俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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目指すは破滅から不滅

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 あれから俺は、病院を退院して元通り学校に登校するようになった。



 颯斗と登校するとクラスのみんなに心配の表情を向けられ、それに「もうへーき」と笑って答える。運動の許可も下りたので普通に体育にも参加したし、授業も通常通り受け、俺はまた、あの事件前と同じ日々を過ごしていた。





 
 けれど。
 




 
 けれど、そこにはタッキーの姿だけがない。





 もういないと聞いてはいたはずなのに、俺はいつも、無意識にタッキーの背中を探してしまう。クラスメイトのみんなも始めは寂しそうな表情を見せていたが、数ヶ月経つと流石に記憶が風化するのか、いつもの日常を取り戻したようだった。その中でいつまでも辛気臭い顔をしているとやっぱ、みんなから心配されてしまうというもので。俺は何とか田中達や、颯斗との登校によって、笑みを浮かべ、いつも通りの態度で過ごした。


 

 きっと最後に、せめて一言、謝れたら違ったんだろうな、と、今でも思う。あの時俺がたった一言、ごめんと言えれば。引き留めていれば。





 何度も何度も考えた。最後のあの日を思い出しては、後悔して。胸が苦しくなって、泣きそうになった。



 俺のせいで。


 

 俺があの時、もっと引き留めてたら。




 俺があんなこと言ったから。


 

 もし、とたらればがずっと巡って、その度に何度も後悔して。
 
 

 でも、どれも過ぎたことで。過ぎて、しまったことで。もう、どうしようもないことだった。言っていいことと、駄目なこと。俺が言ったあの言葉は、間違いなく後者で、そして限りなく救いようのない言葉だった。自業自得の、結果。深い深い、この傷は多分、最後のチャンスであんなことを言った俺への罰なんだろうな、とぼんやり思った。心が、痛くて痛くて、仕方ない。


 



 でも、それでも、時はみんな平等に走っていくもので。







「う、ううぅっ!!要、かなめぇ、寂しいよぉおおっ!ぐす、ずび」



「こらあなた、みっともないわ……要ちゃん、気をつけて元気に過ごすのよ。それと、制服とっても似合ってるから、自信持って」





 玄関前で俺を見送ってくれた両親に俺は、少し笑って返事を返す。




「うん、ありがと。二人も、元気でね」





 あれから一年半が経過し、俺はこの春、高校生になった。







 
 気がついたら学年が上がっていて、気がついたら受験で、気がついたら卒業式。俺自身は特に大きな事件もなく、颯斗とも順調だった。タッキーとの別れが若干まだ心に引っかかってたけど、時間が経って俺も少しづつ冷静になった。





 いつでも、どれくらいかかってでもいいから、絶対タッキーに謝るんだ。許してもらえなくても、避けられてもいいから、とにかくちゃんと、謝りたい。







 そう密かに決意して、一歩ずつ前を向けている気がする。本当に、ちょっとずつだけどさ。いつまでもウジウジすんのも、違うかなって思って。








 ああ、そうだ、一つ目立ったことといえば、俺が原作の舞台である私立幽谷かすや学園を志望した時、周りがちょっとざわざわしたくらい。




 幽谷学園は今時見ないであろう全寮制男子校で、全国的に見てもかなり有名な私立の学校だ。初等部、中等部、高等部まである小中高一貫校で、難関私大と有名な幽谷学院大学は幽谷学園の兄弟校として知られている。
そんな幽谷学園には、金持ちの坊っちゃんがたくさん在籍しており、勉強はもちろん、部活でも多数の実績を誇り、進路も難関校進学もしくは家の後を継ぐというもはやおとぎ話みたいな事実が存在している。




 ……まぁ、長々話したけど実際は、一昔前に流行った王道学園そのもの。多分腐人ならすぐにぴんと来るんじゃなかろうか。正直俺はあんまり王道学園には詳しくないけど、うっすら知識として知っている。そうです俺がにわかですごめんなさい。




 原作は颯斗がこの学園からテニスの腕を買われてスポーツ推薦の話が来るところから始まって、退屈から脱するために颯斗が入学を決意するという展開になっている。


 ちなみに俺は原作ではこの学園に入学していない。『破滅』の中の成瀬要は中学卒業後はごく普通の地元の公立高校に進学してたんじゃないかな。幼馴染っていう設定の割に颯斗との接点が少ないのは多分このせい。マジで俺めっちゃ影薄いなぁ。薄いのに最初に殺されるの謎すぎる。ひどいぜ神様(作者様)……。



 だが今回の俺は違う。なんせ前世の記憶持ちだからな!!進学先で別れてその間に颯斗闇落ち、なんてクソみたいな展開にはさせない。颯斗を健全な人間に育てるために颯斗より一年早く入学して颯斗と真澄をうまくくっつけてみせる!!そしてあわよくばそのいちゃいちゃを俺に見せてください推しカプなんですお願いします。








 そんな私怨丸出し、欲塗れな考えで俺は幽谷学園を志望した。







 正直私立だから両親に反対されるかなって身構えてたんだけど、二人は全く反対しなかった。まぁ、全寮制ってところに残念そうな顔してたけどね。でも、夏休みや冬休みには帰れるからって説明したら、頷いてくれた。




 そこからはもう必死に勉強して、ありとあらゆる知識を詰め込んだ。こんなに勉強したの多分初めて。やっぱ推しの力って、なんかこうすごいね(語彙力皆無)。





 受験後は結構すぐに合否発表があって、通知が家に来た時は目を疑った。いや、合格はしてたんだけどさ、なぜか俺はSクラスに配属されてた。あ、Sクラスってのは一番上のクラスで、名家の金持ちと成績上位者しかいないようなガチのエリートクラスのことね。モブがこんなところに在籍していいんかな……。




 

 まぁでも受かったんならいっか!家族も喜んでるし。





 ん?棗は大丈夫なのかって?






 あー……棗も最初は、俺が視界に入らないのが不安で仕方なくて夜も眠れなくなるからやだってめちゃくちゃに反対してたんだけど、俺が週一回は絶対テレビ通話するって言ったら許してくれたよ。俺が言えたことでは決してないけど、我が弟ながら中々のブラコン…いや、でも棗は俺が入院してから結構過激になってきたから、多分純粋に兄である俺が心配なだけなんだろう。それに小5になった棗は最近ちょっと大人びてきたような気もするし。颯斗とは違う家族としての過保護だな。
 余談だけど俺は最初棗に月1で通話するって言ってたんだけど、気がついたら週一回通話するから約束になってた。おい、誰だ今チョロいとか言った奴。その通りだけど!











 閑話休題。





 とにかく俺は今日、成瀬家を出て待望の幽谷学園に向かう。これから3年間、俺は幽谷学園で過ごすことになり、多分この家には夏と冬くらいにしか帰らない。ファミコンに世知辛い世の中である。





「……要兄、絶対、絶対に電話して。おれ、ずっとずっと電話の前で待ってるから」



「お、おお。電話は約束するけど、電話の前では待たなくていいからな」





 早朝にも関わらず、俺の出発に合わせて起きてパジャマ姿で外に出た棗が俺をぎゅう、と抱きしめながらそう言った。多分それだけ電話期待してるっていう比喩だと思うけど、ちょっと目がマジだったので一応釘を刺しておいた。そんなメンヘラみたいなことはしないでくれ、体に悪そうだし。冷えたらどうすんだ。


 忠告が聞いたかは知らないが、棗は俺の言葉にこくんと頷くと体を離して俺の目を不安そうに見つめた。




「……元気でね。帰ったらおれのサッカーの試合見に来て。要兄が帰ってくるまでにもっと上手くなって、絶対試合で要兄のためにゴール入れるから」



「うん、ありがとな。帰ったら絶対一番に見に行く。だから棗もちゃんと早寝早起きして、体調管理するんだぞ」




「……うん。大好き、要兄」





 くしゃっと頭を撫でると、棗がとろけるような笑みを浮かべる。俺はそれを見て、こうやって棗の頭を撫でるのもしばらくお預けかぁ、なんて辛いことを考えてしまった。うっ、辛い。寂しすぎて辛い。




 俺も大好き、と返して、名残惜しくも離れる。すると、今度は別の声が俺の耳に届いた。






「要、」



「颯斗!!」



 声がした方を見ると、まだ朝早いのにすでに中学の制服に着替えた颯斗が立っていた。颯斗ももう中3ということで、身長も伸びてますます美形の輝きが増している。というか、背は既に越されましたちくしょう!かっこよすぎて目が潰れそうな今日のこの頃。



 颯斗は最初、俺の進路希望を聞いてちょっと複雑そうな顔をした。もしかすると俺が落ちるんじゃないかと思ってたのかもしれない。本当に幽谷にするの?って聞いてきたし。






「…要、元気でね。僕もすぐに追いかけるよ」






 それでも俺が幽谷にすると言い張ると、颯斗はすぐに、じゃあ僕も幽谷を受験するよ、と笑った。要は先に行って待ってて。俺はその言葉に思わず笑って、うん、と頷いた。颯斗なら絶対、原作通りに入学できるはずだから心配はしていないし、もとより俺は颯斗のために入学する。でも実際は一方的ではなくて、俺は颯斗のために、颯斗は俺のために頑張る。それがなんだか、親友っぽくて嬉しい。




 でもそうか……もう一年は颯斗とも会うの難しいんだなぁ。最推しからの供給がめちゃくちゃ減るのはオタクとしては死活問題だ。あと普通に、親友としても辛い…。







 って、いやいや!!これから新学期ってのにこんなジメジメした顔してられない。ここは笑って、みんなを安心させなきゃ。







 気を取り直して、すう、と、一息。小さく息を吸う。俺は四人の方をもう一度笑顔で、振り返った。








 みんなの顔を見て、よし!






 
それじゃあ、








「行ってきます!!!」












 どんと来い、2回目の高校生活!!!!!
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