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しおりを挟む若干気まずい空気にやや涙目になっていると、先輩は決まり悪そうにそっぽを向きながらガリガリと首筋を掻いた。煌めく青い髪が、アクアマリンの輝きを持つ糸のように揺れる。
「……お前なんでそんな俺に構ってくんだ」
「え?なんでってそりゃ、先輩のことが大好きだからですけど」
「答えになってねぇよ、アホ」
思わず脊髄反射で答えてしまい、また俺はやべっと思ったけど彗先輩はただ俺を小突いただけだった。
でも俺ほんとのことしか言ってねぇんだよなぁ。構うっていうか、ただ愛を伝えてるというか。先輩自己評価低いし、俺がちょっとでも気分上げられれば満足というか。
どこがどう好きとかはもちろんあるけど、それって原作にかかる話だし、ボロが出そうだから言えない。でも好きは好きだからそれが伝われば俺は満足!だから俺は先輩に会う度に堂々と推しポイントを言っていこうと思う。
「まぁ、理由なんか特にないですよ!俺は先輩が好き、ただそれだけですから!!……あ、でも先輩がもし迷惑なら、今すぐやめます」
推しに迷惑かけるやつはただの害悪リアコ勢と変わらないからな。俺はその辺分別がしっかりあるので先輩が嫌ならすぐにでもやめる所存。
「……チッ、小っ恥ずかしいこと言いやがって……別に迷惑じゃねぇ、好きにしろ」
ふい、と視線を外して小さく呟く彗先輩。ねぇみんな聞いた?好きにしろだって好きにしろ!!!!これって実質両思い!?両思いじゃないのか!?先輩大好き一生推しますここで働かせてください!!!!(違う)
「むふふー!!」
「んだよ、その顔」
「いや、今日も先輩は可愛いなと思いまして!!!」
「かっ……目ぇ腐ってんのかお前」
即座に首から上を赤くする彗先輩に、だからそれが可愛いんですってば、と笑うとどん、と左肩に誰かがぶつかった。
「っと、すみませ……」
「──あ゛?」
咄嗟に謝罪の言葉が口から溢れると、直後にそれはそれはドスの効いた声が聞こえてくる。うわ、まずった。これ絶対ロクなやつじゃないじゃん。
そろりと視線を上げると、見事なまでの凶悪三白眼とバチッと目が合う。わーお、猫より釣り上がった目だなぁ。続いて更に上を見ると、血のように真っ赤な髪が刈り上げ……って、あれ?
「あっ!!!!!」
「あ゛ぁっ!?テ、テメェは!!!!」
俺が指差したと同時に向こうも目をかっ開いて人差し指を向けてくる。お、お、お前は!!!!!
「レッドホットチキン野郎!!!」
「クソ田舎ドチビ!!!」
誰がチビだおい。
余計な一言にピキると、レッドホットチキンがぶつかった時の数十倍悪い目つきでこっちを睨んできた。相変わらずこいつの髪の毛赤すぎて眩しいな。
「その呼称で呼ぶんじゃねぇぶっ殺すぞ!!!」
「じゃぁそっちから先に訂正しろや主にチビのとこを!!!あの時の負債結局返してないの俺知ってんだかんな!!謝れやレッドホットチキン!」
「て、テんメェクソ生意気だなオイィ!?全く懲りてねぇじゃねぇか!!」
「生意気な態度取らせる方が悪いだろ。言っとくけどお前も俺にクソ生意気なこと言ってっからな!?おあいこじゃんみみっちぃ」
「うるせぇ!!!俺のバックについてる方がどんな人か知りもしねぇ雑魚外部生がこの俺に口答えすんじゃねぇよ!!!」
あ、やっべ煽りすぎたかも、と思ったが時すでに遅し。暴力と共に吐かれそうなセリフ第5位くらいの『口答えすんじゃねぇ!!』と共にグーパンがまっすぐ飛んで来る。やってやるわおらぁ!!と気概だけは十分の俺だったけど正直喧嘩とかしたこと無さすぎて瞬間的に何したらいいか分からない。え?小学校の頃5対1の喧嘩に首突っ込んでたじゃんって?あれは子供同士の戦いじゃんっ!!俺っ、中身平凡な家庭で育ったサラリーマンだから!前世だけどもっ!!!!
飛んでくる拳。固まる俺。激情するレッドホットチキンが目に入って、俺は目の前に迫り来る拳に覚悟を決めてぎゅ、と目を瞑った。くっそぉ、俺ほんとに全然ツいてないなぁ!?
しかしその直後、パシ、という音が耳に届く。備えてた衝撃はいつまで経っても来なくて、思わずえ?と言ってしまった。
恐る恐る目を開けると、そこには。
「──おい、こいつに何しやがる」
見たことないほど怒気を孕んだ彗先輩が、レッドホットチキンヤンキーの手首を掴んで立っていた。
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