上 下
31 / 51

31

しおりを挟む
 ゆえに見捨てるもなにもない。
 私からすべてを奪っていった豚は、終いには妹の存在すら奪って消えていく。
 自分の気持ちに折り合いをつけるとするなら、まあこんなところだろう。

「おお、そうだともリディア。あとにも先にも、私たちのたった一人の愛娘はお前だけだ。必要な措置だったとはいえ、人豚へ飴を与えるためにお前には辛く当たってしまったことを深く詫びよう」

「これまでたくさん我慢をさせてごめんなさいねリディアちゃん。でもそれも今日で終わり。これからは貴方だけうんと愛することを約束するわ。飼育していた家畜のことなんて忘れて、家族三人仲良く暮らしましょ!」

「ありがとうお父様、お母様。そう言ってくれて私も嬉しいわ。新しくやり直しましょう、なにもかもすべて」

 今になって分かる。
 子供の頃より厳しく育てられてきたことこそが両親からの本当の愛情なのだと。
 ノブレス・オブリージュの精神を忘れ、他人に甘えてばかりでそれを恥いることも疑問に思うこともなく、まして自己研鑽を怠る姿はそれこそ人の形をしただけの家畜で、この貴族社会で生きている価値などありはしないのだから。
 
 そして今日まで真実をなにも知らなかった私だからこそ唯一手を差し伸べていたのに、豚はそれを拒んだ。
 致命的に間違えたのはそこ。
 楽に生きようと怠惰に身をやつしたことで、豚自身の手で自らが人ではなく豚であることを決定づけてしまった。

「おい、さっさと入れ人豚が!」

 両親と顔を見合わせて和解していたその最中さなか、後方で豚がようやっと『ファラリウスの雌豚』に押し込められているところだった。

「んぎゃあああ、やめろぉおぉぉっ! どいつもこいつも人殺しの頭がおかしいキ◯◯イどもめ、あたしに触るなここから出せぇーっ!」

 うるさいさえずりを遮るかのように、外側からガチャンと鍵がかけられる。
 人豚が金の豚に閉じ込められる様は、さながら肉にかけるスパイスのように皮肉が効いていた。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

この国の王族に嫁ぐのは断固拒否します

恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢? そんなの分からないけど、こんな性事情は受け入れられません。 ヒロインに王子様は譲ります。 私は好きな人を見つけます。 一章 17話完結 毎日12時に更新します。 二章 7話完結 毎日12時に更新します。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

いちゃつきを見せつけて楽しいですか?

四季
恋愛
それなりに大きな力を持つ王国に第一王女として生まれた私ーーリルリナ・グランシェには婚約者がいた。 だが、婚約者に寄ってくる女性がいて……。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

処理中です...