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しおりを挟む「あはははっ、平凡な名前だろ?逆に珍しくない?」
俺の思っていることが顔に出てたのかすぐに鈴木は笑った。確かに役所の見本とかでしか今どき見ない名前だけども。それで良いのか鈴木太郎。
「まぁ、何というか、頑張って生きろって感じの名前だな」
微妙な反応を返すしかなくて気まずげにそう言えば、彼は気にした風にすることもなく屈託ない表情で笑った。
「あははっ、でも慣れたらあんまり大変じゃないよ」
「えー……慣れちゃだめなんじゃない?」
「いんだよ、俺別に気にしてないし」
「お、おお」
そう言われるともう俺何も言えないよね。うん。君が良いなら良いだろう。うん。
というか、鈴木太郎の名を慣れたで終わらせられる君のメンタルは鬼強では。
「じゃ、なんて呼べばいい?」
「何でもいいよ、鈴木でも太郎でも」
「うわ出た、『何でも良い』」
「え?」
鈴木の言葉につい口走った俺に怪訝そうな顔が向けられる。いやこれは無意識。
俺もよく姉貴に言われてたわー、『何でも良い』はくそ腹立つからやめろって。それも殺しそうな勢いで睨んで言うもんだから途中から俺『何でも良い』は完全に封印したんだよな。
姉貴曰く、『何でも良い』は一瞬相手の意見を尊重しているように見せかけて実は相手に全ての判断を任せ、自分は何も関係ない、興味ないというスタンスが言動に現れたクソ発言らしい。いやめっちゃ個人差ありますな意見だなと俺は思ったが、姉貴の眼光が怖すぎて一瞬でお口チャックした。女性は怖い。
だから、姉貴の影響で俺は『何でも良い』という言葉に敏感だ。ちょっと会話して出てきただけですぐ気になっちゃうんだよなぁ。
「いやごめん、今のは無意識だった。なんか何でも良いって言葉、嫌ってる人が近くにいてさ、そのせいでちょっと気になっちって。他意はないよ」
頭を掻きながら言うと、あー、と少しきまり悪そうにする鈴木。ごめんね、なんかイヤミみたいになっちゃった……クソ気まずいなすまん。
ここは責任持って俺が雰囲気を直さないと。
「んー、鈴木も太郎もしっくりこねぇな」
「しっくりこないって……」
顎に手をやって考え込む俺に鈴木が苦笑する。いやだって、
「お前、めっちゃイケメンじゃん?なのに鈴木とか太郎とかなんか一致しなくてやだ」
「はっ……!?」
「え?何」
何気なく言ったら鈴木は顔真っ赤にして固まった。ん?俺なんかした?
「……これか、原因は」
……んん??
状況把握が出来ん。よく分からん。
…………ま、いっか!!(適当)
「うーん……どうしよ…すず…いや、リンリン…リンちゃん??」
「なんか不穏なあだ名候補聞こえる」
うーむ、なかなかいいの思い浮かばないな…俺あだ名とかつけるの苦手。
「お!!スズリングオリエン太郎とかどうよ?」
「……まじ?」
「うん」
「流石に却下だわ」
えー、すずもリンも太郎も取り入れた良いあだ名だと思ったんだけど。何でも良いって言ったクセに…まぁ、俺がそれ咎めちゃったんだけどね。
真面目に考えよ。単純なのがいいのかなー。
「うー……あ!これだわ!!」
「聞こうか」
突然神より舞い降りし名ニックネーム!!!
ふっ、これで完璧だ!食らえ鈴木!!
「『タッキー』!!どうだ、可愛くね??」
「……うん、まぁ、合格だな」
いや何その微妙な反応。
ちょっと複雑そうな顔をしているのを見るに、名ニックネームではなかったらしい。ええー、もしかして俺、ネーミングセンスねぇのかな。
そんな可能性が一瞬よぎったけど、俺は首を振って振り払った。うん気のせい気のせい。
「じゃ決まりな。よろしくタッキー。俺のことは…うーん、要がいいかな」
握手のつもりで手を差し出すと、鈴木…いや、タッキーは悪どい笑みを浮かべた。
「うんよろしく。ところで俺だけあだ名なのアレだし君のことはカッキーって呼ぶわ」
「…….え?」
待て待てなんだその牡蠣のゆるキャラみたいなあだ名。
と、思ったけどタッキーを命名したのは俺なので文句は言えなかった。無事に俺達仲良くタッキーとカッキーって呼ぶことになりました。
カッキーって呼ぶ度に吹き出しそうになってるのマジ許さん。
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