と深呼吸を同時に行なったら先輩が奇妙な生物でも見る目で見てきたがそんなことは気にしない。ちょ、酸素ないと整理できないのでごめんなさい。はい深呼吸、吸ってー吐いてー。
あらかた落ち着いたところで、どうして先輩がここに!!と聞くと彗先輩がちょっと黙った後、たまたまだ、と答えたので目を白黒させる。
いくらチョロいことで有名な俺であっても流石にそれには騙されませんよ先輩、たまたまでこんな違う学年の寮の角地のドアの前まで来るのは無理があります!!でもそんなあり得ない言い訳口にして誤魔化そうとするツンデレ彗先輩も可愛いです最高です尊い。
とか何とか俺は愛でまくっていつも通り先輩にデコピンされたわけだが、詰まるところ先輩は俺を心配してくれたようで、これも多分先輩なりの気遣いなんだろう。一ミリも、いや一ミクロンも先輩のせいではないだろうに、何かしら負い目を俺に感じてるらしい。本当に優しい人だ。
ただ、若干過保護になっているような気もするのが気になる。エレベーターの手すりで静電気バチっとなっただけであんな血相変えて心配しなくても…流石に俺でも先輩の剣幕にびっくりしましたよ。確かに真澄みたいな可愛い男の子相手ならそりゃ目ぇ見開いて心配するだろうけど、目の前にいるのは俺だからな、うん。真澄に比べるとだいぶ男子って感じの顔だからな、俺。モブだし。やっぱり先輩は俺に罪悪感みたいなものを感じているっぽい。これを取り除くのが目下の俺の課題である。
だがしかし、それにしてもみんなモブの俺に対してもすごく優しくしてくれているので、やっぱり俺は幸せ者だなぁ、と思うのである。恵まれてると本当に心の底から感じる。
「そっかそっか、要くんの人柄もだけど、周りの子達も良い子ばかりなんだね。それは安心だ」
ふふふ、と穏やかに笑う柊先生。細められた目が慈愛に満ちていて、心から俺を案じてくれているのが分かった。だから慌てて主張する。
「あ、もちろん先生も俺を幸せたらしめてる1人ですよ!!!」
先生は俺の癒しで第二の母みたいなところあるので、俺はこの人が大好きである。まだ出会ってそんなに日数経ってないけど、俺はすっかり柊先生に懐いてしまった。
満面の笑みで俺が言うと、先生はちょっと目を丸くした後おやおや、と柔らかく微笑んだ。
「嬉しいこと言ってくれるねぇ、要くん」
そんな良い子の君には特別に内緒でチョコレートをあげよう、と先生は悪戯っぽく笑って俺の手のひらに引き出しから出したチョコレートをくれた。ありがたく頂戴するが、ふと思った。あれ、俺なんか先生に食べ物もらいすぎじゃね?このまま行くと太りそうな予感だし、てかもはや餌付けされてるのではこれ。
………ちょっと、朝とかに運動したほうがいいかな、うん。
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