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しおりを挟む「うーむ…」
俺は今日も算数の授業中に颯斗を如何にして人間にするかを考えていた。
いっそのことこう、斬新なことしてみるのが良いかもなー。旅行とか行ってみる?家族で。そしたらちょっと子供らしさを引き出せるかも。いやでもそういうのって俺みたいな他人が邪魔して良いのか…?家族水入らずを邪魔するのはちょっと…。
「__じゃあこの計算を……成瀬君!」
「えっ?!」
うおっ?!何?!当てられた!
ちょ、聞いてなかったわやべ。
「えっと、あ、45です」
「正解!だけど次からはちゃんと授業を聞こうね?」
「ごめんなさぁい……」
うへぇ、聞いてないのバレてら……。
眉を八の字にして謝ると教室内にどっと笑いが溢れる。お前ら!人の不幸を笑うなんて!それでも人間か!?
ちょっと罰が悪くなりつつ俺は授業が終わるのを待った。正直23歳の記憶がある俺に学校の授業は睡眠薬でしかない。多分先生も俺が頭いいのは分かってるから今日はわざと聞いてなさそうな俺に当てたのだろう。いつもは当てないし。
キーンコーンカーンコン…
終業の合図。休み時間だ!と俺は弾かれたように顔を上げて席を立つ。
「要ー、外でサッカーしねぇ?」
「あーごめん、俺用事あるから!」
すれ違いざま、クラスメイトにサッカーやらドッジボールやらに誘われるが早口で断って、階段を駆け降りて一つ下のフロアに向かった。
ごめんなクラスメイトA、俺には生死を分ける日課というものがあるんだ!
「颯斗!!」
名前を呼びながらドアを開ければ、いつも通りクラスメイトに囲まれた颯斗が俺に気がついてにこやかに手を振る。
「ごめん、もう行かなくちゃ」
がた、と音を立てて椅子から立ち上がる颯斗に、周りのクラスメイト達が残念そうな顔をする。特に女子。すげぇな颯斗、小学生の頃からこんな囲まれて……俺、颯斗に殺されるより先に女子に刺されて死なないかな。夜道にご用心パターンじゃん。
「要、行こっか」
「…あ、うん!」
密かに女子に怯える俺の元に颯斗はなんでもなさそうな顔をしてやってきた。二人並んで廊下を歩く。なんか申し訳なくなってきた、今更だけど。涼しい顔で隣を歩く颯斗に思わず声を掛ける。
「俺が言うのもあれだけど、颯斗、毎日俺と居ていいの?」
「えっ、それを要が言うの?」
「うっ……だから先に言ったじゃん!」
罪悪感から尋ねれば、俺の心にぶっ刺さる返答が返ってきた。いやマジで何も言えない。教室まで毎回凸ってるの俺だし。
ブーメランすぎて落ち込んでいると、颯斗が不思議そうに首を傾げる。
「なんでそんなこと聞くの?」
「なんでってそりゃ……学年違うのに毎回来るの、うざいだろ?普通。クラスの子とも話したいだろうし…女の子とか」
ポリポリと頬をかきながら言うと、颯斗は珍しいものでも見るかのように目を細めた。
「…ふーん、要、そんなこと思ってたんだ」
「あっこら、なんだそのちょっと馬鹿にした言い方は!!」
心外だな、俺だって推しにこんな迷惑行為、自分の生死かかってなかったらしないし。俺は分別のある『破滅』ファンなんだぞ。
思わず食ってかかる俺に颯斗は軽く笑う。そして俺を追い抜いたと思うと、くるりと振り返った。
「別に気にしてないよ。あの子達とは別にそれほど仲が良いわけじゃないし」
「モテ男め………」
「そんなんじゃないよ………それに、どうせみんな同じだから」
「え?」
突然の意味深な発言に立ち止まって颯斗を凝視する。けれど颯斗は、変わらずにこにこして俺を見ていた。
その目が、温度の無いものでなければ、いつも通りの颯斗だった。
「ううん、なんでもないよ。要は特別ってこと」
しかし、それもすぐに元に戻り、俺はそれっきり颯斗に踏み込むことができなかった。代わりに、ぎこちない笑みを浮かべながら慌てて返事する。
「は、ははっ、俺は特別かぁ……俺も颯斗が特別だから両想いだな!」
できるだけ、ふざけながら明るく笑った。颯斗には、俺が害のない人間だと思ってもらわなければならない。だから俺はいつも笑って颯斗の会話を流すことにしていた。
どれだけおかしいと思うことも、何も知らないふり。馬鹿のふりをした方が、多分やりやすいから。
目の前には、闇のような黒目を緩やかに弧に描いた颯斗。
やり方は、間違ってない。
まだ、大丈夫なはず。
なのに。
「うん、そうだね。両想いだ」
なんでこんなに、不安になるんだろうか。
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