63 / 96
8
しおりを挟む先輩に続いてエレベーターから降りて外に出る。エレベーターで一緒になった人にめっちゃ驚いた目で見られたのは、俺が先輩を案内係にしてるって勘違いされたからかな……今もすっげぇ他の人に見られてるし。うわ、俺初日からとんでもなく生意気なやつだと思われたかも…先輩に申し訳ねぇ…先輩優しいから俺を案内してるだけなのに。
罪悪感からちょっと縮こまって彗先輩の隣を歩くが、当の先輩は視線なんてどこ吹く風と言った風情で全く気にしてないみたい。それどころか、変な方向に行こうとする俺の首根っこを掴んで向き変えてくれる始末。さすがクールビューティー、さすが俺の二推し。もちろんめっちゃ優しい力で俺を小突くことも忘れない。てぇてぇ。
しっかし、やっぱり目立つのか俺への視線がすごい。うっ、なんだあのちょっと顔良いモブは?とか思われてんだろうな。彗先輩の隣に並んでたら俺なんかへのへのもへじみたいな顔にしか見えないんだろうし…。
うわ、めっちゃヒソヒソされてる。
「ちょっあれ誰!?『氷の王子様』が誰かと一緒に登校するなんて今までなかったのに!!!」
「あっ、手掴んで先導してる!!あの氷室様が他の人の頭を優しく小突いてらっしゃる!!」
「小突かれて笑ってるあの子、めっちゃ可愛い…笑顔やば…」
「しかも見ろよ!あの氷王子、一見いつもの氷のような仏頂面に見えるけどよく見たらいつもより目尻が1.5ミリ下がってるぞ!しかも心なしか雰囲気も柔らかい!」
「氷王子じゃない、氷室様だ馬鹿!しかも1.5ミリではない、1.84ミリだ!つ、ついに氷室様にも雪解けが…今まで栗原様以外誰一人として接触せず、極度に人を嫌っていた氷室様が…」
「影から見守っていた甲斐がありましたね、隊長!でもあのお方は一体どなたなんだろう…外部から来た一年生っぽいですけど」
「ああ、美人であらせられるが、かっこよさも備えてらっしゃる。そして笑った時の涙袋が最高に可愛らしい!!一体どなたかは存じ上げないが、氷室様が気にかけていらっしゃるのだ、きっと素晴らしい方に違いない。これはぜひ調べねば…」
「僕今日からあの方と氷室様を推します!!」
「すぐに新聞に書かなければ!これはデカいスクープになるぞぉ!」
周りがザワザワしすぎて一人一人の言葉まで聞こえないけど、ところどころスクープとか、あれ誰とかが頻繁に聞こえる。なんか親衛隊っぽい人もいるしめちゃくちゃ怖いんだが?俺報復とかされないよね?この身の程知らずのクソモブが!とか言われて放課後校舎裏に来いみたいな……初日からそれは終わった…。
とほほ……と肩を落としていると、彗先輩が不機嫌そうに顔を顰めているのが目に入った。チッ、という舌打ち付き。
ひえっ。
「せ、先輩……あの、お、怒って、ます、よね?」
恐る恐る先輩の顔色を伺う。そうだよな、先輩は厚意で俺を案内してるだけなのにこんな注目されてるし…しかも先輩人嫌いだし。
先輩がフー、とため息を吐くのが聞こえた。そして、少し不貞腐れたような表情で首筋に手をやる。
「………………怒ってねぇよ、お前には。ただ、お前は俺以外の前では笑うな」
「……ぇ、それってどういう、あてっ!」
眉根を寄せて不機嫌そうな顔でまたコツンっ、と小突かれる。
俺には怒ってないって…え、ちょ、特大のデレ過ぎて処理できないんだけど。俺にそれだけ好感度あるってことで良い???都合よく解釈しちゃうよ俺。
「……お前はずっとそのアホヅラ貼り付けとけ」
「いや急になんでそんな満足そうにするんですか!?」
しかもサラッとディスるし、もしかして先輩は俺のこと揶揄ってます?やだ先輩の小悪魔っ!!
「お前変なこと考えてんだろ……お前は1Sだから3階だ。俺は寄るとこがあるからこっからは一人で行け。流石にもう迷子にはなんねぇだろ」
校舎に入って階段の前まで到着したところで、彗先輩がくるりと身を翻した。俺はお礼を言って彗先輩と別れた。
「マジでありがとうございました!!めちゃ助かりました!
先輩大好き!」
「ばっ、お前ふざけんな!デケェ声でんな小っ恥ずかしいこと言ってんじゃねぇ!!」
ちょっとイタズラ心で叫んだら先輩がすごい顔して怒鳴り返してきて思わず笑ってしまう。先輩ってやっぱツンデレだよなぁ、可愛い。本当に尊いぜ。
一人で笑いながら階段を上がる。一人になったのに何故か視線を感じるな…まぁ、段々減るか!どうせ俺なんかちょっと顔いいだけのモブだし。
3階に着いたのでちらりと見上げると確かにすぐに1-Sと書かれた教室が見えた。でもこれ先輩いなかったらきっとこのクソ広い校舎で迷ってただろうな。3回くらい先輩に方向正されたもん。
扉は案外普通の高校と大差ない作りだけど、黒縁に白というちょっとおしゃれな配色。引き戸だ。手をかけると、軽い力でスッと静かに開いた。
教室にはもうちらほら人がいて、その人達が一斉にこっちを見るもんだからちょっとビクッとしてしまった。お、おお、みんな来るの早いな。
黒板に貼ってある紙を見て、おずおずと自分の席に座る。隣、前後はまだ来てないみたいで、俺の周辺には誰もいなかった。う、おしゃべりできない…ついてねー!
仕方ない、近くに誰か来るまで気長に待つか……。
126
お気に入りに追加
388
あなたにおすすめの小説
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~
いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。
※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します!
※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる