俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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 メーデー、メーデー。





 至急応答求む。





 なんか色々あって風呂場でエッチな雰囲気になっちゃった友達との接し方について。





 ん?今の状況?




 いや、今は自由散策でさ。班とか関係なく個人で動いていいんだけど、田中が、




「成瀬ー、俺と山田行きたいとこあるからさぁ、お前鈴木と二人で良いよな?お前ら仲良いし」





 とかほざいてじゃ、ってどっか行っちゃったんだよ。もう俺の返事も聞かずに、仲良いよな?だけで終わりとか、そんなことある????いや仲良かったよ、昨日まではな!!!いや違っ、今も仲良いけど別に良いんだけどただ気まずいよね俺が!!!!




 ってなわけで俺とタッキーは二人っきりなわけです。え、控えめに言って死にそう。

 周り見ると同じ学校の子達以外にも、他校の修学旅行生や高校生、観光客に買い物客と、京都の街は人で賑わっていた。隙間のない、均等な美しい建物が成す歴史的な風景。




 なのに俺の目にはもうそんなものは入らない。頭の中大渋滞で視覚情報を処理して分析する余裕なんて消し飛んでいるからである。


 


 まぁ、何?昨日大浴場に二人で行ったらちょっとイロイロあって処理ができなくなったんで、光の速さで部屋に帰ったんだけどさ、もう何もできないくらい混乱してて気がついたら寝てたっぽいんだよ俺。これがあんまし覚えてないけど。ご丁寧に毛布まで被ってね。




 で、なんか目覚まし鳴る前に起きちゃって全部思い出したんだけど誰か助けて。



 死ぬほど恥ずかしい。俺なんであんなこと言ったんだろ…というか、何気に反応してしまったのがめっちゃ黒歴史。ちょっと耳触られただけであんなにビクビクしてたとか……今羞恥心に殺されかけてる。




 そんで朝起きた時もう俺大パニックよ、気まずすぎて話し掛けられなくて。不倫した後の朝ってこんな感じなんかなってくらいだわ。








 なのに、タッキーと来たら!!!





「ん、おはよ、カッキー」


 

「朝飯うまそー、あ、俺もコップ欲しい」



 
「今日の自由散策どうする?」







 なんっにも、マジでなんも、全く変わんねーの!!!!!





 昨日?浴場?耳?




 はにゃ?何のこと?





 ってレベルで何も触れてこないし通常運転だし全く気まずそうじゃないんだが??超普通に話しかけてくるから逆に俺がキョドって変な奴みたいになってる。




 え、昨日のって夢だったん?俺だけが体験した別の世界の出来事だったりする?




 


「どした?カッキー」



 



 一人で百面相していたら、タッキーが真剣な顔でこちらを覗き込んできた。うーんイケメン、じゃねぇ!!!





「いいいいいやっ?!何でもっ、何でもにゃいったぁ噛んだァ!!」




「ブフッ、リアルでそんな噛み方する奴初めて見た」






 いってえええええ!!!舌噛んだ……。





 動揺でガリッと思いっきり噛んだ舌の痛みに悶絶している間もタッキーはゲラゲラと笑ったままだ。怖いくらい、いつものタッキーのまま。ツボの浅さも変わってない。





 ええ……俺だけなの?俺だけこんな気にしてんの?

 




 なんかめっちゃモヤモヤするな、と俺は眉間に皺を寄せた。ま、まぁこいつ実質俺の耳触っただけだし、そんなえっちなことしたわけじゃないんかな?風呂場の熱気に当てられてのぼせてるうちに…とかあるかな。いやちょっとタッキーに限って無理があるくね?



 そう思っていたら唐突にタッキーに話し掛けられる
 



 

「お、抹茶アイス。カッキー、抹茶好きなんだっけ?」




 


 その問いに我に返って目を向けると、抹茶アイス、という幟を見つけて、慌てて頷く。えっ、あっうん。コミュ障みたいな俺の声が外気に落ちていく。





「じゃ、あれ食おう。俺買ってくるからそこで待ってな」







 え、と俺が発する前にタッキーは石畳の端の少し空いたスペースに取り残してお茶屋さんに向かって行ってしまった。え待って紳士……トゥンクしそう…ではなく、なんか非常に申し訳ない。



 


「………すうううううう」







 よし、よーし!!!!!

 

 俺はもう気にしない!!!

 

 昨日のあれは、あれだ、ただの戯れ合いというか、じゃれ合いみたいなもんだ。そうに違いない。うんうん、事故事故。そういうことにしとこう。



 しきりに頭を振って考えることをやめ、俺はそう思い込むことにした。思い込みって大事よな、それだけで自分を救うことができるし。一時的でも幸せって必要。



 行き交う人の中には着物を着た人とか、和菓子の袋を持っている人とか、外国人の観光客とか、本当にいろんな人がいる。なのに街並みはみんな平等に京の日本風景なのだから普通は風景として何だかマッチしなさそうだけど、不思議なことに京都の町はどんな人も京都の人にして背景に馴染ませるから面白い。あ、舞妓さんだ。やっぱり綺麗だよなぁ。





 ぽやぽやしながら道ゆく人を観察していると、ふと視界の端に珍しい髪色が目に入った。






「……うわ、すげぇ綺麗な紺色」







 少し遠いのと、人に紛れてるのとで後ろ姿しか見えないけど、綺麗な群青色の髪の毛が集団から頭一つ分くらい飛び出て見える。癖のないサラサラヘアーからして、あれは絶対にイケメンだ。うわ、やばい顔見たい。





 しかし、俺の邪な欲望は叶うことはなく、イケメン(確信)がこちらを振り返ることはなかった。人の間から後ろ姿がちらりと見えるだけで、すぐに遠ざかっていく。





 あーあ、せめて一回顔拝みたかったなぁ。






 割と本気で残念に思い、まだ何とか見えないかなと首を伸ばす。






 その時だった。






 

「あっ!!」






 


 距離があったけど、確かに見えた。あの紺色髪のイケメンが、何かを落としたのである。しかも当のその人は、落としたことにも気がついていないようですたすたと先に行ってしまう。







 咄嗟にお茶屋さんを見る。タッキーはまだ列に並んだままだった。俺は、それを見て迷わず走り出す。ごめんタッキー、何とか間に合わせるから!!




 心の中で絶対に届かない謝罪をしつつ石畳をスニーカーで駆ける。人と人の間を縫うように動きながら、イケメンが落としたものを拾った。どうやらそれはハガキらしい。端が大きく縒れているが、見ると達筆な字で宛名が書かれていて、裏には長々と文が綴られていた。あ、プライバシーなので流石にそれは読まなかったよ?





 全体的に何だかくしゃっとしていたが、それでもこれは大事なものなのではと俺の勘が働く。イケメンにシリアスは付き物だからな。



 

 俺は急いでハガキを片手に、前方にいるイケメン目がけて走る。すぐに追いついて、俺はその人に声を掛けた。

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