俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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 翌日から俺は、今までよりも一層颯斗にベッタリつくことにした。来たる初雪の日に備えて。



 


 ……けど、俺からくっつく必要はなかったかもしれない。



 
というのも、俺が昨日倒れたっていうことがどこからか漏れたらしくて、颯斗がめちゃくちゃ怖い笑顔で俺の側から離れないのである。




「要、昨日倒れたって本当?大丈夫?」



「んお、へーきへーき!なんか立ち眩みみたいな感じだし」





 
HAHAHA★と笑って流すつもりが、颯斗は首を振って厳しい口調で言った。




「だめ。立ち眩みは大きな病気の初期症状にも挙げられるんだから、ちゃんと診察を受けないと」


「はわわ、受けたよ受けた!!ちゃんと病院で貧血だって言われたから!!脳卒中とかじゃないから!!!」


「薬は?もらったの?」


「いちお、もらったけど……」


「飲まなくても別に、とか思ってるなら今すぐその考えは捨ててね」



 

よ、読まれた!?


 


「要は分かりやすすぎ。いい?薬はちゃんと飲むこと」



「……ハイ」



 

勝者颯斗!!敗者俺!!


 

 完敗である。

 颯斗のこれはもう過保護とかではなくて、もはやお母さんという感じなのだが。推しはお母さん属性を持っていた……いや待て分かったぞ、これはつまりスーパーダーリン、つまりスパダリの属性を持っているということなのでは?なるほど美味い。美味すぎる設定だぞ神様。


 ちなみに、昨日倒れたという連絡は当然家族にも報告され、家族みんなをめちゃくちゃ心配させてしまった。ファミコンの俺の心には効果はバツグンである。くっ、放課後でさえなければ保健室の先生がいて普通に貧血かなぁとか言われてただろうに……大事になったのが悲しい。



 というかまぁ、あれは別に貧血でもなんでもなくて、記憶思い出したショックで倒れたというか……ちょっと衝撃的すぎてくらっと来ただけなんだけどさ。



 そうすると間接的に颯斗のせいってことになるからやめておく。うん、俺の自滅。






「……ところで、棗君がいるんだね」







 俺が一人でうんうんと頷いていたら、颯斗が不意に笑顔を浮かべて俺の傍らに目を向けた。




「……だったら、何」






 棗が普段だったらありえないくらい低いテンションで颯斗を見上げる。めっちゃふてぶてしいし、なんかトゲトゲしている。それでも可愛いけども。




 そう。




 俺が修学旅行から帰ってきてからというもの、棗は俺との約束をしっかりと覚えていて、俺と棗は毎朝一緒に登校している。



 しかし俺は以前は大体颯斗と学校に行っていたため、必然的に颯斗と棗の二人と登校することになっているのだが……いかんせん、この二人は折り合いが悪い。


 あ、いや違うな。棗が一方的に颯斗に牙剥き出してて、颯斗はニコニコしながらそれを見てるだけだから。棗はめっちゃ真面目に威嚇してるんだけど、颯斗はそれを小型犬が吠えてるなくらいにしか思ってない気がする。


 
 敵意丸出しの棗に対して颯斗は、くすり、と優しく笑って答えた。



 

「ただの感想。居たら悪いとかじゃないよ」



「……あっそ」



「ただ…小学生だったら、同じ小学生のお友達と一緒に学校行くんじゃないかなぁ、と思ってね」




 緩やかに目を細めた颯斗の言葉に、棗が顔に怒りを滲ませる。きっ、と颯斗を睨んだ。


 


「要兄、おれこの人キライ」





 ぎゅっ、と俺の制服の袖を握って棗が頬を膨らませる。あらら、どストレート。慣れている颯斗は苦笑するのみ。




「棗ー、別に一緒に登校しなくてもいいんだぞ?」



「やだ!要兄はおれと一緒に登校するって約束したもんっ!この人と二人きりにするくらいならおれが要兄についていく!!」





 もうずっとこんな感じである。棗って野良猫みたいに初見の人には大体懐かないんだよね。昔からそうだったけど、未だにそれは変わってないっぽい。まぁ、兄としてはそこが可愛いんだけどね!!!!俺だけにべったりっていう優越感感じる。



 だから、ダメだと思いつつも結局、そっかそっかぁ、と毎回穏やかな顔をして棗をなでなでしてしまうのだが、そうすると颯斗が決まって溜め息を吐くんだよ。ジトり、とこちらに黒い瞳が向けられる。





「……これは要にも原因があるんじゃないかな」




 要するに、甘やかしすぎ、ということらしい。



 
 颯斗にブラコン具合を指摘されるって相当だなってこの時自覚した。返す言葉もございません……。
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