俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

文字の大きさ
上 下
57 / 104

2

しおりを挟む




─────





 
「うわでっか……」





 後ろ髪を思いっきり引かれながらも家を出て、駅前から出ている学園行きのバスに揺られること4時間。




 あれよあれよという間に見渡す限り木、木、木!みたいな山奥に入るバスに、ちょっと慄いているとは俺の困惑を嘲笑うかのようにズドンと現れた。
 見渡す限り森です、というような都会のとの字も見つからないような環境の中、堂々と聳え立つ鉄の門。上には中世ヨーロッパの城でしか見たことないほど鋭く尖ったかえしがついていて、それでいてありえないくらいデカい。黒塗りにされてるのがオシャレではあるが、それはそれとして普通に怖い。あれに刺さったらどうなるんだろう、ひょえっ。



 王道学園というと、モジャモジャ頭に変装した美少年が柵越えて生徒会役員(大体副会長)とチュ、こんにちは♡するのが定番らしいけど、いやこれいくら身体能力高くても無理だろ。奇跡的に登れたとしてもあのかえしに靴ブッ刺さりそうだぞ。まぁ、『破滅の一途』には王道転校生は出ないし、幽谷かすや学園も別に王道学園の設定を基にしてるってファンの間で言われてるだけだから門がどんなのでも関係ないんだけどさ。


 気を取り直して再び観察。その大層な鉄の門の奥には、門の西洋の感じとは全く違う近未来的な建物が聳え立っている。灰色のシックな建物にたくさん窓がついていてさながら何かの会社みたい。都心にこういうオフィスありそう。一体何階建てだろうだろうと上の方を見上げる。建物は全部で7つくらいはありそうで、敷地内もテーマパークか?ってくらい広い。事実、バスは自動で開いた門をくぐり抜けてちょっと走って建物の前に停まったから、少なくとも門から学園への距離は結構あるっぽい。おんなじ敷地内なのにね。




 さ、さすが私立……金持ちの匂いがそこら中から溢れてる…。





 他の人も俺と同じように学園の最先端ぶりに驚いているらしくざわざわしている。なお、バスは学園専属なので俺以外の乗客はみんな幽谷学園の新一年生であろうことが分かっている。しかも当然だが全員俺と同じように外部生っていうね。部活で外部勧誘も盛んとはいえ、幽谷学園は8割の生徒が初等部からの内部生である。つまり俺達外部生は大変マイノリティな存在と。






 うん、俺は外部生同士で友達作りたいかな!!!!






 だって内部生とか絶対にもう小中高と一緒になって誰かしら友達いるじゃん!!二人組とかグループ出来ちゃってるやつじゃん!!俺入る隙ないやつじゃん!!!


 ただでさえ精神年齢だけは歳食ってて日々ジェネレーションギャップとかに怯えてるのになんで内部生の間に割って入って精神削らなきゃなんねーんだ!!俺は絶対に外部生とお友達になってやるからな!!!





 密かに心の中で決意をしてバスを降りる。よいしょ、っと。ずっと座ってたから凝りそう。



 降りるとすぐに、上級生と思われる生徒がメガホン片手に声を張り上げているのが見えた。






「新入生の皆さんはこちらでーす!」







 うわ、可愛い。






 一瞬、女の子かな?と思うようなパッチリお目目で小柄な先輩がどうぞ!と校内地図を手渡してくれた。庇護欲をそそるってこういう人のこと言うんだろうな。これはあれだ、前世で姉貴がハスハス言いながら見てたチワワ男子ってやつだな。王道学園には多いんだったけ。





「入学式が行われる第一体育館は本館のすぐ隣にあるコンクリートの建物です!」





 ふわ、と可愛らしい笑みで言われたので俺も地図を受け取って笑い返した。






「ありがとうございます!」





「はぇっ!あ、いえ!」






 はえ?


 


 奇声を上げて頬を赤らめたチワワ先輩(仮)に言い間違えたのかな?なんて首を傾げながら敷地内を進む。にしても広い…第一体育館の第一って、じゃあ第二もあんのかよとか思ってたら普通に第三まであったし見えてるのに中々到着しないし。この学園で生活するだけで健康になるんじゃね?




 入学式、と筆調で荘厳に書かれている看板を発見して経路案内の矢印の通りに歩くと、第一体育館の中にはすでにもうたくさんの新入生が溢れていた。黒地にパキッとした金色のラインの入った制服をどこか照れくさそうに着こなした生徒達は席に座って話していたり、立って先輩っぽい生徒と話していたり、眠そうにあくびしたりと様々だ。内部生、こなれてる感すごい。キョロキョロしてる俺含めた外部生がめっちゃ目立つ。






 ……にしても、髪色特徴的なやつ多いな!!!






 幽谷学園は髪色の指定がないらしく、さっきから視界に入る人の髪の毛はみんな派手だ。まぁ、それもそうか、ここは小説の中の世界なんだから髪の色が黒が普通なんて常識はないんだよな。そういえば小学校も中学校もやたら特徴ある髪型のやつ多かったわ。対して俺の髪は茶髪である。うーん平凡。



 シビアな世の中だなぁ、と思いながらそそくさと椅子に座る。その瞬間驚愕した。なんだろう、ふわっふわなクッションに乗ってるみたいな。うわ!何これめっちゃ柔らかいんですけど!!座り心地良すぎじゃないか!?


 思わず隣の空いてる椅子を見ると、なんと作りはパイプ椅子なのに座面がふかふかのクッション付きだった。しかもモダンなくすみカラー全3色。何これ俺が知ってるパイプ椅子じゃない……生地ふわふわすぎだろ…。




 ふぉおおお!と奇声上げそうになりながらパイプ椅子を手ですりすり撫でていると、不意に椅子の上に影が落ちる。






「チッ!!おいクソ邪魔だどけ茶髪野郎!」





「……ん?」






 お手本みたいな舌打ちとドスの効いた声に顔を上げる。するとあらびっくり、目の前にこれまたテンプレみたいなツンツン赤髪ヤンキー君が立っているじゃありませんか!わお、めっちゃ鮮やかな赤ですね。


 なんて現実逃避しているとヤンキー君は眉間に皺を深く刻み込んでこちらに凄んで来る。デカっ。わざわざ隣の席選んでくるとかなんなんだこの不良、と思いつつ、やっぱちょっと怖いので愛想笑いして手を退けた。







「あ、はは…い、いやぁ、すみませ~ん」






「あ?気色悪い笑いしながらこっち見てんじゃねぇぞクソ田舎チビ野郎!」









 ……………怖いとか前言撤回、タイマン勝負だわこのツンツン野郎。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

処理中です...