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しおりを挟む「はよ。朝から疲れてんな、カッキー?」
結局棗を見送った後颯斗とも別れて教室に入ると、いつも通り一番にタッキーが話しかけてきた。俺はカバンを机の横に掛けながら答える。
「おー、はよ。いや、疲れたっていうか……弟が兄離れしそうで怖い」
「あーはいはい、そんなことか」
「おまっ、そんなことって……俺にとっては地球が滅びることと同じくらい重要なことだわ」
特大ため息を吐いて机に伏せる。重症だな、じゃねぇよ……いつか棗に、
「要兄しつこい、嫌い。触んな」
とか言われた日にはショックで死ぬかもしれない。いや待て、そうじゃなくて、
「おれ、颯斗にーちゃん大好き!!!颯斗にーちゃんみたいな兄ちゃんが欲しかったー」
とか言われるんじゃ……うう、そうだよな、颯斗の方がかっこいいし優しいもんな…。
「え、ガチ凹み?泣いてんの?」
「マジで泣いちゃう5秒前」
「めんどくさいな」
「おい」
バッ、と体を起こしてタッキーを小突こうとすると色素が薄めの綺麗な瞳と目が合い、くしゃりと笑われた。
「ははっ、不細工な顔」
ぎゅむ、と眉間の皺を押される。やめやい。
しかしもうこの距離感にも慣れた今日のこの頃。タッキーに対しては並み大抵の言動では俺は驚かねぇかんな!!
……あれ、これってもしかして俺も距離感麻痺してる??
「んっ?」
なんて首を傾げていたら、タッキーがグイ、と俺の顎を指で掬った。そう、みんな大好き顎クイである。
色素の薄い瞳が目の前に見えた。
「弟なんかじゃなくてさ、俺にしとけよ要」
怪しげにタッキーが目を細めると、途端に背後に居た女子達が歓声を上げた。それはもう、お手本みたいな黄色い悲鳴だったさ。女子同士、バシバシとお互いを叩きながら、目をハートにしてきゃーきゃー。もちろん視線の先には俺達。
「見て見てまたやってるあの二人!!」
「鈴木の猛アタックまじで美味しい…」
「毎日毎日すごいよね、眼福だわぁ」
「あの二人のせいで腐に目覚めちゃったんだけどどうしてくれるの?」
「それな、まさか三次元で推しができるとは…」
わぁーモテ期かなー嬉しいなー…ではない!!!
馴染みのある薔薇トークでやっと俺は我に返って、即座にタッキーにチョップした。
「離せ馬鹿!!」
「いてっ」
「お、お前、マジふざけんなよ……」
怒りでブルブルと震える拳を握り締める。あまりの屈辱に体も震える。
こいつ、こいつ、許さない……
「俺の弟を『なんか』とはどういう了見だこら!!!!」
「そっちかよ」
半眼でツッコむタッキー。何故かクラスメイトまでも俺を残念な目で見るが、俺は完全にスルーしてタッキーに肘鉄を繰り出した。そして毎回のことながら失敗。
「チッ、避けてんじゃねぇよ」
「急に口悪いなカッキー。悪かったって、冗談だよ」
「誠意が感じられないなぁ?おら、リピートアフターミー、成瀬棗は神様です」
「変な宗教に俺を勧誘するなよ」
呆れたようにタッキーが言う。仕方ないので、今度勉強教えてもらう約束で許してあげた。俺は優しいからな!!!
みんながため息を吐く。いやいや、なんで俺こんな残念な人見る目で見られてんの?残念な目で見られるべきはタッキーでしょどう見ても。
様子を見ていたらしい近くの田中が、ポツリと呟いた。
「やっぱ、残念なのが成瀬なんだよなぁ……」
クラスのみんなの反応は何一つ解せなかったけど、一つだけ分かったことがある。
とりあえず俺は後で田中を処せば良いということね???(黒い笑み)
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