俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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 秋が去って、冬が来た。










 

 朝起きて窓の外を見たら、雪が降っていた。外の窓枠に少し積もっている。吐いた息が染まる。




 道路にうっすら乗っかる白い雪。結露した窓。





 すぐに、今日が『あの日』だと分かった。






「うー……さむっ」






 ベッドから腕だけ出して、電気ヒーターのスイッチを押す。その間に二度寝しそうなのを堪えて温度を上げると、お腹あたりの温かい塊がもぞもぞと動いて服を引っ張られた。小さく呻き声が上がる。








「んん……かなめにぃ?」







 ひょこ、と頭だけ出した俺の愛しの弟の棗が眠たそうな顔で俺を見上げた。うっわ可愛い、さすが俺の弟永遠の世界一。デレデレの緩み切った顔を晒しそうになるのをなんとか制御して、俺は棗の頭を優しく撫でた。




「おはよ、棗」



「うん…おはよ…さむい…」





 ぐりぐりと俺の腹に頭を押し付けながら二度寝しようとする棗に苦笑する。もう一回手を伸ばすと、ヒーターはすでに温まっていた。むにゃむにゃしながら棗が二度寝の体勢に入る。





「うー…かなめにぃ……」




「なーつめ、学校行かなくちゃだから。ほら、起きろー?」





 優しく呼びかけて揺すってみる。棗はうとうとしながらも、俺の腹に抱きついたままなんとか身を起こした。ほら、飯食って着替えな、と体を離し、俺はクローゼットからシャツを取る。
 
 俺は先に着替えてから朝食を食べるのが習慣なんだ。なんかこの方が目が覚めるっていうか、気分がパリッとするような気がする。ルーティンみたいな感じかな。

 寒いのでブレザーの下にセーターを着てから一階に降りた。





「おはよう要ちゃん」



「おはよう、要」



「うん、おはよう二人とも」





 母さんと父さんに挨拶しながら見ると、棗はもうすでに席に座って朝食を食べていた。まだ若干眠そうに目を瞬いている。






 あ、寝癖。





 ぴょこ、と亜麻色の髪が一房、元気に棗の頭でこんにちはしていて俺は手を伸ばしてそれを押さえた。そっと手を離すと寝癖は勢いを無くしてへた、となっており、エンジェルが不思議そうにこちらを仰ぎ見る。やば、このアングルの棗ぐうかわ。知ってたけど。





「寝癖ついてたよ、棗」



「ほんと?えへへ、ありがと要兄!!!」






 にへら、と口の周りにジャムをつけてはにかむ棗の口元を拭きながら頭を撫でる。なんだろう、こういうのが母性本能をくすぐるんだよな。無邪気で可愛い。俺の弟が世界一、いや宇宙一可愛い。



 バタートーストを咀嚼しながら棗を愛で、しっかり目から充電。今のうちに目に焼き付けておこう。











 今日は、俺にとって大きな正念場だから。













 そっと拳を握る。テレビで流れているニュースが、今年初の積雪が確認された、と知らせた。













 いよいよ、今日は。







 原作で颯斗がサイコパスになるきっかけを作った、あの日だ。









 今日の放課後、颯斗は帰り道に公園で猫の死体に出会して、サディストサイコパスと化してしまう。


 計画は立てた。つまり、簡単に言えば、元凶となる公園に颯斗を行かせなければ良いってことだと思う。そのために俺は、今日一日颯斗と行動し続けて、帰りは寄り道なんてせずに、公園を避けて帰れば、いける。



 いわば、ここが俺の、分岐点。もし颯斗が原作通りのサイコパスになってしまったら、もう俺には後がない、と考えた方がいい。この先の展開がどうなっても、俺にはいつも死亡フラグが立つ。それが妥当。








「……要兄?」









 真顔で考え込む俺に疑念を抱いたのか、棗が心配そうな顔を浮かべてこちらを見上げていた。










 大丈夫。







 大丈夫だ。







 きっとうまくやってみせる。








 震える心を叱咤して、棗に笑って言った。







「兄ちゃん、頑張るよ」





「…?、何を頑張るの?」





「色々。今日、頑張んなきゃいけないことがたくさんあるんだ」







 俺の奇妙な言葉に棗は少し首を傾げた。けれど、すぐに太陽のように笑って、







「じゃあ、おれ兄ちゃんを応援してる!!!!」







 と大きな声で言った。






 はは、じゃあ、絶対頑張んないとだ。






 ありがとな、と笑って、くしゃりと頭を撫でてやる。嬉しそうに棗は頬を緩めてぎゅっとしてきた。大きく息を吸った。
















 目指すは全員ハッピーエンドだ!!!!
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