39 / 100
3
しおりを挟む翌日から俺は、今までよりも一層颯斗にベッタリつくことにした。来たる初雪の日に備えて。
……けど、俺からくっつく必要はなかったかもしれない。
というのも、俺が昨日倒れたっていうことがどこからか漏れたらしくて、颯斗がめちゃくちゃ怖い笑顔で俺の側から離れないのである。
「要、昨日倒れたって本当?大丈夫?」
「んお、へーきへーき!なんか立ち眩みみたいな感じだし」
HAHAHA★と笑って流すつもりが、颯斗は首を振って厳しい口調で言った。
「だめ。立ち眩みは大きな病気の初期症状にも挙げられるんだから、ちゃんと診察を受けないと」
「はわわ、受けたよ受けた!!ちゃんと病院で貧血だって言われたから!!脳卒中とかじゃないから!!!」
「薬は?もらったの?」
「いちお、もらったけど……」
「飲まなくても別に、とか思ってるなら今すぐその考えは捨ててね」
よ、読まれた!?
「要は分かりやすすぎ。いい?薬はちゃんと飲むこと」
「……ハイ」
勝者颯斗!!敗者俺!!
完敗である。
颯斗のこれはもう過保護とかではなくて、もはやお母さんという感じなのだが。推しはお母さん属性を持っていた……いや待て分かったぞ、これはつまりスーパーダーリン、つまりスパダリの属性を持っているということなのでは?なるほど美味い。美味すぎる設定だぞ神様。
ちなみに、昨日倒れたという連絡は当然家族にも報告され、家族みんなをめちゃくちゃ心配させてしまった。ファミコンの俺の心には効果はバツグンである。くっ、放課後でさえなければ保健室の先生がいて普通に貧血かなぁとか言われてただろうに……大事になったのが悲しい。
というかまぁ、あれは別に貧血でもなんでもなくて、記憶思い出したショックで倒れたというか……ちょっと衝撃的すぎてくらっと来ただけなんだけどさ。
そうすると間接的に颯斗のせいってことになるからやめておく。うん、俺の自滅。
「……ところで、今日も棗君がいるんだね」
俺が一人でうんうんと頷いていたら、颯斗が不意に笑顔を浮かべて俺の傍らに目を向けた。
「……だったら、何」
棗が普段だったらありえないくらい低いテンションで颯斗を見上げる。めっちゃふてぶてしいし、なんかトゲトゲしている。それでも可愛いけども。
そう。
俺が修学旅行から帰ってきてからというもの、棗は俺との約束をしっかりと覚えていて、俺と棗は毎朝一緒に登校している。
しかし俺は以前は大体颯斗と学校に行っていたため、必然的に颯斗と棗の二人と登校することになっているのだが……いかんせん、この二人は折り合いが悪い。
あ、いや違うな。棗が一方的に颯斗に牙剥き出してて、颯斗はニコニコしながらそれを見てるだけだから。棗はめっちゃ真面目に威嚇してるんだけど、颯斗はそれを小型犬が吠えてるなくらいにしか思ってない気がする。
敵意丸出しの棗に対して颯斗は、くすり、と優しく笑って答えた。
「ただの感想。居たら悪いとかじゃないよ」
「……あっそ」
「ただ…小学生だったら、同じ小学生のお友達と一緒に学校行くんじゃないかなぁ、と思ってね」
緩やかに目を細めた颯斗の言葉に、棗が顔に怒りを滲ませる。きっ、と颯斗を睨んだ。
「要兄、おれこの人キライ」
ぎゅっ、と俺の制服の袖を握って棗が頬を膨らませる。あらら、どストレート。慣れている颯斗は苦笑するのみ。
「棗ー、別に一緒に登校しなくてもいいんだぞ?」
「やだ!要兄はおれと一緒に登校するって約束したもんっ!この人と二人きりにするくらいならおれが要兄についていく!!」
もうずっとこんな感じである。棗って野良猫みたいに初見の人には大体懐かないんだよね。昔からそうだったけど、未だにそれは変わってないっぽい。まぁ、兄としてはそこが可愛いんだけどね!!!!俺だけにべったりっていう優越感感じる。
だから、ダメだと思いつつも結局、そっかそっかぁ、と毎回穏やかな顔をして棗をなでなでしてしまうのだが、そうすると颯斗が決まって溜め息を吐くんだよ。ジトり、とこちらに黒い瞳が向けられる。
「……これは要にも原因があるんじゃないかな」
要するに、甘やかしすぎ、ということらしい。
颯斗にブラコン具合を指摘されるって相当だなってこの時自覚した。返す言葉もございません……。
94
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる