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「うわでっか……」
後ろ髪を思いっきり引かれながらも家を出て、駅前から出ている学園行きのバスに揺られること4時間。
あれよあれよという間に見渡す限り木、木、木!みたいな山奥に入るバスに、ちょっと慄いているとそれは俺の困惑を嘲笑うかのようにズドンと現れた。
見渡す限り森です、というような都会のとの字も見つからないような環境の中、堂々と聳え立つ鉄の門。上には中世ヨーロッパの城でしか見たことないほど鋭く尖ったかえしがついていて、それでいてありえないくらいデカい。黒塗りにされてるのがオシャレではあるが、それはそれとして普通に怖い。あれに刺さったらどうなるんだろう、ひょえっ。
王道学園というと、モジャモジャ頭に変装した美少年が柵越えて生徒会役員(大体副会長)とチュ、こんにちは♡するのが定番らしいけど、いやこれいくら身体能力高くても無理だろ。奇跡的に登れたとしてもあのかえしに靴ブッ刺さりそうだぞ。まぁ、『破滅の一途』には王道転校生は出ないし、幽谷学園も別に王道学園の設定を基にしてるってファンの間で言われてるだけだから門がどんなのでも関係ないんだけどさ。
気を取り直して再び観察。その大層な鉄の門の奥には、門の西洋の感じとは全く違う近未来的な建物が聳え立っている。灰色のシックな建物にたくさん窓がついていてさながら何かの会社みたい。都心にこういうオフィスありそう。一体何階建てだろうだろうと上の方を見上げる。建物は全部で7つくらいはありそうで、敷地内もテーマパークか?ってくらい広い。事実、バスは自動で開いた門をくぐり抜けてちょっと走って建物の前に停まったから、少なくとも門から学園への距離は結構あるっぽい。おんなじ敷地内なのにね。
さ、さすが私立……金持ちの匂いがそこら中から溢れてる…。
他の人も俺と同じように学園の最先端ぶりに驚いているらしくざわざわしている。なお、バスは学園専属なので俺以外の乗客はみんな幽谷学園の新一年生であろうことが分かっている。しかも当然だが全員俺と同じように外部生っていうね。部活で外部勧誘も盛んとはいえ、幽谷学園は8割の生徒が初等部からの内部生である。つまり俺達外部生は大変マイノリティな存在と。
うん、俺は外部生同士で友達作りたいかな!!!!
だって内部生とか絶対にもう小中高と一緒になって誰かしら友達いるじゃん!!二人組とかグループ出来ちゃってるやつじゃん!!俺入る隙ないやつじゃん!!!
ただでさえ精神年齢だけは歳食ってて日々ジェネレーションギャップとかに怯えてるのになんで内部生の間に割って入って精神削らなきゃなんねーんだ!!俺は絶対に外部生とお友達になってやるからな!!!
密かに心の中で決意をしてバスを降りる。よいしょ、っと。ずっと座ってたから凝りそう。
降りるとすぐに、上級生と思われる生徒がメガホン片手に声を張り上げているのが見えた。
「新入生の皆さんはこちらでーす!」
うわ、可愛い。
一瞬、女の子かな?と思うようなパッチリお目目で小柄な先輩がどうぞ!と校内地図を手渡してくれた。庇護欲をそそるってこういう人のこと言うんだろうな。これはあれだ、前世で姉貴がハスハス言いながら見てたチワワ男子ってやつだな。王道学園には多いんだったけ。
「入学式が行われる第一体育館は本館のすぐ隣にあるコンクリートの建物です!」
ふわ、と可愛らしい笑みで言われたので俺も地図を受け取って笑い返した。
「ありがとうございます!」
「はぇっ!あ、いえ!」
はえ?
奇声を上げて頬を赤らめたチワワ先輩(仮)に言い間違えたのかな?なんて首を傾げながら敷地内を進む。にしても広い…第一体育館の第一って、じゃあ第二もあんのかよとか思ってたら普通に第三まであったし見えてるのに中々到着しないし。この学園で生活するだけで健康になるんじゃね?
入学式、と筆調で荘厳に書かれている看板を発見して経路案内の矢印の通りに歩くと、第一体育館の中にはすでにもうたくさんの新入生が溢れていた。黒地にパキッとした金色のラインの入った制服をどこか照れくさそうに着こなした生徒達は席に座って話していたり、立って先輩っぽい生徒と話していたり、眠そうにあくびしたりと様々だ。内部生、こなれてる感すごい。キョロキョロしてる俺含めた外部生がめっちゃ目立つ。
……にしても、髪色特徴的なやつ多いな!!!
幽谷学園は髪色の指定がないらしく、さっきから視界に入る人の髪の毛はみんな派手だ。まぁ、それもそうか、ここは小説の中の世界なんだから髪の色が黒が普通なんて常識はないんだよな。そういえば小学校も中学校もやたら特徴ある髪型のやつ多かったわ。対して俺の髪は茶髪である。うーん平凡。
シビアな世の中だなぁ、と思いながらそそくさと椅子に座る。その瞬間驚愕した。なんだろう、ふわっふわなクッションに乗ってるみたいな。うわ!何これめっちゃ柔らかいんですけど!!座り心地良すぎじゃないか!?
思わず隣の空いてる椅子を見ると、なんと作りはパイプ椅子なのに座面がふかふかのクッション付きだった。しかもモダンなくすみカラー全3色。何これ俺が知ってるパイプ椅子じゃない……生地ふわふわすぎだろ…。
ふぉおおお!と奇声上げそうになりながらパイプ椅子を手ですりすり撫でていると、不意に椅子の上に影が落ちる。
「チッ!!おいクソ邪魔だどけ茶髪野郎!」
「……ん?」
お手本みたいな舌打ちとドスの効いた声に顔を上げる。するとあらびっくり、目の前にこれまたテンプレみたいなツンツン赤髪ヤンキー君が立っているじゃありませんか!わお、めっちゃ鮮やかな赤ですね。
なんて現実逃避しているとヤンキー君は眉間に皺を深く刻み込んでこちらに凄んで来る。デカっ。わざわざ隣の席選んでくるとかなんなんだこの不良、と思いつつ、やっぱちょっと怖いので愛想笑いして手を退けた。
「あ、はは…い、いやぁ、すみませ~ん」
「あ?気色悪い笑いしながらこっち見てんじゃねぇぞクソ田舎チビ野郎!」
……………怖いとか前言撤回、タイマン勝負だわこのツンツン野郎。
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