俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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 いや舌打ちだけで済ますならまぁ俺も別に気分良くはないけどスルーしようと思ってたよ?精神年齢は俺の方が上だし?田舎野郎もまぁ、実際田舎民みたいな反応してたから我慢できるし。俺にもそれくらいの懐の広さはあるわけで。




 でも聞いたか?こいつさっき俺のことチビっつったんだよ!!






「……ふざけんな、俺は別にチビじゃない!!訂正しろよ」


 


 身長172センチのこの俺がチビなわけないだろうが!!!!170超えぞ!?そりゃあまぁ目視で180あるてめぇと比べりゃ俺は小さく見えるのかもしれないが、それでも俺は絶対にチビじゃねぇし、大体なんで初対面でチビ扱いされなきゃなんねーわけ!?



 本来なら胸ぐら掴んでやりたいくらいだったが、俺はそれらの怒りをなんとか飲み込んで静かに唸った。向こうもガン飛ばしてくる。




 

「ああん?するわけねぇだろが!この俺に一丁前に口答えすんじゃねぇぞ!!」





 なんだこのクレーム客の定番みたいなクソガキは。この世の森羅万象を詰め込んで生まれた奇跡の子で天使である俺の弟を見習え??
てか、ポッケに手入れたまま喋んな!!不良のテンプレみたいな格好が逆にイタくて目に毒なんだわ!







「そっちこそ、レッドホットチキン色の頭のくせに一丁前に俺のことチビとか言ってんじゃねえ!!!」



「…レッ!?」




「ブフッ!!」







 ふ、だが残念だったな、俺は前世で最恐の姉を持っていた男だから口喧嘩に関してはそこらの奴には負けねぇんだよ!!



 
 よしよしショック受けてる。流石にレッドホットチキンはショックだったっぽいなふはは!ざまぁみろ、人のこと馬鹿にするからいけないんだ!



 


 てか今誰か近くで吹き出しただろ。聞こえてるからな。



 赤髪ヤンキーはよほどショックだったのか微動だにしないまま魂が抜けていた。俺よりも豆腐メンタルである。




 …流石にちょっとやりすぎたかな?いやでもチビ扱いされたんだからこれくらいは俺にも許されて良い気がする。うん。




 突然の侮辱(笑)を受けて呆然とする不良を微妙な気持ちで見つめる。すると、放送がかかり新入生は座るようにと促された。俺は意気揚々と椅子に背筋を伸ばして座る。ツンツン野郎も我に返ったのか、めちゃくちゃこっちを睨みながら隣にどかっと腰掛けた。そんなに嫌ならもっと早く来て俺の隣以外の席に座ればよかったのに。


 けっ、と思いながら座っていると式が始まった。最初はやっぱり、学園長の式辞。こういうのは長くて退屈なのが定番だよなぁ。あくび出たらどうしよ。
 ところがなんと学園長は姿を現すことなく、式辞は秘書さんだという男の人の代弁だった。しかも全く長くなくて、規律を守って有意義な学園生活を送ってください、皆さんの活躍を楽しみにしています、という二文だけの言葉だった。え、学園長が入学式こないとかあるんだ……この学校変わってるなぁ。

 秘書さんがす、と音もなく礼をして、俺達新入生も立って礼をした。壇上から静かに、けれど気品溢れる姿で秘書さんが去ると、急に体育館は水を打ったように静まった。




 ん?なんで急にこんな沈黙なの?めっちゃ怖ぇんだけど……。




 動揺しつつも、一人だけキョロキョロするわけにもいかなくて心の中で怯えながら椅子に縮こまる。すると、隣でハッと鼻で笑う音が。今こいつ絶対馬鹿にしたよな俺のこと。レッドホットチキンのくせに!

 これは一言物申さないと気が済まないので、俺はギン、と赤髪ツンツン野郎を睨もうと隣を向こうとした。





 
 ちょうど、その瞬間。


 



_____生徒会長、挨拶。




 司会の声が厳かに俺の動きに重なり、お、と一瞬動きが止まる。壇上に上がったのは制服を着こなし臆することなく堂々と歩く男子生徒。彼はマイクを片手に持つとふんわりと陽だまりのように微笑んだ。






「「「キャァアアアアア!!!!!」」」






 その刹那、怒号のような、地響きに近い大歓声が溢れた。俺はあまりに突然のことにびっくりして軽く椅子から飛び上がりそうになる。てか実際に数センチくらい椅子から浮いたかもしれない。





 え、待って待って何これ何事!?国民的人気アイドルの登場みたいになってますけど!?あと黄色い歓声の中に野太い男の「うぉおおおおおお!!」みたいなん混じってるのなんなの?なんか脳みそバグりそうなので切実にやめてください……。





 ところが、歓声は思ったよりすぐに止んで、またさっきの嘘みたいな静寂が下りる。どうやら生徒会長はそれを待っていたらしく、柔和な笑みを浮かべたまま口を開いた。
 





 


「初めまして、新入生の皆さん」




 





 優しそうな二重に色白の肌。どこか安心感を抱いてしまうような美形だ。一瞬で静まり返った新入生達は恍惚の表情で生徒会長の方を向いて、一言たりとも聞き逃さない、みたいな様相で座っている。



 なるほど、これが『破滅』が始まる一年前の生徒会長なのか。俺が知ってるのはこの後の代の生徒会長ということになるので、この人が原作にいないのも納得だ。



 


「僕はこの学園の生徒会長を務めている一ノ瀬いちのせ伊吹いぶきです。何か要望があればどうぞ、生徒会室まで。新入生の皆さん、これから3年間、全力で楽しみたくさんの経験を積んで下さい」






 以上です、生徒会長一ノ瀬伊吹でした、とまったりと彼が言い終えると、またうぉおおおおだかキャァアアアアだかが拍手と共に体育館内で爆発した。中には感動で咽び泣いたり気絶寸前のやつもいる。え、と、今の泣く要素あった……?いやまぁ確かに短いし分かりやすくて嬉しかったけども。



 ああでもそういえば、確か王道学園って生徒会がめっちゃ権力あって生徒は生徒会を崇拝してる的な感じなんだった。『破滅の一途』も王道学園をもとにしてるからこんなに歓声も多いしみんなの反応が大きいんだろうな。俺が颯斗を推すみたいな感じ?それならちょっと共感できるかも。




…でも毎回生徒会とかが登場する度にこんな叫んでたら声帯死にそうじゃね?2日くらいで喉ガッスガスなるでしょ絶対。
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